VC比率を50→35%に引き下げた「2段階方式」とは?TERASSが挑んだ"過去イチ大変"なセカンダリー取引の舞台裏
株式会社TERASS 取締役 CFO / 森尾健一郎

次世代不動産エージェントプラットフォーム「TERASS」を運営する株式会社TERASS(以下、TERASS)が総額31億円のシリーズCラウンドを実施した……だけではなく!同時にVCの持株比率を50→35%まで引き下げたと発表したのは2025年7月のことでした。
「この手法は、新規調達額を20億円に固定しつつ、超過需要を既存株取引(=セカンダリー取引)で賄うという“2段階方式”で行うものでした。正直言ってとても複雑で大変だったのですが、TERASSの今後を考えると必要不可欠な通過点でした」
そう話すのは、シリーズCラウンドを担当していたTERASS CFOの森尾健一郎さん。どの角度から見ても複雑で大変そうな取引ですが、あえてその方法を選んだのはなぜだったのでしょうか?そして、前職でもファイナンスを担当していた森尾さんから見た「セカンダリーに対する意識の変化」とは?さっそくお話を伺いました。
森尾健一郎(もりお・けんいちろう) TERASS 取締役・CFO
慶應義塾⼤学経済学部を卒業後、2008年より三菱UFJモルガン・スタンレー証券にて、M&A、資⾦調達等のアドバイザリー業務に従事。2014年より三菱UFJ銀行にてM&Aファイナンスを提供。2016年よりFringe81(現Unipos)にて、上場準備を含むコーポレート業務や新規事業の⽴ち上げを担当した。2020年よりミナカラにて取締役CSOとしてコーポレート部⾨を管掌、M&A exitを主導。
「“過去イチ”大変なファイナンスだった」けれど、必要不可欠だった理由
──TERASSさんのシリーズCラウンドは「新規調達額を20億円に固定しつつ、超過需要を既存株取引(=セカンダリー取引)で賄うという“2段階方式”」だったとのことですが、なんと言いますか、ぶっちゃけめちゃくちゃ難しくないですか!
森尾健一郎(以下、森尾):おっしゃるとおりで……私がこれまで関わってきたファイナンスのなかで“過去イチ”大変だったと言っていいくらいです!(笑)

──それでも、あえてこの方法を選んだんですよね?改めて、シリーズCラウンドの目的から伺いたいです!
森尾:TERASSにとって、今回の資金調達は3年ぶりでした。その間に、売上は約10倍、エージェントの登録数は5倍に増え、累計取引高はサービス開始後4年で4,000億円になりました。事業としては先行投資を押さえれば黒字化可能なフェーズであり、今回のシリーズCラウンドが上場前のラストファイナンスになる可能性もありました。
そういった背景もあり、正直なところ「今すぐ資金調達をしなければ!」という状況ではありませんでした。しかし、上場後も成長し続けていくことを考えると、以下の観点から株主構成を変えたほうがいいと判断しました。
- 上場後も支援してくれる株主を増やして伴走力強化
- 上場後のオーバーハング懸念を解消
スタートアップは「上場したら終わり」ではありません。その後も、株式市場で上場企業として企業価値を上げていくことになります。非上場時代とは異なる戦い方になることは明らかなので、心強い仲間を増やしたいと思っていました。そこで、既存株主の方々が持つTERASSの株を一部セカンダリー取引で売却してもらい、それによって新たな株主を迎えたいと考えました。

一方で、初期から支援してくださっているVCの方々の持ち株比率が約50%ある状態でした。このままでは上場後にオーバーハングが起こる可能性もあったため、VC比率を下げるという狙いもありました。
──そこで、プライマリーとセカンダリーをかけ合わせることにしたんですね。
森尾:そうです。今回実施したシリーズCラウンドでは合計31億円を取引していますが、その内訳はプライマリーが20億円、セカンダリーが11億円でした。
「30パターン以上の株取引を同日に実施」「売却範囲はTERASS側から提案」
──「2段階方式」だったとおっしゃっていましたが、具体的にはどのような流れでシリーズCラウンドを実施したんですか?
森尾:「2段階方式」とは、ファーストクローズとセカンドクローズに分けたということですね。ファーストクローズの時点で目標調達金額は達成できそうだったのですが、今回の目的である「上場後も腰を据えてくれる投資家を増やす」という意味では、現在の既存株主の方々に加えて、もう少し味方を増やしたい状況でした。
しかしながら、クロージングを延期すると、投資意向を表明してくれた方々を半年以上待たせてしまうことになります。担当者の方々は理解してくれても、その先にいる意思決定者は「こんなに長引くということは人気がないのでは?」と思われる可能性がありました。そのため、ディールを2回に分けることにしたのです。
具体的には、ある一定以上を出資してくれる投資家の方々にはセカンドクローズで普通株式を買う権利を持ってもらうかたちにしました。

