「創業者だけ株を多く持っていても日本は良くならない」Cloudbase代表が“社員ファースト”な株式報酬制度を導入した理由
Cloudbase株式会社 代表取締役 / 岩佐 晃也

「株って、創業者だけがたくさん持っていても日本は良くならないと思うんです」
そう語るのは、Cloudbase代表の岩佐晃也さん。Cloudbaseではクラウドを使用する際にセキュリティリスクの洗い出しや監視、管理ができるプラットフォーム「Cloudbase」を展開し、2024年3月にシリーズAラウンドで総額12.5億円の資金調達を発表しました。「社員にしっかりとキャッシュで還元したい」と話す岩佐さんに、起業のきっかけやSOの設計プロセスについてお話を伺いました。
岩佐 晃也(いわさ・こうや) Cloudbase株式会社 代表取締役
10歳からプログラミングを始め、特にセキュリティ領域に関心を持つ。学生時代からさまざまなサービスを開発し続け、京都大学工学部情報学科在籍時にLevetty株式会社(現:Cloudbase株式会社)を創業。2年間で6回のピボットを経て、クラウドセキュリティ領域に至り、Cloudbase事業を始める。
宮田 昇始(みやた・しょうじ) Nstock 代表取締役CEO
2013年にKUFU(現SmartHR)を創業。2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年にはシリーズDラウンドで海外投資家などから156億円を調達、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。2022年1月にSmartHRの代表取締役CEOを退任、以降は取締役ファウンダーとして新規事業を担当する。2022年1月にNstock(SmartHR 100%子会社)を設立。株式報酬のポテンシャルを引き出すメディア「Stock Journal」を運営している。
「レアアイテムを999個ゲットしたい」プログラミングにのめり込んだ小学生時代
宮田 昇始(以下、宮田):Cloudbaseさんは日本企業向けにセキュリティプラットフォーム「Cloudbase」を提供しています。このアイデアは、岩佐さんが創業当初から持ち続けてきたものだったのでしょうか?
岩佐 晃也(以下、岩佐):いえ、そうではないんです。実は、Cloudbaseのアイデアは6回のピボットを経て生まれたものでした。ちなみに、宮田さんが以前どこかで話していた「12回までのピボットなら大丈夫」という言葉に励まされ続けてきた結果でもあります(笑)。

宮田:なんと(笑)。「6回のピボット」も気になりますが、まずは起業の経緯を教えていただけます?
岩佐:話は僕の幼少期まで遡ります。僕は2歳のころからゲームが大好きで、成長するにつれてさまざまなゲームに夢中になっていきました。10歳になってからは、ハードウェア系のシステムエンジニアだった父親のパソコンを勝手に使って、一気にプログラミングにのめり込みました。
そうすると、いろんなことができるようになるんですよね。たとえば、とあるゲームで「どうしてもレアアイテムがほしい!」と思ったら、バイナリデータを書き換えてから学校に行って、家に帰るとレアアイテムが999個になっている、みたいなことも(笑)。他にも、強敵の攻撃を自動で跳ね返せるようにしたりとか。今思えば、このころからソフトウェアの脆弱性というテーマは、身近な関心事だったのかもしれません。友だちのPSP(プレイステーションポータブル)をよかれと思って改造したら動かなくなってしまい、必死に修理した記憶もあります。そんな経験のおかげで技術力はずいぶんと上がりました。
宮田:なかなか濃い思い出ですね(笑)。
岩佐:僕も「変わった子どもだったのかな?」と思っていたのですが、同世代のセキュリティエンジニアに聞いてみると、みんな似た経験があるんですよね。彼らとの会話のなかで、子どものころにどうしてもできなかったプログラミングについて「あの攻撃はこうすれば跳ね返せたのか!」と盛り上がることもよくあり、今になって答え合わせができて盛り上がったりします(笑)。
その後、大学時代にはフリーランスとして複数のサービスを作っていました。次第に「偉大なサービスを作りたい」と思うようになり、ちょうどそのときに出会ったEast Venturesの金子さん(金子剛士さん)に「1,000万円を出資するから上京しなよ」と言われて起業することになったのです。それがLevetty(2022年にCloudbaseへ社名変更)でした。実際に、僕は金子さんに出資してもらったお金を使って、当時一人暮らしをしていた京都から上京しました。
サービス開始早々、名だたる大企業からの受注!その理由は?
宮田:6回のピボットを経て、今の事業に行き着くまでにどんなプロセスがあったのかを聞かせてもらえますか?

