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ストックオプションの契約手続き、もっと楽にできるかも?

ストックオプションの基礎知識

ストックオプション(SO)の発行手続きには「枠取り」「申込割当方式」「総数引受契約方式」といった専門的な概念が登場します。しかし実務の現場では、これらの違いを正確に理解した上で発行方式を選んでいる会社は多くありません。過去のやり方をただ踏襲していたり、顧問弁護士に任せきりにしていたら、実はもっと効率的なやり方があった——そんなケースも珍しくありません。

顧問弁護士から「SOの枠取りをするか?」と聞かれたが、よくわからない
総数引受と申込割当の違いがわからない。どちらの方式でSOを発行すればいいのか?
割当決議を行って契約書を送付したあとに「やっぱり締結しない」と連絡があった。どうすべき?

本記事では、実務的な観点も踏まえた上で、上記質問への回答をまとめています。記事の内容はNstock社顧問の山下総合法律事務所のレビューを受けていますが、実務者視点での読みやすさを優先し、ごく一般的なケースを想定した内容になっています。個別事案への適用にあたっては、適切な専門家にご相談ください。また、説明の簡略化のため、非公開会社(発行する全ての株式について、譲渡に会社の承認を要する旨の定款上の定めがある会社)かつ取締役会設置会社を前提とします。

募集事項を定める。ついでに「枠取り」しとく?

冒頭から少し難しい話になりますが、会社法上、SOの付与は新株予約権の第三者割当に該当するため、会社法の規定に基づいた新株予約権の発行手続きが必要です。

“株式会社は、その発行する新株予約権を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集新株予約権(当該募集に応じて当該新株予約権の引受けの申込みをした者に対して割り当てる新株予約権をいう)について募集事項を定めなければならない”(会社法238条1項より)

SOを発行する場合、まず上記の募集事項(会社法238条1項)を株主総会で決議する必要があります。ざっくり言うと、募集事項とは「どんな内容のSOであって、どのような条件で交付されるのか」に相当するものです。

募集事項には、SOの目的株式数(SO1個が何株になるか)・行使期間・行使価額などの内容、SO自体の発行数や払込金額その他の事項が含まれますが、その中には株主総会でしか決められないものと、株主総会から取締役会に決定を委任できるものがあります。後者の委任は、割当日が当該委任決議の日から1年以内である場合に限り有効です(会社法239条1項・3項)。実務上、株主総会で「今後1年間で発行するSO個数の上限」やその他の株主総会でしか決められない内容を決議しておき、その上限内で「いつ何個付与するか」などについては、取締役会に決議を委任するケースが多いです。そうすることで、取締役会で機動的にSOを発行できるようになります。SOを発行するたびに株主総会を招集するのは大変ですからね。これを実務用語で、SOの「枠取り」と呼びます。

枠取りは1年間に限り有効なので、年に1度しかSOを発行しない場合や、発行のたびにSOの発行要項に定める行使条件(株主総会で決議する必要)があれこれと変わるような場合は、枠取りのメリットはありません。例えば、半年ごとに従業員に付与している、キーパーソンの採用の都度付与している、といった同条件のSOを年に複数回発行するような場合におすすめの手続きです。

というわけで、株主総会で募集事項を定める際は、ついでに「枠取り」もしておくべきかご検討ください。

「SOの発行方式」と聞いてピンときますか?

SOの「個数(株数)」だけを見ても、実はその価値は判断できません。「10,000株分のSOがもらえる」と聞くと数字が大きくて何となくお得に感じますが、その会社の発行済株式総数が1億株なら0.01%に過ぎません。大切なのは、会社全体のなかで自分が持つ割合(持分比率)と、それが現在および将来どの程度の経済的価値を持つかです。

まず、現在の時価総額(直近の資金調達ラウンドの評価額など)をベースに、自分のSOの価値を試算してみましょう。たとえば時価総額50億円の会社で0.1%分のSOを持っていれば、単純計算で500万円分の価値があります(実際は行使価格をコストとして考慮する必要がありますが)。

