“あまり実感を持てなかったSO”が、完全自動運転というTuringの挑戦につながった話
チューリング株式会社 CEO / 山本一成
チューリング株式会社 COO / 田中大介

イーロン・マスク率いるテスラをはじめ、米国以外の国々でもEVや自動運転を取り扱うスタートアップが登場しています。そんななか、日本でも「完全自動運転」の実現を目指して立ち上がったスタートアップがあります──Turing(以下、チューリング)です。
チューリングが挑む自動車産業は巨大であり、創業初期から大きな資金を要する分野でもあります。本来ならば尻込みをしてもおかしくない状況ですが、なぜ一歩踏み出そうと思えたのか?後押しとなったのが、チューリングのCEOである山本一成さんと、COOである田中大介さんそれぞれが前職で得たストックオプション(以下、SO)でした。
本記事では、山本さんと田中さんにインタビュー。起業の追い風になったSOの体験談、アーリーステージのスタートアップにジョインする魅力などについて伺いました。
山本一成(やまもと・いっせい) チューリング CEO
東京大学での留年をきっかけにプログラミングを勉強し始める。その後10年間、コンピュータ将棋プログラム「Ponanza」を開発し、佐藤名人(当時)を倒す。東京大学大学院を卒業後、HEROZ株式会社に入社。リードエンジニアとして上場まで助力した。海外を含む多数の講演を実施し、テレビ番組「情熱大陸」にも出演した。2021年にチューリング株式会社を創業し、愛知学院大学特任教授も兼任している。
田中大介(たなか・だいすけ) チューリング COO
2008年に東京大学経済学部経済学科を卒業。国内金融機関を経て、2011年にGoogleへ入社。法人向けクラウドサービス「G Suite(現Google Workspace)」のエバンジェリストとして、年間100回以上の講演を行う。2016年より株式会社メドレーに参画。オンライン診療システムやクラウド型電子カルテなど医療機関向けのクラウドサービスを展開するCLINICS事業の事業責任者、執行役員を務める。2023年1月にチューリング株式会社にCOOとして参画。
実は、あまり実感を持てていなかった「最初のSO」
──まず、お二人のキャリアについて伺えますでしょうか?
山本 一成(以下、山本):私のキャリアにおける大きな転機は「将棋AI」でした。
もともと、将棋が好きだったんです。東京大学在学中に「せっかくチャレンジするなら名人を倒すくらい強いものにしよう」と思い、10年かけて作り上げたのがコンピューター将棋のソフトウェアである「Ponanza」でした。最初は全く知識がなかったのですが、少しずつ勉強しながら技術を磨いていくことで最終的には名人を倒すこともでき、メディアなどでも大きく取り上げていただきました。

大学卒業後はHEROZへ入社し、リードエンジニアとして2018年4月に上場を経験しました。そして退職後、2021年にチューリングを創業して現在に至ります。
田中 大介(以下、田中):僕は新卒でスパークス・グループ(独立系投資顧問会社)に入社したのち、デジタルハーツ(ソフトウェアテスト系ベンチャー)を経て、Googleへ転職しました。Googleでは法人向けクラウドサービス「G Suite(現Google Workspace)」のエバンジェリストとして勤務していました。その後2016年に、当時設立されたばかりだったIT系医療ヘルスケア事業を行うメドレーに入社して、執行役員として2019年12月の上場も経験しました。
山本さんとはメドレー時代からの知り合いでした。チューリングに誘われるかたちで、2023年にジョインしました。

──お2人とも、それぞれ前職でSOを付与されています。SOを付与された当時、その価値をどのように理解していましたか?
田中:僕は金融業界の経験もあったので、SOの概念は理解できていました。山本さんはどうでしたか?
山本:いやぁ、実は言うとHEROZ時代は何度説明を聞いても「よくわからない」となっていて……(笑)。
もちろん、SOの仕組みは理解できていました。ただ、経営陣がどんな思想でSOを設計して社員である僕らに付与していたのか、将来どんな価値を生むのかといった本質的な部分まで理解できていなかったかもしれません。また、イメージとは異なるところもあったんですよね。
──イメージとは異なるところとは?
山本:SOとは、定められた条件・価格で株式を購入できる権利です。実際にその権利を行使して株式を取得するためには、最初にある程度のお金を自分で支払う必要があったりしますよね。いざその状況になったとき、私は「そんな大金をすぐ用意しろって言われても」という気持ちになりました。田中さんはどうでしたか?

