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なぜ落とし物DX「find」は新株を1株も出さず“セカンダリーだけ”で2人の投資家を迎えたのか?

株式会社find 代表取締役CEO / 高島 彬

Boost Capital株式会社 代表取締役 / 小澤 隆生

Rice Capital 代表パートナー / 福山 太郎

「落とし物クラウドfind」を運営する株式会社find(以下、find)が2026年7月、Boost Capitalの小澤隆生さんとRice Capitalの福山太郎さんを新しい株主として迎え入れたことを発表しました。──そしてこれは「セカンダリー」によるものであり、「この2人に入ってほしい」というfindの強い思いで設計された資本参画でもありました。

なぜfindはBoost Capitalの小澤隆生さんとRice Capitalの福山太郎さんを迎え入れたいと思ったのでしょうか?また、買い手となった小澤さんと福山さんがfindに感じた魅力と可能性とは?お話を伺いました。

高島 彬(たかしま・あきら) find 代表取締役CEO
2013年にオリックス株式会社へ入社。環境エネルギー分野、オープンイノベーション分野に従事。在籍中に共同創業者である取締役COOの和田龍と知り合い、共に起業することを約束した。自身の落とし物経験からの着想を元に、2021年12月に株式会社findを創業。落とし物サービス「find」は鉄道をはじめとする各種交通機関、流通小売業を中心に現在全国50社以上に導入されている。

小澤 隆生(おざわ・たかお) Boost Capital 代表取締役
早稲田大学卒業後、SCSKを経て1999年にビズシークを設立、楽天へ売却。その後クロコスを創業しヤフーへ売却するなど、起業家としての道を歩む。楽天では楽天野球団の立ち上げ、ヤフーではEC事業の拡大、PayPayの立ち上げ、ZOZO・一休・ASKUL等の大型案件の統括を経て、2022年にヤフー代表取締役社長CEOに就任。 2024年にベンチャーキャピタルとPEのハイブリッド機能を持つBoost Capitalを設立、2025年にはAI特化のBoostConsultingを設立。

福山 太郎(ふくやま・たろう) Rice Capital 代表パートナー
2012年、Y Combinator初の日本人起業家として採択され、米国にて福利厚生SaaSのFondを創業。 Salesforce、Meta、Visaなどを含む企業にサービスを提供。2023年に欧州のEdenred社へ売却。2024年、日米スタートアップに投資するRice Capitalを創業。現在はAI領域を中心に投資を行い、累計投資先は200社。

宮田 昇始(みやた・しょうじ) Nstockホールディングス 代表取締役社長
2013年に友人と起業。2年間で10回以上の失敗を経て、2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年には海外投資家などから156億円を調達し、ユニコーン企業に成長。2022年にSmartHRの代表を交代し、自身が感じたスタートアップエコシステムの課題を解決するための新会社「Nstock株式会社」を設立。2025年には「Nstockホールディングス株式会社」に社名変更、グループ経営体制へ移行。

「落とし物をしたことはありますか?」

宮田昇始(以下、宮田):落とし物DXサービス「find」の株主になられたということで、まずはこの質問から行きたいのですが……小澤さんと福山さんは落とし物されますか?

小澤隆生(以下、小澤):家族全員がよく落とし物をしますね!私自身もつい先日、免許証を落としましたが、特に息子がひどくて。スーツケースを丸ごと置き忘れたり、中国でパスポートを落としたりして大変慌てたこともありましたね。

BoostCapital代表取締役の小澤隆生さん

宮田:すごいですね。福山さんはどうですか?

福山太郎(以下、福山):僕は、あまり荷物を持たないこともあってそれほど落とし物をしないですね。

宮田:素晴らしいことですが、あまり落とし物をしないとなると、findさんのユーザーの気持ちがわかりづらいかもしれませんね?

小澤:たしかに。あと、落とし物が見つかったときの嬉しさは半端ないですよ。福山さん、日本にいる間に一度落とし物をしてみてください(笑)。

高島 彬(以下、高島):そうですね、一度ぜひ(笑)。

福山:頑張ってみます(笑)。

セカンダリーのきっかけは「findに投資したい」という福山さんの熱量だった

宮田:本題に入りたいと思います。今回、findさんが発表されたのはいわゆるシリーズAやBのような新株発行をともなう資金調達ではなく、セカンダリーによって小澤さんと福山さんを新たな株主に迎えたというものでした。改めて、これまでの経緯を伺いたいです。

高島:ありがとうございます!プレスリリースでも発表したとおり、今回は「小澤さんと福山さんに株主として入っていただきたい」という思いから設計したものでした。小澤さんはヤフー時代などでのtoC事業の立ち上げとグロースの第一人者で、、福山さんはアメリカで事業を立ち上げ、海外事業者にExitまでした経験があります。現在のfindは国内でのtoB向け事業のみですが、今後はtoC向け事業や海外展開に本腰を入れるため、ぜひお2人に仲間になってほしいと思いました。

find代表取締役CEOの高島 彬さん

また、今回は「セカンダリーだけ」なので、findにお金が入ってくるというわけではなく、あくまでも既存株主の方の株を小澤さんと福山さんにバトンタッチしたことになります。

宮田前回は、高島さんたち創業メンバーの保有株をセカンダリーされていました。今回はどなたの株をセカンダリーされたんですか?

