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信じていたVCから突然の「買い戻し」の要求・・・失敗から学ぶVC選びのポイント

「VCとの相性はしっかり見極めるべき」とは、スタートアップの世界でよく耳にする注意ポイントの1つです。なぜなら、VCから資金調達をした場合、5〜10年ほどかけて「同じ船」に乗ることになるから。そのため、心の信頼関係を築ける相手かどうかを見極めなければなりません。

しかし、最初は「この人なら」と思った相手でも、次第に関係性が悪くなってしまうこともあります。今回は、そんなパターンに陥ってしまったある起業家にインタビュー。その内容から「VC選びで気をつけた方がいいポイント」が見えてきました。

なお、この記事は特定のVCを非難する意図はなく、あまり表に出ることはないスタートアップとVCとの間に起きうるトラブルと、その対処方法の紹介を目的にしています。

※ Nstock は昨年12月にVC事業を開始することを発表していますが、この取材はそれ以前に実施されました。また、当社による投資助言を目的とした記事ではありません。
※匿名記事のため、一部の内容を加工し、特定できないように配慮しています。数字や事業内容などの一部情報は、仮の情報となっています。

Aさん

2017年に、ドローン技術を活用した事業を展開するスタートアップを共同創業。その際、VCから資金調達を実施している。

宮田 昇始(みやた しょうじ)

Nstock 代表取締役CEO 2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年にはシリーズDラウンドで海外投資家などから156億円を調達、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。2022年1月にSmartHRの代表取締役CEOを退任、以降は取締役ファウンダーとして新規事業を担当する。2022年1月にNstock株式会社(SmartHR 100%子会社)を設立。株式報酬のポテンシャルを引き出すメディア「Stock Journal」を運営している。

“何者でもない”時代に「応援するよ」と出資してくれた恩人だった

宮田 昇始(以下、宮田):まずはじめに、Aさんが起業した経緯から伺いたいです。

Aさん(以下、A):とにかく「ドローン技術で事業をやりたい」の一心で、2017年に友人と共同創業しました。当時は20代前半で、起業のこともVCのこともわからない状態でしたが、今動き出さなければと思ったんですよね。しかし、もちろん事業を始めるためには資金が必要なので、手探り状態で出資してくれる人を探したんです。そこで出会ったのが、とあるVCの方です。当時は事業もまだ形になっておらず、まさに「何者でもない状態」でしたが、そんな私たちに「応援するよ」と2,500万円ほど出資してくれました。

宮田:では、その方を仮に「Bさん」とお呼びしましょうか。出会った当初はどんな印象を持っていましたか?

A:Bさんの発言のすべてが新鮮で、キラキラした感じで見えていました。とてもお恥ずかしい話ですが、当時は出資してくださることが本当に有り難くて、「こんな私たちを信じてくれるBさんは本当に良いVCだ!」と信じて疑っていませんでした。

出資してもらってからは、Bさんに具体的な事業内容の相談を始めました。励ましの言葉もたくさんもらいましたね。サービスのリリース前後では泊まり込みで手助けにきてくれたこともあり、本当に助かっていました。ただ、私たちの事業が「ドローン」ということで多少の専門性が必要だったせいか、やがて相談をしても具体的なアドバイスを貰えなくなってきたんです。「人を紹介してほしい」と相談しても「つながりがないから難しい」と言われてしまったり・・・。

また、Bさんには自慢グセがあって、「自分が関わっている会社はこんなに上手くいっている」など、ときどき「あれ?」と思うような発言がありました。「こういう人柄なのかな」と思うことにしていたんですけれど、今思えば相性が悪かったのかなと思いますね。

宮田:徐々に違和感を持ち始めていたんですね。

A:そうですね。でも、Bさんには今も感謝しています。結果的に今回これからお話しするような関係になってしまいましたが、そのときに出していただいた資金がなければ今の事業は存在しません。出資してくれたBさんに報いたくて頑張ろうと思いましたし、私たちの会社が上場したらLP(Limited Partner = ファンドへの出資額に応じて責任を負う組合員)として出資させてもらいたいと考えていたほどです。

「ファンド期間を延長する」という話から一変、突然の「買い戻し」へ

宮田:ここから、Bさんとの関係に何があったのかを知りたいです。

A:先ほどお話ししたとおり、少しずつ違和感は重なっていきました。それが決定的になったのは、Bさんから買い戻し(創業者が、VCから株を買い戻すこと)を提案されたことがきっかけです。

宮田:なるほど。ちなみに、VCもファンドを作るためにさまざまな投資家から資金を集めていて、それをファンド満期(通常10年ほど)内にリターンをつけて返す必要があります。出資先のスタートアップの事業成長が難しくなったり、上場を望めなくなったりした場合には株の買い戻しを申し出ることもあると聞いていますが、その辺りはいかがでしょうか?