岩佐:当時はC向け、B向け、とさまざまなサービスを作って試行錯誤していました。Cloudbaseのアイデアのもとになったのは、1つ前の事業である「セキュリティの脆弱性を学べるサービス」です。これは「セキュリティを学びたいけれど何から始めればいいのかわからない」というエンジニア向けに、ハッキングをしながら専門知識を学べるものです。ここで、僕が子どものころにゲームのバイナリデータを書き換えていたことを含めた、セキュリティの経験が活きました。
利用料は買い切りで3万円でしたが、個人利用だけでも1週間で100万円ほどの売上がありました。そして驚いたことに、このサービスは想像以上に法人からの引き合いがあったのです。しかしながら、エンジニアとセキュリティ教育の掛け合わせだけだったのでマーケットに発展性がなく、成長性の限界がすぐに見えてしまいました。では、「どうしたらセキュリティ領域で、より成長が見込める事業が作れるだろう?」と考え、 とある起業家にアドバイスをもらいながら事業をブラッシュアップしました。そこで誕生したのが、現在のCloudbaseにつながるアイデアだったのです。
宮田:Cloudbaseがすごいのは、リリースして間もないころからスズキさんやエイベックスさん、出光さんといった名だたる企業に導入されているところです。そういった企業にはどんなニーズがあったのでしょうか?

岩佐:2020年の新型コロナウイルスの感染拡大を機に「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の言葉がバズワードになり、AWSのようなクラウドサービスが広く活用されていきました。
このときは大手企業をはじめ、ほとんどの企業が「DX=クラウドへの移行」と考えていたため、セキュリティに関しては“いったん後回し”にしていたんです。ところが、現在は機密情報もクラウド化されるようになり、各社それぞれ「セキュリティに関してはどうすべきか?」を課題視しはじめたのです。

宮田:「クラウド化して終わりじゃない」と気づき始めたわけですね。
岩佐:そのとおりです。そうして多くの企業が海外発のセキュリティサービスを導入するのですが、その大半が高度な専門性を要するものなんですよね。いわば、“お医者さんしか扱えない医療機器”のようなサービスばかりで、それでは使いこなせる企業が限られてしまいます。
その課題に着目して、Cloudbaseでは「誰でも一定水準の効果を得ることができるサービス」を作っています。具体的には、企業のクラウドサービスをスキャンし、セキュリティリスクを自動診断。さらに「こうしたほうがいいですよ」と 解決方法の提案まで行うことで、セキュリティにくわしくない人でも適切な対応ができるようになります。いわば、お医者さんしか扱えなかったはずの医療機器を誰でも扱えるようにわかりやすく解説・サポートし、止血方法まで提案するイメージですね。
このサービスを思いついたのは2022年1月で、すぐに「どれくらいニーズがあるのか」を確認するためにテストマーケティングを実施しました。すると早速20社ほどの申込みがあり、うち8割ほどが契約に前向きだったんです。強いニーズを感じたため、3月に急いでβ版をリリースし、8月には正式リリース。エンタープライズ企業からの反響も多く、同月にはスズキ社との契約にいたりました。現在では、大手企業の導入者数は20社を超えました。
宮田:すごい! 数々のピボットをくり返してきたとのことでしたが、それでも折れずにやり続けてきた結果が出たんですね。
「こんなにも大変なのか・・・」新株価算定ルールのもと、はじめてのSO発行
宮田:Cloudbaseさんは、2024年2月にシリーズAのファーストクローズを終えたところで、ほぼ同時期にSOの設計も始めていますよね。なぜこのタイミングだったのでしょうか?
岩佐:資金調達後にはバリュエーションが上がるので、その前に完了させたいと思っていました。本当はもっと早くスタートしたかったのですが、当時は信託型SOの話題もあったので、適切なタイミングを待つことにしたんです。そして見解が概ね整理された昨夏に、Nstockさんが無料で公開している税制適格SOの雛形キット『KIQS』を用いて、できるだけ早くSOを発行できるようにと動きはじめました。

