スマホをなくして、役員報酬月3万円で創業。ARR15億円見込みのfind創業者がセカンダリーを決めた理由
株式会社find 代表取締役CEO / 高島 彬

「2026年12月末にはARR(年間経常収益)が15億円で着地する見込みです」──と、公式noteで発表したのは落とし物DXサービス「落とし物クラウドfind」を運営する株式会社find(以下find)でした。しかも、この発表をしたのは2025年秋!この時点ですでに翌年末に驚異的な数字が見えているとは、一体どういうことなのでしょうか?
今回のStock Journalでは、findの共同創業者である高島 彬さんにインタビュー。find創業のきっかけやサービス爆伸びの裏側を伺ってみると、浮かび上がってきたのは次のようなトピックでした。
- サービス開始以来チャーンゼロ、落とし物累計返却数は約2年で50倍以上
- 創業して1年ほどは役員報酬は月3万円だった話
- シリーズA調達時にセカンダリーを実施。きっかけは…
- 「株式報酬でお金持ちが誕生する会社」の真意
高島 彬(たかしま・あきら) find 代表取締役CEO
2013年にオリックス株式会社へ入社。環境エネルギー分野、オープンイノベーション分野に従事。勤務中に共同創業者である代表取締役COOの和田龍と知り合い、共に起業することを約束した。2021年12月に株式会社findを創業。落とし物サービス「find」は鉄道をはじめとする各種交通機関、流通小売業を中心に現在全国40社に導入されている。
宮田 昇始(みやた・しょうじ) Nstockホールディングス 代表取締役社長
2013年に友人と起業。2年間で10回以上の失敗を経て、2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年には海外投資家などから156億円を調達し、ユニコーン企業に成長。2022年にSmartHRの代表を交代し、自身が感じたスタートアップエコシステムの課題を解決するための新会社「Nstock株式会社」を設立。2025年には「Nstockホールディングス株式会社」に社名変更、グループ経営体制へ移行。
「落とし物」をテーマに、MRR平均120万、2026年末にはARR15億円を作り上げるまで
宮田 昇始(以下、宮田):findさんの公式noteを読んだのですが、昨年秋の時点で「2026年12月末のARRが15億円で着地する見込み」にはかなり驚きました!

高島 彬(以下、高島):ありがとうございます!findがサービスを開始した2023年時点の落とし物累計返却数は約2万件でしたが、2024年11月時点には約30万件、さらに2025年11月には約100万件と、この2年ほどで50倍以上に延ばすことができました。
宮田:約2年でその成長スピードはすごすぎます。まずは「落とし物」というテーマに注目した背景から伺いたいです。
高島:findは、落とし物をしがちな僕の原体験から生まれたサービスでした。
findを創業したのは2021年ですが、その少し前から事業の立ち上げ準備をしていました。とはいえ、なかなか事業アイデアが思い浮かばず。そんななか、僕がスマホとメガネをどこかに置き忘れてしまう事態が発生しました。鉄道、タクシー、居酒屋、カラオケなどいろんなところに慌てて電話をするも見つからない。その絶望感を解決するサービスがなかったことから「落とし物をした人を助けるサービスを作ればいいのではないか」と考えたのです。すぐに和田(find共同創業者、取締役COOの和田 龍さん)に話し、そのアイデアで起業へ踏み切りました。

宮田:僕もよく落とし物をするので、発覚後の絶望感はよくわかります。これまで4回ほどAirPodsを失くしていて、iPhoneの「探す」機能だけでは見つけられずに何度も絶望してきました。
高島:宮田さんも話してくださったように、落とし物をしたときの絶望感はとてつもなく、なおかつ見つけ出せないことも多い。
findでは当初、メルカリさんを参考に落とし物のCtoCマッチングアプリを作ろうとしていました。具体的には、拾った人が「こんなものを拾ったよ」とアプリにアップして、それを見た落とし主とマッチングする仕組みでした。しかし、実際に100人ほどのユーザーに使ってみてもらったところ「他人の落とし物を預かるのはちょっと」「届けるのが面倒」と不評の声が多かったので諦めることにしました。
ちょうどそのころ、同時進行で京王電鉄さんにデータ連携の打診をしていました。鉄道や百貨店、テーマパークなどの大型施設には日々多くの落とし物があり、問い合わせ対応や管理業務が膨れ上がる一方でした。京王電鉄さんに構内の落とし物を集めたバックヤードを見せてもらい、「落とし物が返ってくる日本」は現場のみなさまの大変な業務があってこそ、ということを知りました。
ならば、現場の業務を楽にすることで「落とし物が必ず見つかる世界」というビジョンを実現しよう──。そう考え、findは鉄道会社や空港、百貨店、テーマパークなど、大量の落とし物を管理している事業者さん向けのサービスへピボットすることにしました。