高島:今回のセカンダリーでは、初期の投資家に協力していただいたおかげで実現しました。投資実行から3年ほど経過し、取得価格比で一定のリターンをお返しできる水準であることから、応じていただけることになったのです。

宮田:そもそも、なぜ新株発行ではなくセカンダリーだったのでしょうか?

Nstockホールディングス代表取締役社長の宮田昇始

高島:実は、福山さんからは「投資したい」というオファーを以前からもらっていました。既存株主の方からも「福山さんがfindに投資できるチャンスはないかと言っている」と聞いていたくらいです。しかし、当時のfindは直近での資金調達の予定もなかったので、福山さんの入る余地がありませんでした。

そこで「セカンダリーだったらもしかしたら可能性があるかもしれません」と伝えたところ、福山さんは「むしろ米国ではセカンダリーはよくある手段なので、ぜひ!」と言ってくださったのです。これをきっかけに、既存株主の方々に声をかけ始めました。

宮田:既存株主の方々には先買権もありますよね?セカンダリーとなると、先に買いたいという方もいらっしゃいそうですが、そこはどうクリアしたんですか?

高島:今回セカンダリーで取引されたのは普通株ではなく優先株でした。そしてfindでは優先株をラウンドごとに種類株形式で発行していますが、残余財産の分配(会社を清算するときに、誰から先にお金を受け取れるか)の優先順位が違う程度で、それ以外はほぼ同じ内容です。今回お譲りいただいたのはシード期の種類株ですが、価格も直近のラウンドに揃えられました。

宮田:業績が好調なので、「価格が同じでも買い増したい」という株主もいらっしゃったんじゃないでしょうか?

高島:既存株主の方々にはストレートに「今回のセカンダリーは、企業価値向上のために福山さんと小澤さんに入っていただく設計にしたものなので、先買権の行使は控えてほしい」とお願いしました。みなさん、理解してくださっていました。セカンダリーの実施についても、希薄化が起きないことやtoC事業や海外展開に強い株主が増えるということもあり、大きな反対もなく受け入れてくださっていました。

「どうしても投資したかった福山さん」と「かなりイレギュラーだった小澤さん」が買い手になった理由

宮田:福山さんがfindさんを知ったのはいつごろだったんですか?

福山:僕がfindを初めて認識したのは、2年ほど前のICCサミット(Industry Co-Creationサミット)でした。でも、当時の僕は少し斜に構えてしまっていたこともあり、「高島さんから連絡があるだろう」と自分から連絡しませんでした(苦笑)。すぐに「なんであのとき連絡しなかったんだ」とすごく後悔しました。その翌年に再びICCサミットで高島さんにお会いして、強い気持ちを込めて「投資させてほしいです」と伝えました。

このときのfindは爆発的に業績を伸ばしていて、タクシーの車内だけでなく、あらゆる場所で広告を目にしていました。僕の知り合いも口々に「すごくいいサービスだよ」と言っていたくらいです。高島さんは「直近での資金調達の予定はないのですが、セカンダリーなら可能性があるかもしれません」と話していたので、「ぜひ」とお伝えしました。

Rice Capital代表パートナーの福山太郎さん

宮田:福山さんのファンドでは、セカンダリーはわりとよくあるものなのでしょうか?

福山:Rice Capitalでは、日本での投資の半分以上がセカンダリーです。

宮田:半分以上!それは意図的なものですか?

福山:いや、「チャンスがあれば」という感じですね。

レイターステージのスタートアップには、初期の株主に「一度投資を回収して確定させたい」というニーズや、創業者が持ち分を少し整理したいという話がけっこうな割合で出てきます。投資家としては、普通株の価格でレイターステージの優良なスタートアップに投資できるチャンスでもあるので、「セカンダリーのチャンスはないですか?」と一応聞くようにしていますね。先ほど高島さんも話していたとおり、今回のfindの場合は直近のラウンドでの取引価格になっていましたが、それでも僕は投資したいと思いました!

余談ですが、Rice Capitalでは1社あたりの投資額を1億円程度に抑えるようにしています。その理由は、創業者から10億円分も株を譲り受けると、大金が入りすぎて「経営へのモチベーションや集中力が切れてしまうのでは」と他の株主から不安視されることも多いためです。そこで、1億円というサイズ感でバランスをとるようにしています。

宮田:小澤さんは、いつごろからfindさんに注目していたんですか?

小澤:前々回(2025年9月京都)のICCカタパルト・グランプリ※で、審査員としてfindのピッチを見せてもらったときでした。よく落とし物をする立場としては「素晴らしいサービスだな」と。その後、しっかり数字が伸びている様子を見て、チャンスがあれば投資したいと思いました。

※ICCサミットの目玉となるピッチ・コンテスト、findはICCサミット FUKUOKA 2026(2026年3月開催)のカタパルト・グランプリで優勝している

宮田:Boost Capitalさんも、セカンダリーをきっかけに投資することはあるのでしょうか?