宮田:制度設計はどのように進めたんですか?
岩佐:Cloudbaseでは当初から「SOプールは20%」と決めていました。これまで使っていたJ-KISSにはSOについて具体的な記載はなかったものの、投資家の方々にはずっと「20%で進めたい」と伝えていて、合意してもらっていました。
ここからは少しNstockの宣伝みたいになってしまいますが(笑)、実際にNstockのKIQSを活用しながらやってみると「何を決めるべきか」「何を軸に考えるべきか」がよくわかり、あまり迷わずに進められた印象です。僕らにとって初めての株式報酬制度だったのでかなりコストがかかる覚悟をしていたのですが、要点がわかりやすく絞られていて、実際に使われているSOの事例などもわかりやすくKIQS内に書かれていたので、階段をぐっと駆け上がれるような感覚がありましたね。
宮田:KIQSを活用してくださってありがとうございます! 一方で、困ったことは何かありましたか?
岩佐:設計してSOを、実際に発行するまでの実務は想像以上に大変でしたね。「KIQSがあれば発行まで簡単にできる!」と勝手に思い込んでいたのですが、株価を算定してくれるパートナー企業を探して、税理士さん、弁護士さんにそれぞれ相談して……という、フローは「こんなに大変なんだ」と実感しました。ちょうど税制改正が発表されたタイミングだったので、新しいルールがわかる人材がなかなか見つからなかったり……。実際に、国税庁の発表を見て「純資産価格で株価を算定できると聞いたのですが」と問い合わせても「無理ですね、会計上おかしくなってしまいます」と言われてしまったり(笑)。
宮田:補足すると、2023年7月の改正租税特別措置法通達で、税制適格SOの新株価算定ルールが発表されました。それにより、「取引相場のない株式については、純資産価額方式で算定することができる」ようになり、未上場のスタートアップは税制適格SOの行使価額を非常に低く(多くの場合1円で)設定できるようになったんですね。
しかし、まだ新ルールを理解している人が少なく、簡単には進められなかったわけですね?
岩佐:はい、スムーズには進まなかったですね。しかし、最終的には監査法人であるFRIQに相談したところ「対応できます」と言っていただき、無事に純資産ベースで株価を算定してもらえました。
そのほか頭を抱えたのは、「べスティング条件をどういう基準で決めていくか」でした。具体的には、「起算日は入社日にするのか、上場日にするのか」「1年間のクリフをつくるのか」などの点ですね。結果、Cloudbaseのべスティング条件は「25%✕4年」「入社日起算」で決定。また、M&Aがあった場合もSOが消滅しないようにしました。