最も緊張したのは、30パターン以上の株式取引を同日に取引しなければならないときでしたね。
──えっ、30パターン以上の株式取引を同日に?
森尾:そうなんです。売り手となるVCの方々はそれぞれ2種類の株をセカンダリー取引するため、普通株・新株を含めると4種類の株を投資家の方々に配分しなければならない状況でした。さらに、その4種類の株を約10社の投資家に渡すことになっていたため、掛け算をすると30種類以上の取引を同日に行うことになったのです。
──セカンダリーはTERASSさん側から提案したんですよね。既存株主の方々との交渉はどうだったのでしょうか?
森尾:前提として、投資家の方々は投資によって利益を得る仕事をしています。株を持ち続けることで利益が高まるならば、すぐに売却という選択はしません。既存株主の方々も、すぐに株を売りたかったわけではありませんでした。ですが、TERASSにおける課題や状況を理解し、協力してくださりました。

結果的に、既存株主の方々は「一部exitの機会を得られた」、新規株主の方々には「セカンダリー取引によって平均取得単価を下げることができた」ということで、TERASSを含めて三方良しの結果にできました。日本の上場維持基準が引き上がるなか、投資家の方々にとってもexitまでの期間が延びています。途中で一部利益を確定できることは、彼らにとってもニーズがあるのだと学びましたね。
昨今の日本における「セカンダリーへのイメージ」はどう変化した?
──「上場ができずファンド期限が差し迫っているから買い取った」など、セカンダリーに対するネガティブなイメージがありました。世間的にはそのイメージは変わりつつありますが、森尾さんはセカンダリーに対して当初はどう感じていたのでしょうか?
森尾:たしかに、ネガティブなイメージはありましたね。ただ、それは人や企業にネガティブな要素があっただけで、セカンダリーそのものはむしろポジティブなものだと思っていました。

実は、今回の手法を既存株主の方々に提案したときに「売るの!?」と驚かれたんです。やはり不安はあったのだと思います。だからこそ、決してネガティブな理由ではないことや、あくまでも戦略の1つであることなどを丁寧にお伝えしました。驚きつつも理解を示してもらえた背景には、セカンダリーに対するイメージの変化もあったんじゃないかと思います。
──確かに、最近では創業者がセカンダリー取引をすることもポジティブな見方をされるようになりましたよね。少し前までは「(多額の資金を得るため)創業者が辞めてしまうのではないか」といった受け取られ方もしていましたので。
森尾:そうですよね。多くの株を売却するとなると動揺しますが、それ以外であればむしろポジティブに受け止められている印象があります。
──セカンダリーがネガティブに受け止められがちだったのは、過去にそういった事例が続いた影響もあります。そのイメージを払拭するには、どうするといいと思いますか?
森尾:世間の風潮を変えるには良い事例を一つひとつ積み上げていくしかないと思っています。これまでは「償還期限が迫っているから」「株主が提案してきたから」というケースが多かったかもしれませんが、TERASSを含めて「スタートアップ側からセカンダリーを提案する」というケースも増えつつあります。良い事例が積み上がっていけば、企業の資本戦略の1つとして捉えられるようになるはずです。
複雑すぎる資金調達が成功した本当の理由は…
──最後に、セカンダリーを含めたファイナンスを検討している方にアドバイスをお願いします!
森尾:基本的なことではありますが「何のために資金調達をするのか」「それによって企業をどうしたいのか」「どんな変化がほしいのか」を明確にしたほうがいいです。そのうえで、セカンダリーを含めたあらゆる手段を選んでいく。世間的にはセカンダリーに対するネガティブなイメージがまだ残っているかもしれませんが、資金調達の目的を達成するためにも、その先入観は捨てることをおすすめします。

そしてもう1つ大切なことは、既存株主の方々との関係性構築です。TERASSでは主要な既存株主の方々とは2週間に1回以上のペースでコミュニケーションをとっています。泊まり込みでの合宿もしたりするので、「めずらしいケース」だとよく言われていますけれども(笑)。この関係性があるからこそ、TERASSの既存株主の方々は普段から「どれだけ我々を使い倒すかがポイントです」みたいなことを言ってくださっていました。
セカンダリーの提案についても、真摯に検討し、最終的に受け入れてくださったのはこの関係性があったからこそだと思っています。「セカンダリー」というワードにとらわれてしまう気持ちもわかりますが、特にファイナンスにおいては、日頃からの小さな積み重ねが大きく影響するのだと私自身も感じた調達でした。
──トレンドに踊らされず、日々やるべきことを積み上げていくのは大事ですね。
森尾:基本を欠かすことはできませんよね。
TERASSは、自社の事業や姿勢を通じて日本の金融リテラシー向上にも貢献したいと思っています。まだまだ道半ばですが、今回の手法が他のスタートアップの方々の参考になり、セカンダリーのネガティブなイメージを払拭する礎の1つになれたらうれしいですね。
──間違いなく、他のスタートアップが希望を持てる事例を残していると思います。本日は、ありがとうございました!

TERASSの採用情報はこちら!