次に、会社が将来成長した場合のシミュレーションも重要です。仮に時価総額が10倍の500億円になれば、同じ0.1%でも5,000万円になります。もちろんこれは希薄化(追加の資金調達やSO発行による持分の減少)を考慮していない楽観的な計算ですが、SOのポテンシャルを理解する目安にはなります。なお、会社のフェーズがアーリーなほど将来の資金調達による希薄化の影響を受けるので、将来の持分は現在より目減りする前提で考えておくのが現実的です。

提示されたSOの個数(株数)が「全体の何%にあたるか」を会社に確認し、自分なりにシナリオを描いてみることで、SOの価値がぐっとクリアになるはずです。

1-1. 申込割当方式(しっかり版)

SOを付与したい従業員に対し、前述の募集事項などを通知します。この時点で付与はまだ確定しておらず、従業員の「もらいます!」という意思表示(=引受けの申込み)が必要です。これは、従業員が会社に「新株予約権引受申込書」を提出することで完了します。引受けられたのでこれで付与が完了!…とはならず、従業員からの引受けの申込みを受けた会社は、その中から「誰に何個付与するか」を決めるために取締役会で割当決議を行い、割当てを従業員に通知します。この一連の発行方法が、申込割当方式です。①会社から従業員への募集事項の通知(募集)→②従業員による引受けの申込み→③会社による割当決議と割当通知、とキャッチボールが多くてちょっと面倒くさいのが申込割当方式です。便宜上、この方法を「申込割当方式(しっかり版)」と呼びます。

1-2. 申込割当方式(簡易版)

手間のかかる「しっかり版」のほかに、申込割当方式には「簡易版」とも呼ぶべき方法があります。従業員から引受けの申込みがされることを条件にして最初に割当ての決定を行うことで、上記の①~③を簡略化できるのです具体的には、募集事項を決定する取締役会の決議の際に、一緒に③の割当決議まで行うことが可能です。この場合、会社による①の通知の時点で(条件付きの)③の通知ができるため、①と③の通知を同一の書面で行うことができ、かつ、同じ書面を従業員の申込みにも用いれば、結局①~③のためには一通の書面を作成すればよいことになります。従業員にSOを付与する場合、「どんな内容のSOであって、どのような条件で交付されるのか(=募集事項)」と「誰に何個付与するか(=割当の内容)」は同時に決まっている(決めることができる)ことが多く、また、未上場のスタートアップで最も使われる税制適格SOは「無償」であり、付与対象となった従業員が「引受けない(=付与を断る)」ということはあまり想定されません。したがって、回りくどい①〜③のキャッチボールをするよりも、①~③を一つにまとめてしまった方が時間もかからず、また会社と従業員間でやり取りする書面も1つで済むというメリットがあります。

Nstockが無償公開しているKIQS(税制適格SOの契約書ひな型キット)も、この簡易版の申込割当方式での発行を前提としています。KIQSの契約書は「新株予約権割当契約書兼申込証」という名称で、「会社による募集新株予約権の申込みをしようとする者に対する通知(会社法242条1項)」、「申込みをする者による会社に対する書面の交付(同条2項)」、「会社による申込者に対する割当数の通知(会社法243条3項)」の①〜③を1つの書面で兼ねています。

SOの発行方式を決めよう。結局どっちがいい?

