NstockのSO教室 〜ストックオプションの「付与決議日」について〜
ストックオプションの基礎知識

NstockのSO教室では、ストックオプション(以下、SO)の実務で良く話題に上がるテーマを取り上げて解説していきます。
今回はずばり、 SOの「付与決議日」です。
「SOには色々な決議日が出てくるけど、付与決議日って結局いつだっけ?」
SOの設計や管理に関わっていると、一度はこの疑問を持ったことがある方も多いのではないでしょうか。権利行使期間の起算日、付与調書に記載する日付、名簿管理人に提出する帳票…SO実務の色々なところで見かける「付与決議日」という言葉ですが、いざ具体的な日付を探して株主総会や取締役会の議事録を見たとき、それが発行決議日なのか、割当決議日なのか、はたまた株主総会から取締役会への委任を決議した日なのか…と、よく分からなくなったことはありませんか?
実はこの付与決議日のややこしさは、実務担当者の理解不足が原因ではありません。税法と会社法の言葉のズレと、そもそもの付与決議日の定義のあいまいさによって、 実務上迷いやすい状態になっていたのです。
この記事では、近年国税庁から示された付与決議日の定義をベースに、会社法上の各決議日との違いや実務への影響について、これまでのややこしさの背景も含めて、実務目線で整理してみたいと思います。
それでは、本題に入っていきましょう。
第一章 ややこしさの背景と実務の整理
まずは、なぜ付与決議日がこれほどややこしいのか、その背景とこれまでの実務の整理から見ていきましょう。
■ 税法には「付与決議」があるが、会社法にはない
税制適格SOには、 権利行使期間をはじめとした各要件の基準として付与決議日が多く用いられています。たとえば、権利行使期間については「付与決議の日後2年を経過した日から当該付与決議の日後10年(設立後5年未満での付与決議である等の条件を満たした場合は15年)を経過する日」と定められています。ほかにも、権利行使価額の年間上限が1200万円/2400万円/3600万円のいずれであるかについても、会社の設立から付与決議日までの期間や付与決議日における上場等の有無が基準になっています(租税特別措置法29条の2第1項)。
一方で、会社法には「付与決議」という言葉は登場しません。 会社法で出てくるのは、募集事項決定決議(会社法238条2項)、割当決議(会社法243条2項)、株主総会から取締役会への募集事項決定の委任の決議(会社法239条1項)といったもので、税制適格SOの実務で頻出する「付与決議」が、会社法上のどの決議を指すのかがはっきりしない状態が長く続いていました。
(まとめ)SOに関する会社法上の主な決議
- 募集事項決定決議(会社法238条2項 *239条1項に基づく下記委任決議後の取締役会での募集事項決定決議、240条1項に基づく公開会社における取締役会での募集事項決定決議もある。)
- SOの数、権利行使価額、権利行使期間、その他の募集事項といった「SOの内容」を決める株主総会や取締役会の決議。一般に「発行決議」と呼ばれ、SOの条件面を定める中心的な決議
- 割当決議(会社法243条2項)
- 募集事項決定後に「誰にいくつ」のSOを割り当てるかを決める決議。SOが「誰に付与されるか」が確定する株主総会や取締役会の決議であり、 実質的に「付与」が決定するタイミングといえる
- 委任決議(会社法239条1項)
- 株主総会が募集事項の決定を取締役会に委任することを決める決議。発行や付与そのものを決める決議ではない
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税法上の「付与決議」が、この中のどの決議を指すのか不明確(だった)
■ 権利行使期間の設定への影響と実務上の整理
「付与決議日が具体的にいつなのかはっきりしない」という問題は、 特に権利行使期間の設定で悩まれがちなポイントでした。
さきほども触れた通り、税制適格SOでは権利行使期間として「付与決議の日後2年を経過した日から、当該付与決議の日後10年(一定の条件を満たす場合は15年)を経過する日まで」の期間を定める必要があります。ところが、付与決議日の定義が明確でなかったため、 実務の現場では、会社法上のどの決議日を基準にしても要件を満たすよう、あらかじめ保守的に設計・運用するという対応が多く取られてきました。
たとえば、割当決議日を基準に権利行使期間の始期を設定し、発行決議日を基準に権利行使期間の終期を設定しておけば、どちらの決議日を付与決議日とみなす場合でも「付与決議の日後2年を経過した日から10年(15年)を経過する日まで」の期間に収まります。この場合、仮に後から思わぬ決議の方を「付与決議日」であると整理されたとしても、権利行使期間が税制適格要件を満たさないリスクは生じにくくなります。このように、解釈が分かれうる論点については、より厳しい基準を前提に制度設計を行うことで、結果として税制適格性を確保するという判断もなされてきました。
第二章 明らかになった「付与決議日」の正体
■ 国税庁Q&Aにおける定義
状況が変わったのは、近年国税庁により公表された「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(令和5年5月(最終改訂令和6年11月))のP8②(注)です。このQ&Aで、税法上の「付与決議日」は、原則として「割当決議日」を指すということが明示されました(一定の場合には発行決議日と整理される旨の補足も含め)。
以下に該当箇所を引用します。