落とし物をすると、心当たりのある駅やタクシー、百貨店などの事業者に電話やメールで問い合わせる必要があります。その後、コールセンターなどに通され、手続きをして……とさまざまな手順を行ううえにけっこう待つ時間が長かったりします。そういった背景を踏まえて、findではLINEを通じて落とし物を検索できるようにしました。これなら、コールセンターを介さずすぐに落とし物を探せるようになるので、手続きなどによるストレスもなくなります。
またfindでは事業者さんの落とし物管理からお問い合わせ対応を丸ごとDX化するために、SaaSと業務プロセスを一括して外部に委託するアウトソーシング事業(BPO、Business Process Outsourcing)の2つを展開しています。具体的には落とし物を問い合わせる「落とし物専用チャット」と、事業者側で落とし物を登録・管理する「落とし物登録アプリ」「落とし物データベース」があり、この3つを組みわせることで、全国の交通機関・商業施設の落とし物情報を一元化。落とし主が落とし物を見つけられるだけでなく、事業者側の管理業務のコスト削減を実現しました。

最近では、警察やメルカリさんとの連携も始めました。交通機関や百貨店などでの落とし物は一定の保管期間が過ぎると警察に引き渡されます。そこでさらに3か月保管されるのですが、落とし主が現れなければ再び交通機関や百貨店に戻され、処分されることになっています。findでは、パートナー企業と連携し、警察に預けられて一定期間を経過した落とし物を引き取り、リサイクルできそうなものはメルカリさんを通じて販売するようにしました。


宮田:findさんの強みはどこにあるのでしょうか?
高島:大きな強みは、サービス導入後のスイッチングコストが高いことでしょうか。落とし物管理はデータ移行やオペレーション変更が極めて難しく、かつ事業のなかで優先順位が比較的低い領域であったため、システムをリプレイスする検討は先送りにされがちでした。ある鉄道会社ではWindows95時代のシステムを20年以上使い続けていたほどです。スイッチングコストが高い分、findのシステム導入時もそこそこのエネルギーが必要になりますが、おかげさまでサービス開始時から現在にかけてチャーンゼロです。
また、導入企業が鉄道や百貨店、空港などエンタープライズ企業が多く単価が高いため(1社あたりMRRは平均100万円超)、継続的な利用期間とあわさってLTV(ライフタイムバリュー)が大きいビジネスモデルということも強みになっています。そういった要素もあり、2026年末には売上がARR15億円超で着地できる見込みになりました(2026年1月現在は更なる積み上げで20億円弱を目指しています!)。
宮田:くり返しになりますが、サービスローンチからわずか3年でARR15億円に到達見込みとは、かなり驚きました!
セカンダリーのきっかけは「役員報酬3万円時代に読んだStock Journal記事」
宮田:findの共同創業者である高島さんと和田さんは、2024年のシリーズAの資金調達にあわせてセカンダリーも実施したと聞きました!
高島:そうなんです。というのも実は、創業して1年ほどは僕と和田の役員報酬が月3万円でした。
宮田:月3万円!?創業初期は役員報酬を低めに設定していたという起業家の話はよく聞きますが、月3万円は低すぎます。絶対に真似しないほうがいいですね……。
高島:けっこう大変だったので、僕も全くおすすめしないです(苦笑)。ちなみに「月3万円」にした理由は、会社で社会保険に加入できる最低の金額がたしか3万円だったからです。そのため、当時の僕らの手取りはほぼゼロでした。前職での貯蓄も限られていたので、家族や友人、先輩らに頭を下げてお金を借りてそれを資本金や生活費の一部にも充てていました。収益の目途が立つまでは、週に2〜3日を他のスタートアップのお手伝いを個人名義でさせてもらい、残りの時間のすべてをfindの立上げに費やす日々でした。当時お世話になった方々には本当に感謝しかありません。

宮田:セカンダリーを考え始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
高島:月3万円時代に読んだ庵原さん(ヤプリ代表取締役社長CEOの庵原保文さん)のStock Journal記事がきっかけでした!
宮田:なんと!Stock Journalの記事がきっかけだったんですね。それはとてもうれしいです!
高島:庵原さんの記事を読んで、和田と「いつか会社が大きくなったら僕らもセカンダリーができたらいいね」と話していました。月日は流れ、役員報酬もちゃんと出せるようになり(笑)、2024年9月頃からシリーズAでの調達検討を進めるなかで、投資家から「もっと投資したい」と言ってもらえました。ですが、希薄化の観点から新株発行分を増やすのは難しかったのです。そんなときにあの記事を思い出し、「このタイミングで、僕と和田の一部生株をセカンダリー取引をしていいかもしれない」と考えました。
宮田:投資家の反応はどうでしたか?

