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創業10年、100名規模になっても──Shippio代表・佐藤さんがストックオプション初付与時に1on1を欠かさない本当の狙い

株式会社Shippio 代表取締役CEO / 佐藤 孝徳

ストックオプション(以下、SO)を初めて付与する社員一人ひとりとの1on1を、創業から10年経ち、従業員数が100名を超える今でも続けている起業家がいます──株式会社Shippio(以下、Shippio)代表取締役CEOの佐藤孝徳さんです。

Shippioは、日本初のデジタルフォワーダーとして貿易プラットフォームを展開するスタートアップとして2016年に創業しました。2025年9月にAIで通関業務工数を約7割削減する「Shippio Clear」をリリースし、同年10月にはシリーズCで総額32.4億円の資金調達を発表。さらに住友理工やロゴスコーポレーション、ゴンチャ ジャパンなどの大企業による導入も相次いでいます。

今回のStock Journalでは、佐藤さんが今もなお初めて付与する際の1on1を欠かさず続けている理由、SOへの理解を深めたその先で描きたい世界観を伺いました。

佐藤 孝徳(さとう・たかのり) 株式会社Shippio 代表取締役CEO
2006年に三井物産に新卒入社。石油部、企業投資部を経て、中国総代表室(在北京)で中国戦略全般に携わる。2016年6月、国際物流DXを推進するShippio(旧・株式会社サークルイン)を創業。2018年にはITスタートアップで初めて第二種貨物利用運送事業者の許可を取得し、同年「デジタルフォワーディング」の提供を開始する。2022年に通関事業者である協和海運をM&Aし通関事業に進出。2023年には荷主向けSaaS事業の「Any Cargo」、2024年には国際物流事業者向けサービス「Shippio Works」を提供開始するなど貿易プラットフォームの展開を推進している。

ストックオプション本来の効力を発揮するには「価値や意義が伝わっている状態」が必要だから

──佐藤さんはShippioを創業してから現在にかけて、SOを初めて付与する人たちとの1on1を欠かさず続けてきたと聞きました。今日は、佐藤さん自らがSOを説明し続けようと思った経緯などを伺えればと思っています!

佐藤 孝徳(以下、佐藤):先にお伝えしておきたいのは、SOとは各社ごとの思想があれどシンプルに言えば創業者や経営者が「社員や株主、ステークホルダーのリターンの最大化や目指すべき方向性のアラインのために」と頭を抱えながら考えた末に設計されたものです。退職時の持ち出しや行使価格の設定など、その一つひとつにフィロソフィーがあります。

Shippio代表取締役CEOの佐藤孝徳さん

そして少し話を戻しますと、僕がSOを初めて付与する人との1on1を今も欠かさず続けているのは、次のような目的があります。

  • SOによる企業価値向上の「報酬」「自分ごと化」の要素を発揮させるため
  • 若手メンバーの金融リテラシーの向上をサポートするため

まずは「SOによる企業価値向上の『報酬』『自分ごと化』の要素を発揮させるため」についてです。前提として、SOには企業価値向上に対する「報酬」「自分ごと化」の2つの側面があります。前者の要素も大事ではありますが、僕が重視しているのは後者の「自分ごと化」です。

多くのスタートアップ経営者も話していることではありますが、SOがあることで企業価値向上が自分ごと化され、みんなが同じ目線で事業成長や課題に向き合えるようになります。

ただ、これが本当に機能するには、SOを渡された側がその意味を理解していることが前提なんです。ShippioにとってSOは「潜在的な株主として同じ目線で事業に向き合うための仕組み」という位置づけなので、価値や意義を理解してもらうことはとても重要だと考えています。

しかし、ここがなかなか伝わらない。これまでSOや株に触れることがなかった人たちからすると、なおさらピンときませんよね。

──そのハードルはありますね。

佐藤:そうですよね。

また、SOの価値や意義を伝えるうえで難しいと感じているのが「期待値調整」です。SOは企業価値を高めなければ意味がありません。過度な期待を持たせない一方、過小評価をさせない説明も必要なんです。

そのため、Shippioでは創業当初から、初めてSOを渡す際に必ず1on1で「どんな意味があるのか」「どんな思想で設計したのか」を伝えるようにしています。現在は丹羽さん(Shippio VP of Financeの丹羽剛さん)が全体的な説明をしたあとに、僕が1on1で話す流れになっています。

ストックオプションを含む金融リテラシー向上は「後進を増やす意味もある」

──1on1を続ける理由の2つ目である「若手メンバーの金融リテラシーの向上をサポートするため」についてはどうでしょうか?