宮田:米国水準の条件になっていてすばらしいですね。社員のみなさんにとっては喜ばしい条件のSOなので、しっかり説明してその魅力を伝えたいですね。
岩佐:実は、初回発行の対象となるメンバーにはすでに説明会を実施し、大まかなSOの仕組みやべスティング条件などを伝えました。印象的だったのは、意外にも契約書を読み込んでくれている社員が多かったことですね。論文を読み慣れている理系出身者が多いからでしょうか(笑)。踏み込んだ内容に対しても「こういう場合はどうなりますか?」と、しっかり理解するための具体的な質問も多かったです。
また、SOの説明で一番反応が良かったのは、やはり「退職時の持ち出し」の部分でした。Nstockさんも他記事でよく仰られていますが、人によって「0→1」が得意な人もいれば、「1→10」が得意な人もいます。そのために組織の流動性を高めることは非常に大切だなと感じたので、弊社でも「退職時にSOを半分持ち出せる」という条件にしました。実際、社員からポジティブな声も挙がっていて、前向きに捉えてもらえたのかなと思っています。
宮田:なるほど。ではCloudbaseさんでは、入社された方が4年在籍したら付与されたSOをすべて行使することができ、仮に退職する場合はそのうち50%が残るんですね。採用候補者の方に、SOのことを伝えたりしていますか?
岩佐:していますね。上記のSOの条件説明はもちろんのこと、今後は評価制度と連動させながら運用していくことをお伝えしています。なかには「SOに興味がないです!」と言い始める人もいますが、そこは「いや、持ってくれ!」とひと言断りを入れ、できるだけ手厚く説明をするようにしています(笑)。
直近では、他社とCloudbaseで入社を迷っていた方が、「会社でやりたいこととSOの内容が一貫していることが響いた」と、劣勢状態から逆転して入社を決めてくれるケースもあり、とても嬉しかったです。
日本経済に“ワクワク感”を。だからSOは“社員ファースト”なものに
宮田:Cloudbaseさんが考えたSOの詳細を伺っていると、とても社員ファーストな条件だと感じています。その背景にある、岩佐さんの想いを伺えますか?
岩佐:理由はとてもシンプルで、創業者である僕がたくさん株を持っていてもあまり意味がないと思っているからです。仮に、Cloudbaseが時価総額1兆円以上の企業へと成長したときに、僕だけが莫大なキャッシュを持っていても日本は良くならないんですよね。それよりも、社員のみんなにSOで十分なキャッシュを得てもらい、Cloudbaseが成長するなかで溜まった知見とともに起業や投資をしてもらうほうが、絶対にいい。僕は、会社を大きくすることはもちろんですが、それ以上に日本に偉大なスタートアップを増やしたいと思っています。そう考えると、たとえばSOプールが10%とかでは、ぜんぜん足りないんですよね。

宮田:SOを通じて、スタートアップエコシステムに寄与しようとしているんですね。
岩佐:そのとおりです。日本を盛り上げるために“Cloudbaseマフィア”を増やしたいと思っています(笑)。
僕は今27歳なのですが、これまでずっと「沈みゆく日本」と言われる時代を生きてきました。世界との圧倒的な差がついてしまい、サッカーでいうならば「もう勝てないね」と観客が諦め、帰り始めている……って感じで。僕はそれがとても悔しいし、ここから少しでも上向く時代をつくりたいんです。せめて「まだここから逆転できるぞ!なんとかなるぞ!」といったワクワク感を生み出したい。
Cloudbaseの新ミッションは「日本企業が、世界を変える時代をつくる。」です。スタートアップとして僕らが頑張るだけでなく、大企業が持つ既存のアセットとソフトウェアなどの技術を組み合わせることで、日本から偉大なサービスが生まれるようにしていきたい。また、Cloudbaseを成功させるだけでなく、ここで育まれた人材や知見をスタートアップエコシステムへ還元していくことも。株式報酬制度には、そういった想いを反映したつもりです。

宮田:自社だけでなく、日本全体を盛り上げるための設計になっていたんですね。
岩佐:そうですね。まだまだ道半ばですが、この株式報酬制度をきっかけに優秀なメンバーが自然と集まってくるようなチームにできればと思います。
シリーズAなのでこれからではありますが、「日本企業が、世界を変える時代をつくる。」を実現するために挑戦し続けます。
宮田:僕らも引き続き応援させてください。本日はありがとうございました!

Cloudbaseからのお知らせ
今回、インタビューに応じてくださったCloudbaseさんのサービスサイトと導入事例、採用ページをご紹介します。ぜひご覧ください。
- サービスサイト https://cloudbase.ink/
- 導入事例 https://cloudbase.ink/#case
- 採用ページ https://cloudbase.co.jp/careers
Nstockからのお知らせ
株式報酬SaaS Nstockのサービスサイトでは、ユーザーさまの導入事例などさまざまな情報を公開しております。ご興味のある方はぜひご覧いただけますと幸いです。
- サービスサイト https://nstock.com/
- 導入事例 https://nstock.com/case/p/1