“付与決議の日とは、ストックオプションの割当てに関する決議の日をいいます。この「割当てに関する決議」とは、会社法第 243 条第2項の決議(その決議の後に同法第 238 条第 2項の決議が行われる場合には、当該決議)をいいますが、募集新株予約権の総数の引受け を行う契約を締結する場合には、実質的に対象者に新株予約権が与えられることとなる同法 第 238 条第2項の決議(その決議の後に当該契約の承認の決議(同法第 244 条第3項)が 行われる場合には、当該決議)をいいます。”
■ なぜ「付与決議日」は発行決議日ではなく割当決議日なのか
国税庁が「付与決議日=割当決議日」と整理した背景には、実際にSOが「誰に付与されるか」が確定するタイミングを基準にすべき、という考え方がありそうです(あくまで推察ですが)。発行決議は、SOの内容や条件を定める決議ではあるものの、その時点では、まだ具体的な付与対象者が確定していない場合も少なくありません。一方、割当決議は、「誰にいくつ」SOを付与するかを最終的に決める決議であり、実質的にSOの付与が決定するタイミングといえます。
特に、発行決議から割当決議までの間に時間差を設けることが可能な会社法のルールを前提にすると、発行決議日を基準にすると、実際の付与よりも早い時点を起算点として権利行使期間を計算できてしまい、結果として、権利行使期間を付与決議日後10年後までから15年後までに延長したり、付与後2年間の「待ち時間」を実質的に短縮できたりしてしまうといった制度趣旨に反する効果が生じかねません(※)。こうした潜脱的な運用を防ぎ、税制適格SOの要件を「実態に即して判断する」ために、国税庁は「付与決議日=割当決議日」と整理したものと考えられます。
(※)「付与決議日」において設立後5年未満である等の条件を満たせば、権利行使期間の終期は「付与決議日」後10年まででなく15年までとすることができます。また、権利行使期間の始期は「付与決議日」後2年後からとされています。
第三章 実務上の影響
では、仮に付与決議日を割当決議日ではなく発行決議日として整理し、実務を行っていた場合の影響について考えてみたいと思います。
■ ほとんどのケースで影響は限定的
結論から言えば、多くの未上場スタートアップにおいては、実務上の影響は限定的であると考えられます。その理由はシンプルで、実務の現場では、発行決議と割当決議を同一の日に、同一の取締役会で行っているケースが大半だからです。この場合、形式上どちらの決議日を付与決議日と整理していたとしても、権利行使期間の設定や税制適格要件の各判定結果に差は生じません。
また、発行決議日を付与決議日として整理していたケースであっても、付与決議日の定義が明確でなかった中では、より厳しい基準を前提に権利行使期間を設定するなど、保守的な制度設計が行われてきたのが実情です。そのため、後から「付与決議日とは割当決議日である」と整理されたとしても、結果として税制適格要件を満たしているケースが多いと考えられます。
■ リスクはあるか?
もっとも、リスクが完全にゼロである、というわけではありません。 理論上は、発行決議日と割当決議日が異なるにもかかわらず、前者を付与決議日として権利行使期間等を設定していた場合、国税庁の定義に基づけば、形式的には税制適格要件を満たしていないように見えるケースが生じ得ます。
ただし、国税庁が問題視しそうなのは、あくまで制度趣旨を逸脱するような潜脱的な運用であると考えられます。たとえば、早期に発行決議を行い、その後相当期間を空けて割当決議を行うことで、権利行使期間を不当に延長したり、付与後2年間の「待ち時間」を実質的に短縮したりするようなケースです。
また、国税庁による見解公表より前には、租税特別措置法の改正沿革や条文解釈も踏まえ、「付与決議」とは募集事項決定決議であるとの見解もあったことや、近時の官民一体でのスタートアップ支援策の推進状況などからしますと、国税庁見解公表前において、税法の文理解釈や専門家見解を踏まえたうえで発行決議日を基準に整理し、かつ、実態としても不当な利益を得ていない場合についてまで、税制適格性が否定される可能性は低いのではないかと考えられます(Nstock社顧問の山下総合事務所 山下弁護士の見解)。
さいごに
本記事では、SOの付与決議日について、実務で混乱が生じてきた背景と、現在の整理、それが実務に与える影響を整理してきました。
Nstockが提供する税制適格ストックオプションの契約書ひな型キット「KIQS」でも、当時の法令解釈や専門家見解を踏まえ、付与決議日について「付与決議」=「募集事項決定決議(発行決議)」と整理してきました。
本記事の通り、その後国税庁により税法上の付与決議日は原則として割当決議日と整理されることが明確になりました。これを受けて、現在は、KIQSにおける整理も国税庁の定義に沿った形へとアップデートしています。
本記事の内容を受け、更新したKIQSのドキュメントは以下の通りです(記載のないものは変更なし)。
1-1) KIQS_株主総会議案雛型_ストックオプション・プールの設定あり_v5.0.docx
1-2) KIQS_株主総会議案雛型_ストックオプション・プールの設定なし_v5.0.docx
2) KIQS_新株予約権発行要項雛型_v5.0.docx
3) KIQS_新株予約権割当契約書雛型_v5.0.docx
それでは、引き続きNstock をどうぞよろしくお願いいたします。
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留意事項
本記事は、一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に適用されるものではありません。記事の公開後に、関連法令などが変更される可能性があります。具体的な事案への対応にあたっては、適切な専門家にご相談ください。Nstockは、本記事の内容に依拠して行われた行為について、直接または間接に生じた損害の賠償責任その他いかなる責任も負うものではありません。