佐藤:そもそも僕がShippioを創業した理由の1つは、前職である三井物産時代のスタートアップ投資に関わっていたころに「日本でもスタートアップ起業を当たり前にしたい」と思ったからでした。

この考えは、三井物産時代に中国総代表室(北京)での経験を経て、より強くなりました。当時の中国では、優秀な人材は当たり前のように起業していく風潮がすでにありました。

でも、日本では、誤解を恐れずに言えば「起業=就職できなかった人たちがするもの」という印象が強い時代でした。「強いビジョンを持ちながらリスクをとれる人がスタートアップを起業する社会に少しでも変えられないか?」。そういった考えが、Shippioの誕生につながったのです。

スタートアップは、基本的には「無理ゲー」と表現していいほどの苦難があります。だからこそ、リスクをとって挑んだ人たちは成功した暁には多くのリターンを得ている。

この成功談が広がることで「スタートアップってすごい場所なんだな」と思ってもらえます。そして、自分も挑戦したいと思う若手が増えていく。日本のスタートアップエコシステムの観点でも、SOを含む金融リテラシーの向上は大事なんです。ちなみに僕はまだ何も成功していませんが……。

──いえ、むしろShippioさんが目指す成功は“企業だけ”ではないからこそ、「特に若手メンバー」へのリテラシー向上に注力しているのだと感じました!

佐藤:そうですね。Shippioで働くみんなと一枚岩になって企業価値向上を目指すために全社員のリテラシーを上げることは当然大切なのですが、そのなかでも、若手メンバーの金融リテラシーを上げることは僕の起業家としてのミッションだと思っています。スタートアップで活躍する後進を増やす意味でも、ちゃんとやりたいところです。

──ちなみに、佐藤さんのSOに対する考え方は三井物産時代の影響を受けているところはあるのでしょうか?

佐藤:三井物産の企業投資部でスタートアップ投資を担当していたころにいろいろなケースを見ました。SOをうまく活用しているところもあれば、それを巡って関係性が悪化するところもありました。さまざまなケースを見てきた影響はあるかもしれません。

Shippioがあえて採用条件でストックオプションを強調しない理由

──ShippioさんにとってSOは「潜在的な株主として同じ目線で事業に向き合うための仕組み」と話されていました。具体的にはどのようにSOを設計しているのでしょうか?

佐藤:「なるべくフェアに設計すること」を最優先に考えています。

上場前後になると、社内ではSOの話題が上がりやすくなり「誰がどれくらい持っていたのか」が見えてきます。そうなったときに「えっ!?」とさせてしまうのは、一緒に頑張ってきた仲間に対して不義理になってしまいます。そのため、みんなが納得感のあるかたちにしたかったのです。

具体的には、このような設計内容になっています。

  • SOプールは15%(今後事業成長に応じた変更の可能性があります)
  • 業績の進捗を加味しつつ、毎年付与
  • 対象従業員のグレード、パフォーマンス、将来のポテンシャルを加味して配分

毎回、投資家のみなさんと話しながら「今期の事業進捗だったらこのぐらいのプールで」という感じで進めます。

「毎年付与」としたのは、社員一人ひとりが「頑張って積み上げてきたぞ」と実感する機会にしたかったからです。業績と連動しているので、大きな成果が出ると多くもらえますし、逆に、多少の滞りがあるとそれなりにしかもらえません。それでも、毎年積み上がっていくことで「何年もやってきてよかったな」と感じてくれる人もいるのではないかと思っています。

付与配分はCFOラインがドラフトを作り、それを僕が見て決定しています。SOは非常に重要なものなので、CFOと一緒に考えつつ、最終決定における責任は創業者である僕が持つようにしていますね。

──Shippioさんは、採用サイトを含めてSOに関する発信をされていませんよね。何か意図があるのでしょうか?