田中:事前にどれくらい支払うことになるのかはだいたい予想できていたので、特にギャップはありませんでした。僕の場合は「付与されたSOが最終的にいくらになるか、あまりよく実感できていなかった」という感じですね。
メドレーの入社時に「◯%で将来どれくらいの金額になるのか」などくわしく説明してもらいました。とはいえ、付与されたあとに想定キャピタルゲインを計算していたわけではないので、あまり実感はありませんでしたね。
山本:ぶっちゃけ、みんなが知りたいのは具体的な金額なんですよね。パーセンテージや期待リターンと言われても、ピンと来る人は少ないと思います。
田中:同感です。ちなみに、僕はメドレーの社員数が二桁のときに入社しています。同じ時期に入社したメンバーの中には、そのタイミングでかなり大きなリスクをとって経営陣と交渉してかなりの額の生株を購入する人もいましたね。僕の場合は、入社して1年ほどしてから「メドレーはもっと成長できる!」と確信し、生株も購入しました。実際に、上場時のメドレーの時価総額は330億円、現在は1,000億円以上になっています。
創業やシード期を自己資金でコントロールする強み
──山本さんはSO行使後の株式を売却したことで得たキャピタルゲインを元手に、チューリングを創業されたのでしょうか?
山本:そうです。チューリングはハンドルがない「完全自動運転車」を作るという人類のグランドチャレンジをしようとしています。自動車は巨大な産業かつ人々の生活に直接影響を与える存在なので世の中に対するインパクトはとても大きく、創業初期から大きな資金を要する分野でもあります。開発から実用化まで長期的な目線で考える必要もあるため、そういった意味でもSOで得た株式を売却してまとまったお金を手にしていたことが、このチャレンジの大きな後押しにもなりました。

田中:僕はメドレーが上場したあとも在籍していたこともあり、しばらく行使はしませんでした。「メドレーにいる限りは売らないぞ」と思っていたんですよね。
そんな僕がSOを行使しようと決めたのは、チューリングへジョインすることになったからでした。しっかりと気持ちを切り替えてから退職したかったので、SOの行使で得た株式だけでなく、生株もすべて売りました。売ったお金は全部ドル転(米ドルに交換)していたので、今振り返ると賢明な判断でしたね(笑)。
山本:田中さんはチューリングを創業後に入社しています。最初の資本金には参加していませんでしたが、入社してからはかなり投資してくれているんですよね。
田中:売却益の9割ほどチューリングに投資しています。チューリングは2023年に5.2億円を増資していますが、そのラウンドではVCは入れておらず、山本さんと僕、そして僕の知り合いで出資しました。こういったことができるのも、スタートアップならではかもしれませんね。SOがあったことで、僕らは気持ちに余裕を持てているのは確かです。

山本:改めて振り返ってみると、我々は現代のベンチャーエコノミクスの恩恵を受けているとも言えます。この体験は、もっと多くの起業家に知ってもらいたいです。
アーリーなスタートアップにジョインして会社の成功に貢献し、SOで大きなリターンを得る。そこで得た報酬や経験を元にしてさらに大きなチャレンジに挑む。こういった大きな循環をチューリングから生み出していきたいのです。「1周目」の挑戦であるHEROZやメドレーの上場から決して小さくないSOをもらって「2周目」を走っている私たち起業家世代は、次世代の「3周目」にバトンをリレーすることも、大きな使命の一つだと思っています。

そこでまた、私から田中さんに質問です。田中さんは金融や外資系企業で再スタートする選択肢もあったと思います。それでもスタートアップを選んだ理由は何だったんですか?
田中:個人が多額の資金を持てば、何か大きなことをやってやろうと思うのは必然です。それに、前職であるメドレーに入社したことで得られた経験や仲間はほかに代えがたいものばかりでした。
仲間に関して具体的に話すと、僕が「チューリングで頑張る、だから自己資金を投資した」と話したら、「それなら応援するよ」と資金を出そうとしてくれるような人たちなんです(笑)。そういった人たちと出会えるのはスタートアップの良い特徴ですし、だからこそもう一度挑戦したいと思いました。
今、「完全自動運転」という人類のグランドチャレンジに挑む理由
──チューリングはなぜ「完全自動運転」という領域を選んだのでしょうか?
山本:「完全自動運転は実現できない」という合理的な理由がないからです。
完全自動運転は、まだ人類が到達していない領域であり、人々の生活を極めて大きく変えるポテンシャルを持っています。また、完全自動運転を実現できれば、人類と社会に大きく貢献できます。だからこそやり遂げたい。そのためには優秀な人材はもちろん、強いリーダーシップと正しい技術戦略が必要です。
しかし、日本は米国と比較してそういった大きなチャレンジができる土壌がなかなかありません。狂気的であり、なおかつ技術に対して高い目標を示している組織が求められるわけですが、あまり見たことがなくて悔しいと思っています。