A:前提として、私たちの事業はコロナ前は伸び悩んでいた時期もあったのですが、コロナ特需をきっかけに事業が伸び始めたタイミングでした。Bさんからも「そろそろファンド満期なんですが、株主も説得してファンド期間を延長する予定です」と言われていました。

宮田:先ほどお話ししたとおり、VCのファンドはだいたい10年で満期になります。ですが、出資先のスタートアップがもう少し成長できそうだったりすると、2〜3年ほどの延長期間を設けられることがあります。Bさんは、その延長期間を使いますよと持ちかけてくれたわけですね?

A:そのとおりです。でも、その直後に偶然会ったタイミングで「やっぱり、急ぎで買い戻しをしてもらうかも」と、すごく軽い口調で言われて。

宮田:ずいぶんと話が変わりましたね。

A:あまりにも急展開すぎて、とても混乱しました。それにBさんの持ち分が約20%だったので、もしも買い戻しをするとなるとかなりの資金が必要になるし……。驚きと混乱で「なぜ買い戻しなのですか?」とすぐに聞き返しましたが、Bさんは「また話しましょう」と軽く返すだけでその場で話は終わりました。

VCから買い戻しを提案されるとは「事業成長を見込めない」と判断されたことを意味します。私はBさんにとても感謝していて、出資してくれた恩に報いたいと強い気持ちがありました。しかし、買い戻しの提案をされて、Bさんから明らかに期待されていないとわかり、とても悲しい気持ちになりました。

一方で、自社株を安く買い戻せるチャンスであることは事実です。買い戻しの経験がないので何から始めればいいのかわかりませんでしたが、行動は早いことに越したことはありません。買い戻しでもたもたしている間に、資金が底をついてしまうことだってあり得る。

そう考えて、どうにか折れそうな心を立て直して、Bさんへ「悲しいことではありますが、買い戻しさせてほしいです」と伝え、話し合いの場をセッティングしました。

根拠が乏しい交渉の末、2,000万円で買い戻す

宮田:VCは、起業家たちが素早く次のチャレンジができるように、買い戻しの請求はしないことが多く、もし買い戻してもらうにしても、時間をかけさせないという考えを持っていると聞きます。

A:そのようですね。私も買い戻しの金額が決まれば、すぐに進むものだと思っていました。ところが、交渉が思っていたより難航したのです。簡単にまとめると、以下のような流れでした。

  1. Bさんを交えて1回目の話し合いをスタート。出資額が2,500万円ほどだったため、Aさんは創業当時に出資してくれた恩を返したい気持ちも込めて5,000〜6,000万円で買い戻したいと提案。しかし、Bさんから「自分たちには買い戻しの経験がない」「株主やLPからどんな反応があるかわからないため、ここで金額を決められない」として、結論は持ち帰りとなる。
  2. 2回目の話し合い。Bさんから新しい担当の方へバトンタッチされていた。引き続き買い戻しの話を進めようとすると、新担当から「適切なプロセスを踏みたい」「買い戻しは第三者が決めた金額でなければならないため、まずは既存投資家や新規株主に声をかけて値付けしてもらう必要がある」と言われる。このときのBさん側の期待値は1億円だった。
  3. 金額を決めてくれる第三者の投資家を見つけ出すことに難航する。最終的には値付けしてくれる投資家が見つかり、株価を算出することになった。
  4. そこであまり高い価格がつかず、結果的に、Aさんは2,000万円で買い戻すことになった。そのための資金は複数の友人から借金してお金を集めた。

宮田:個人での資金集めはとても大変ですよね……。ただ、結果だけ見ると、想定よりも低い価格で自社株の保有比率が高められたので、必ずしも悪いことだけではないように見えます。ちなみに、Bさんとの投資契約書に買戻条項は入っていたんですか?

A:入っていませんでした。それに加えて、Bさん自身に買い戻しの経験がないことや、弊社の既存株主や新規の株主候補にもそういった値付けをしたことがない人ばかりでした。本来、買い戻しは相対取引でしっかり価格を決めて進める方法が一番シンプルでいい方法と聞きます。しかし、今回は第三者を巻き込んで価格を決めるというステップが入り、それに加えて誰も経験したことがないからどうすればいいのかわからず、ややこしいコミュニケーションが発生していました。

そして実は2回目の話し合い前に、Bさんから「業績が伸びてきているので、やはり買い戻しはやめてエクステンションを検討している」とメッセージが送られてきて。

宮田:また話が戻りましたね(笑)

A:私も「どういうこと?」と思いました。その理由を聞いてみると、Bさんは「他の人に話したら、そうしたほうがいいと言われたんですよね」と。買い戻しやエクステンションの話が激しく変わるうえに、発言の根拠が乏しいことに、違和感や不信感が募っていきました。さらに、このやりとりから「ああ、この人は私たちの事業に、またそこで働く社員に、まったく関心がないんだな」とわかりました。そのため、エクステンションの再提案はお断りしようと「改めて買い戻しをお願いしたいです」と伝えました。

宮田:そこから無事に買い戻しが完了するまで、どれくらいの期間がかかりましたか?