佐藤:SOを「採用の武器」として活用したいと思っているわけではないからです。SOを期待して入社されることも避けたいので、入社時の付与の約束はしていません。

ShippioでのSOの付与対象を「全従業員」としているのは、入社後に一緒にビジョンの実現に向き合って苦楽を共にしているメンバーのためです。そして先ほどお話ししたとおり、付与したからには、僕自身が説明責任を果たすべきだと考えています。そうやって、SOの期待値の水準を調整しているのです。

そういえば、ちょうどこの取材の少し前に、初めてSOを付与される2人とそれぞれ1on1をしてきたところです。スタートアップに慣れている人だと「うちはこんな感じです」と期待値調整程度で話し終わりますが、大手企業出身など、慣れていない人たちには概念から話します。

今回の1on1では「なるほど、面白いですね!」と言ってもらえました。僕としては、SOに込めた想いが少しでも伝わったらうれしいなと考えています。

創業者や経営者は「ストックオプションの納得感」を侮ってはいけない

佐藤:ここまでえらそうに話してしまったのですが、僕自身もSOで失敗をしたことがありまして。

──失敗ですか。

佐藤:過去に、Shippioでは信託型SOを出していたことがありました。その後、国から信託型SOへの見解が発表されました。Shippioではそれを受けて、すべての信託型SOを破棄し、現在のSOへ出し直しました。この一連の対応による損失は個人でも数百万円を超えるコストだったと覚えています(苦笑)。

誤解がないように断言しておきたいのは、僕が「失敗だった」と言うのは、本心ではやや納得できていないところがあったにもかかわらず、導入を決めてしまったことです。この経験から、今後はトレンドなどには流されず、僕自身が納得したものしか採用しないことを改めて決めました。

──当然のことではありますが、SOを出す側である創業者や経営者の「納得感」も大事ですね。

佐藤:スタートアップのなかには「CFOのほうがくわしいから」とSO周りを一任するケースもあると思います。しかし、SOは重要な資本政策の1つです。きちんと理解していないままSOを出すと、組織崩壊といったリスクにも直結するなど、大きなダメージを負うことになりかねません。先んじて違和感に気づくためにも、創業者や経営者の理解度や納得感は侮ってはいけないと思いますね。

あと、今話していて気づいたんですが、僕はやっぱり、SOを渡す以上はその意味を理解してもらいたいんだなと思いました。

──「ShippioがなぜSOを付与するのか」を知ってもらいたいということですね?

佐藤:そうです。冒頭でもお伝えしたとおり、SOとは創業者や経営チームが頭を抱えながら設計しているものです。渡す以上はちゃんと届いてほしい。誤解を恐れずに言うならば、理解していない人には渡せないという気持ちもありますね。

これからも「ストックオプションを初めて付与する人」との1on1は続ける?

──佐藤さんは、これからもSOを初めて付与する人との1on1を続けていく予定でしょうか?

佐藤:さすがに従業員数が5,000人規模になったら、SO配布のタイミングでの個別1on1を継続するのは難しいかもしれませんが(笑)。創業当初から続けていることなので、できる限り続けたいですね。

スタートアップとして会社を成功させるのは、一筋縄ではいきません。昨今では上場維持基準の変更もあり、スタートアップが上場するまでの期間は10〜15年になっていくことも考えられます。上場までの長い期間を戦い続けるためにも、日本でも社員が持つSOのセカンダリーのような選択肢ができるといいですよね。

Shippioはミッションである「産業の転換点をつくる」を貿易DXによって達成することを目指しています。全員で同じ方向を向いて頑張り続けるための仕組みとして、そしていつか成功した暁にはみんなで分け合える報酬として、SOの価値や意義をしっかり伝えていきたいと思っています。

──本日の取材で、佐藤さんの一本気を感じた気がしました。ありがとうございました!

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