ここまで読むと、総数引受方式=申込割当方式(簡易版)>申込割当方式(しっかり版)、の順で実務上のメリットがありそう(要は楽そう)に見えます。結局のところ、どの発行方式を選ぶのが正解なのでしょうか?総数引受方式と申込割当方式には法的な構成以外にもいくつか違いがあり、状況に応じてどちらが好ましいかの答えは変わってきます。1つずつ見ていきましょう。

「SOを断りそうな人」がいるなら申込割当方式の簡易版 or しっかり版

会社が付与してくれるSOを断る人なんているの?と思われるかもしれませんが、意外といます。一番多いのは、付与するSOが有償SOの場合です。無償の税制適格SOと違い、もらう時点で発行価額の払込が必要なため、従業員の中には「行使できるか分からないのに、最初に持ち出しがあるのはリスクが高い」と判断して引受けない人がいても不思議ではありません。ほかにも「SOって怖そうだから要らない」というリテラシーに問題がありそうなものや、「実は近々退職するので要らない」というものまで、従業員がSOを断る理由はさまざまです。

付与対象者がそれほど多くない場合(※例えば過去3か月間通算して50名未満の場合)や特定の人にピンポイントで付与する場合(※会社及びその完全子会社・完全孫会社の役職員の場合)は、予め全員とコミュニケーションを取ってSOを引受けるかどうかが確認できるので、総数引受方式か、あるいは(断る人が出てきそうであれば)申込割当方式(簡易版)を選択すると良いと思います。一方、対象者が多いなどの理由で予め全員に引受けの意思を確認できない場合(SOを引受けない人が出そうな場合)、①募集→②申込み→③割当の申込割当方式(しっかり版)を選択し、②の申込みを行った人のみに③の割当てを行うやり方が無難です。ただ、このやり方でも、会社からの通知を見落としていて申込むのを忘れていたというケースがありそうなので、結局実務上は「本当に申込みは不要ですか?」という確認が必要になりそうな気がします…。

決議後に「やっぱり要らない」って言われたら?

先程も述べたように、総数引受方式を選択した場合、発行決議(募集事項決定の決議)で決めた個数ぴったりが引受けられる必要があるため、総数引受契約の承認決議後に何かしらの理由で契約しない人が出てきた場合、個数が変わって「総数引受け」ではなくなってしまいます。この場合、個数を修正して決議をやり直す必要が生じます。もしそれが株主総会決議であれば大変な手間になってしまいますし、取締役会決議の場合でもやり直しは大変です。

これに対して、申込割当方式の場合、発行決議で定めた総個数の範囲内であれば、引受けの申込みがなかった人の分を除いてそのまま割当てが行えます。例えば、簡易版で発行した場合、発行決議の際に、「引受けの申込みがされることを条件に」割当決議を行うのですが、この場合、引受けの申込みをした人(「SOをもらいます」と手を挙げた人)のみが、割当決議における割当先になります。そのため、仮に一部の人がSOを「やっぱり要らない」と言っても、残りの人にSOを割り当てることができるのです。

登記は総数引受方式の方が面倒くさい

SOを発行した場合、割当日から2週間以内に登記を行う必要があります。総数引受方式と申込割当方式では、登記申請の際に必要な書類にも違いがあります。この点に関しては、付与対象者の人数が多い場合は申込割当方式の方が楽です。

どちらの方式で発行しても、募集事項決定の決議に係る株主総会および取締役会の議事録が必要なのは同じです。ただし、申込割当方式で発行した場合、添付書類として締結済みの割当契約書は必要はなく、「申込証明書」のような形で「どのSOに対して誰から何個の申込みがあったか」をリストにして添付するだけで足ります。数百人に付与した場合、登記時に全員分の契約書を集めるのは大変なので、リストだけで済むというのは結構な工数削減になります。また、従業員の契約締結作業と並行して登記の準備が進められる、というメリットもあります。

一方、総数引受方式の場合は、登記申請の添付書類として全員と締結した契約書が必要です。対象者が数人規模であれば問題ないですが、仮に契約書を分けて締結したときには、付与対象者が増えれば増えるほど現場がカオスになるのは言わずもがなです。

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留意事項

本記事は、一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に適用されるものではありません。記事の公開後に、関連法令などが変更される可能性があります。具体的な事案への対応にあたっては、適切な専門家にご相談ください。Nstockは、本記事の内容に依拠して行われた行為について、直接または間接に生じた損害の賠償責任その他いかなる責任も負うものではありません。

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