高島:「もう少し株価を上げてからのほうがいいのでは?」「役員報酬をもっと上げればいいのでは」という声もありましたが、基本的には歓迎してくださっていました。ただ、僕らとしては従業員のみんなに対して「創業者だけが先に利益を得ていいのか?」という不安がありました。
その後、偶然ICC(Industry Co-Creation)サミットで庵原さんにお会いできたので、その不安を打ち明けました。すると、庵原さんは「(事業の状態などを鑑みて)絶対にやったほうがいい」「創業者2人が金銭的な不安がなく事業に集中できるなら、投資家も従業員も関係者全員が応援してくれるはず」と背中を押してくれたんです。その話を聞いて、従業員のみんなにもわかってもらえるはずだという確信を持ち、背景を含めてすべてオープンに共有しました。和田と話し合った末に、ディスカウント率は20%とし、セカンダリーによって2人あわせて約6,000万円を手にしました。
宮田:セカンダリーで得たお金の使い道も知りたいです!
高島:僕はまず、創業時に家族や友人、先輩などいろいろな人から借りていたお金をすべて返済しました。そしてカードローンのアプリを削除し、カードにハサミを入れた瞬間は本当にすっきりしました(笑)。借りていたお金を返すという当たり前の行為なのに「あの高島がこんなに立派になって」と感動されて、これからしっかり恩返ししていきたい思いを強くしましたね。経費負担としない社内外の交流も多いのですが、気持ちよく自腹を切れるようになりました。
何より、家計の心配をしなくてよくなったことはメンタル的にも大きなインパクトがありました。ちょうど子どもの養育費がかさむタイミングでしたが、その心配もなくなりました。昨年はアフリカへ行ってサファリで気球に乗ったりして、思い出づくりにお金を費やしています。
findを「株式報酬でお金持ちが誕生する会社」にしたいと公言する理由
宮田:セカンダリーに対して、投資家の方々から「もう少し株価を上げてからのほうがいいのでは?」「役員報酬をもっと上げればいいのでは?」と言われたと話していましたよね?これらの意見をどう受け止めていましたか?

高島:そのとおりだと思いました。ただ「もう少し株価を上げてからのほうがいいのでは?」に関しては、「数年後の1億円より、来週に100万円をもらえるほうがいい」と当時の僕らは考えていました。findではバリューで「波が良かったら海へいこう」と表現しているように、一度きりの人生だからこそ日々の喜びを感じることを大事にしています。例えばfindが上場した後であれば、同じ放出株数で10倍以上の現金を手にできていたかもしれません。でも僕らは“今”資金を得て日々の喜びを感じることを優先しました。
「役員報酬をもっと上げればいいのでは?」については、当時はすでに前職時代の給与くらいに金額を上げていたので「これ以上は上げすぎかな」という感覚がありました。僕はfindを「株式報酬でお金持ちが誕生する会社」にしたいので、現金報酬の基準を必要以上に高くしたくなかったんです。
宮田:「株式報酬でお金持ちが誕生する会社」って、いいですね!もう少しくわしく伺いたいです。
高島:僕は前職のオリックス時代にスタートアップ投資を担当していました。そのなかで出会ったのが、セーフィーさんだったんです。投資して一緒に事業開発をする側として、彼らの組織規模が20名ほどのころから上場まで伴走させていただきました。
彼らがスタートアップとして苦境を乗り越えながら成長していく姿に感動したことはもちろんですが、それ以上にやはり衝撃的だったのが、創業初期メンバーのストックオプション(以下SO)の価値が何千万、何億となっていたことです。一方で、僕たちオリックス社員は評価とボーナスが上がったのは大変ありがたいことですが、身近なSO長者とはもちろん大きな差がありました(笑)。スタートアップとして成長していくだけでなく、その成功の果実を分け合うというダイナミズムをfindのみんなで味わいたい。そのため、findでは早い段階からSOを導入しています。

直近では従業員持株会もスタートさせました。奨励金は10%で、現在の加入率は95%です。従業員持株会には、僕と和田の生株を投入しています。従業員に還元する株式比率を15%にしたいので、SOプールを10%、従業員持株比率を5%にしました。
宮田:SO比率を15%にする選択肢もあったと思いますが、持株会を5%にした理由は何だったのでしょう?
高島:従業員持株会は、従業員自身が身銭を切り会社の一部を持つという点が、権利であるSOとは性質が異なります。その選択をすること自体がオーナーシップを高めると思っているんです。何より、従業員自身が「やる」「やらない」を決められるほうがフェアだと考えました。また、SOは全体感として、どうしても初期メンバーが厚めに傾斜され、ミドルフェーズ以降のメンバーは薄くなります。ミドルフェーズ以降のメンバーがリスクを取ってベットできる機会を創るという狙いもあります。
採用活動でも、株式報酬の話をしています。特にスタートアップ2周目の人材は理解があり「フルベットしたいです」と言ってくださる方もいらっしゃいます。
従業員一人ひとりがオーナーシップを持ち、みんなでfindを社会のインフラにしたい
宮田:セカンダリーをしたことを振り返ってみていかがですか?
高島:セカンダリーができるということは、投資家の方々から「この会社は伸びている、そしてこれから伸びていく」とお墨付きをもらっているということであると思ってます。僕の場合、借金を返せて、生活のお金の心配がなくなって、今まで以上にしっかりと事業に向き合えるようになりました。「事業が伸びていて、自分も投資家も喜びそう」という状況なら挑んでみてもいいかもしれませんね。
宮田:findの今後の展望も教えてください!
高島:findは、従業員一人ひとりがオーナーシップを持って会社の成長に向き合える企業にしたいと思っています。それによって、findを社会のインフラにしていきたいです。そのためにも、SOや従業員持株会をうまく機能させつつ、数年後には上場を目指したいですね。
宮田:落とし物をすると本当に辛いので、findさんのサービスには期待しかありません。応援しています!

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