とは言え、私は日本に高度にAI技術を扱える人材が不足しているとは思っていません。例えば、KaggleというAIコンテストや競技プログラミングの世界でも、日本人は間違いなく強い存在感を示しています。私たちチューリングは、組織や技術の課題をクリアし、完全自動運転の実現に向けて挑んでいこうとしているのです。
田中:僕も山本さんと同じく「社会と人類のために」という気持ちがとても強いです。それに加えて、山本さんと一緒にやりたいと思ったこともチューリングへ参画する動機になりました。山本さんのような純粋な人がどこまでいけるのか、そばで見届けたいんですよね。
山本:ありがとうございます(笑)。
ここで私が強調したいのは、インセンティブの重要性です。その強力なツールのひとつが、SOです。SOは、企業価値が上がっていくことでキャピタルゲインが増えていきます。社員のみんなの頑張りが、お金としてわかりやすく跳ね返ってくるわけです。これはアーリーステージのスタートアップにジョインする大きな魅力であると同時に、これほどシンプルなアライメントの形はないと思います。
なにより、SOはただの金銭的報酬ではなく、社員全員が同じ方向を向き、一体感を持って会社の成長を支えるためのツールでもあります。SOをうまく使いこなせている日本企業はまだ少ないのですが、「SOが付与されるのは当たり前」となれば、我々のように大胆な行動を起こす人たちが増え、挑戦の大きな循環が日本にも根付いていくと思います。
田中:そこは、いくら強調しても足りないくらい重要なポイントですね。

山本:ですよね。チューリングでは、創業時から税制適格SOによる株式報酬制度を導入しています。設計内容は、付与から5年経過で100%の権利行使が可能(毎年20%分の権利確定)にし、退職してもSOが失効しないものになっています。
また、自分のSOがどれくらいの価値になっているのかをシミュレーションできる社内向けシステムも展開しています。最終的に企業価値は業績や市況だけでなく米国市場など、さまざまな要素が複雑に絡み合って決まるため約束できるわけではありませんが、この取材の前半でも話したようにみんなが知りたいのは、結局のところ「いくらもらえるのか」だったりします。そのためチューリングでは入社日や社員数などの簡単な情報を入力するだけで具体的な金額を簡単にシミュレーションできるようになっているのです。
ちなみにチューリングでは今、社員のみんなにとってチューリングで働くうえでのモチベーションの源泉になるものにするため設計し直しているところです。
チューリングは「SOによって起業した成功事例」を目指す
──自社でSO設計などしてみて、改めて感じたことなどはありますか?
田中:経営者だけでなく、社員も含めてSOに関する具体的なイメージを掴める環境を作るところからスタートしなければならないと思いましたね。
山本:そもそも会社を経営するとは、株価を上げて社会に貢献することが絶対的な責務です。さらに言いますと、上場を目指すならともに頑張る仲間たちと成功の果実を分け合えるようにSOを配るべき。しかしながら、今の日本企業の多くはSOを付与する・しないの方針もバラバラです。だからこそ社会的な流れとしても、アライメントとしてのSOの価値をもっと大きくしていかなければならない。チューリングは、そのムーブメントに寄与できるようにしていきたいと思っています。
田中:そうですね。SOがもっと広まり、多くの人が起業のようなチャレンジをどんどんできるようになってほしいです。チューリングのミッション達成はもちろんですが、SOによって起業した成功事例になるためにも頑張っていきます!
──素敵ですね!我々Nstockも、スタートアップをブーストさせるために頑張りたいと思います。本日はありがとうございました!

(撮影:小池大介)
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