小澤:いえ、今回のセカンダリーはかなりイレギュラーなもので、ファンドとしては基本的には取り扱っていません。しかしながら、findはとてもすばらしいスタートアップです。手段はなんであれ、すばらしいスタートアップを応援するチャンスがあったので、セカンダリーで買い手になることにしました。投資家目線ではむしろこのタイミングで参画できたのはよかったですね。

宮田:今回のようなセカンダリー事例が増えていくことをどう捉えていますか?

小澤:スタートアップエコシステムの発展としては絶対に必要なことだと思います。我々もこれを機にどんどん増やしていきたいですね。

findが個人向け事業と海外事業の2軸で目指したいことは?

宮田:findさんは小澤さんと福山さんを株主に迎え、今後はtoC向け事業やグローバル展開を視野に入れているとのことでしたが、具体的にどういった事業展開を考えているのでしょうか?

高島:現在、findでは落とし物DXサービス「落とし物クラウドfind」を提供しています。具体的には、次のようなサービス内容です。

・事業者(鉄道会社・百貨店・空港など)向け:膨大な落とし物の登録・管理と問い合わせ対応を、SaaSと業務代行(BPO=業務プロセスの外部委託)でまるごとDX化。管理業務のコストを下げつつ返却率を高められ、警察への引き渡しまでワンストップで対応できる。

・落とし主(個人)向け:専用チャットから、コールセンターを介さずに落とし物を検索・問い合わせできる。電話でのたらい回しや長い待ち時間といったストレスなく、落とし物にたどり着ける。

findの既存ビジネスは力強い成長を続けていて、近い未来に数十億円規模まで成長させていきます。一方で、既存ビジネスである鉄道会社や百貨店といった事業者向けサービスでは、落とし物の数が急に2〜3倍に増えるわけではないため、単一事業だけではそう遠くないタイミングで成長が鈍化していきます。そこで今、動き始めているのが個人向け事業と海外事業の2軸です。

個人向け事業として考えているのは、サブスクリプションです。現在、findでは1日あたり約1万人の方々から問い合わせをいただくのですが、チャットで回答しているため30分〜1時間ほどお待たせしてしまうことがあります。その課題を解決するために、ファストパスのようなかたちで、優先的に落とし物を検索・特定する権利を得られるサービスを作ろうとしています。また、落とし物を見つけてくれた方に「お礼金」として、還元できる仕組みもやりたいと思っています。

そして一番の目玉は、貼るだけで落とし物が見つかるステッカーの開発です。前回のICCサミットでは、「会場の中でなら見つけられますよ」というコンセプトで試験的にステッカーを配布していましたが、今後は「find導入施設に届いたら通知がくる」という、貼るだけで見つかる「落とし物版切手」をリリースする予定です。

開発中のステッカー(イメージ)※find社提供

小澤:私もICCサミットでそのステッカーをもらってスマホの裏に貼っていたのですが……てっきり全国どこでも見つかるのだと勘違いしていたことに今気づきました。あぶなかった!

高島:これから、対応・開発していきますので!(笑)

宮田:リリースが待ち遠しいですね。そして、海外展開についてはどうですか?

高島:「落とし物」は、国を問わず共通の課題なので、「鉄道・エアライン・空港・商業施設」を大きな軸に、全世界で展開していきたいと考えています。落とし物管理システム自体は海外にも存在していますが、日本と同様にシステムを提供する側の立場が弱く、非常に小規模なビジネスにとどまっています。そこにfindが参入していきます。まずは、台湾とシンガポールで何かできないかと探っているところです。台湾については前回のラウンドで同国の投資家さんにも入っていただいていて動きやすいですし、親日的で文化も近い。鉄道インフラも日本のモデルを取り入れていることもあり、アプローチしやすいと思っています。

toC事業も海外事業も、findにとっては大きなチャレンジです。だからこそ、小澤さんと福山さんの協力が不可欠だと思っています。ぜひお力添えをしてもらいたいです!

福山:もちろんです!遺失物をめぐる課題は、日本固有のものではなく、世界中の空港・交通機関・商業施設・ホテルが共通して抱える普遍的なものです。「落とし物が持ち主に戻る」という日本の文化をサービスに落とし込み、誰もが再現できるインフラに進化させているfindにはすでに強みがあります。これからどんどん、findを大きくしていきましょう!

小澤:toC事業では、力になれることも多いと思っています。一緒にやっていきましょう!

宮田:findさんの今後がますます楽しみになりました!引き続き、応援しております!

後日談

「落とし物をしない」と言い切っていた福山さんですが、取材後、新幹線にお土産を置き忘れました。しかしその翌日に「落とし物クラウドfind」を通じて取り戻すことができました。

置き忘れてしまったお土産を取り戻した福山さん※福山さんご提供

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