A:半年ほどかかりましたね。ちょうど事業が順調に伸びてきていて、ここで投資すればもっと伸びるとわかっていた時期だったので、買い戻しが完了するまで資金調達も何もできなかったのは非常に辛かったです。とはいえ、当初は5,000万〜6,000万円で買う覚悟を決めていたので、2,000万円になったことは不幸中の幸いでした。

初めてのVC選びこそ「中央値が見えるまでヒアリングせよ」

宮田:経験を踏まえて、後輩起業家に「VC選びで気をつけるポイント」を伝えるなら、何を伝えたいですか?

A:VC選びの前に、「資金調達に憧れすぎてはいけない」と伝えたいです。

資金調達はプレスリリースを出したり、金額が大きければニュースになったり、SNSで「おめでとう!」と言ってもらえる会社にとって大きなイベントで、憧れる起業家も少なくありません。

資金調達の前に、まずは「ある程度でいいので事業モデルを固めること」「そのうえで融資がいいのか、エクイティ調達がいいのかを考える」「エクイティ調達の場合、しっかりとVC選びをする」の流れで考えることをおすすめします。私のように創業期に資金調達をすることは問題ありませんが、事業モデルも何もない状態で始めると、そもそもの市場選択が合っているのかどうかもわからないのに大切な意思決定がいくつも為されることになります。VC選びもその1つですね。

もしも「顧客ニーズがどこにあるのかがわからないから事業モデルを作れない」ということであれば、それこそ宮田さんが創業したSmartHRのやり方を真似てみるのがいいと思います。SmartHRでは、創業時はお金をかけずにサイトを作り、それに対してリアクションがあったところへヒアリングをしてニーズを探っていたと聞いています。このように手持ちのお金でできる範囲でいいからカタチあるものを作り、ニーズ調査を始めてみる。そこから事業モデルを固めていくやり方は最も効率的です。

宮田:突然のホメ、ありがとうございます(笑)。

A:いや、私もそうすればよかったと本当に思っているんですよ(笑)。事業モデルがある程度固まったあとで、融資なのか、エクイティ調達なのかを考えられると間違いが少なくなると思うので。最近では大型調達も多いですが、そのイメージに引っ張られず「エクイティ調達はあくまでも選択肢の1つ」と捉えることが大事です。

宮田:エクイティ調達をやろうとなったら、いよいよVC選びが始まります。何から始めるといいですか?

A:なるべくたくさんのVCに会ってほしいです。初めての起業であまり知識がないならば、なおさら投資家にたくさん会っておいたほうがいいです。そのうえで、相性の良さを見極める。話していて違和感がなく、むしろ気持ちがいいと感じられる人を選ぶべきだと思います。

私はVC2社、エンジェル投資家1名に会い、そのなかから選びました。でも今思うと、10〜20名くらいに会っておけばよかったと思っています。相性がいいのかどうかが腹落ちするまでには時間がかかるものです。私もBさんについては「ひょっとして相性が良くないかも?」と、後になればなるほど頭を抱えることになったので、たくさんの人に会ってもう少し時間をかければよかったと思います。

宮田:「たくさんのVCに会う」は、私もそのとおりだと思いました。私はAさんと違ってたくさんの人に会うのが苦手なタイプですが、それでもVC選びに関しては少なくとも5名以上には会っておいたほうがいいと考えています。

また、実際に投資してもらわないことも多いと思うのですが、VCを見極めるポイントはありますでしょうか?

A:そのVCの出資先であるスタートアップに話を聞くのが一番です。先輩起業家は後輩に優しいので、直接アポイントをとっても答えてくれると思います。ただし、投資先企業のなかで目立って急成長中のスタートアップだけに話を聞くのはNG。出資されてまもないスタートアップや、まだまだ急成長中とは言えない状態のスタートアップなど、さまざまな立場にいるところへまんべんなく話を聞いてください。そうすれば、中央値が見えてくるはずです。

宮田:なるほど。「出資先スタートアップに話を聞け」は、私も受けたことがあり実践したアドバイスですが、その会社が伸びているのか、そうでない会社なのかは気にしていなかったので新しい視点です。できれば、うまくいってそうな会社と、色々と苦境に立った会社、両方の話がきけるといいですね。

A:それでも相性が悪いVCと出会う可能性があります。そうなったときのために、「NOと言える勇気を持つこと」は必ず持っておいたほうがいいと思います。忖度せずに、ちゃんと意見を言う強い気持ちも持ち合わせておくことが大切です。

宮田:NOと言える勇気は大事ですよね。これは、特に創業まもない起業家のみなさんに伝えたいポイントです。本日はありがとうございました!

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