「日本のスタートアップがセカンダリーを活用する最大のメリットは?」米国で10年挑戦し続けた起業家が明かす、その可能性
エンジェル投資家 / 福山 太郎

「福山太郎さん、日本のスタートアップがセカンダリーを利用する最大のメリットは何だと思いますか?」
我々がこの質問を投げかけた相手は、日本人で初めてY Combinatorに採択され、昨年にはM&AでのExitも果たしたFond創業者・福山太郎さんでした。
この記事で指す「セカンダリー」とは、すでに発行された非上場株式やストックオプション(以下、SO)を行使して得た株式の売買を指します。日本では社員のSOを含むセカンダリーは慣習やプラットフォームがないことで事実上不可能になっていました。
そこで今回は、福山さんが経営者として感じた「米国の報酬制度の実態」「セカンダリー事情」についてインタビューしました。聞き手は、Nstockでセカンダリー事業を担当する沼田太朗です。
福山 太郎(ふくやま・たろう) エンジェル投資家
2012年にFondを米国にて創業。同年にシリコンバレーの名門アクセラレーターであるY Combinatorに参加。SalesforceやFacebook(現Meta)、Adobeをはじめとした顧客に、福利厚生や社内リワードの管理ソフトウェアを提供する。同社はDCMやY Combinator、Andreessen Horowitzから投資を受け、Fast Companyの「The World's 50 Most Innovative Companies」に、GoogleやAppleなどと並んで選ばれた。2023年には同社をEdenredに売却し、現在はエンジェル投資家として日米のスタートアップに投資。SmartHR、KnowlegeWork社外取締役。
沼田 太朗(ぬまた・たろう) Nstock株式会社、セカンダリー事業担当
金融機関・コンサル後、金融スタートアップに入社。金融機関では信用リスクや与信・コーポレートファイナンス、スタートアップではバックオフィス責任者、CSなどを経験。三度の飯より決算書を見るのが好き。Nstockには2022年8月に入社。
福山太郎さんが「セカンダリー=退職率を上げるきっかけ、ではない」と断言する理由
沼田 太朗(以下、沼田):まず、福山さんがFond時代にどのような株式報酬制度を設計していたのかを教えてください。
福山 太郎(以下、福山):FondはSOによる株式報酬制度で、設計は「1 year cliff and 4 year vesting※」にしていました。米国では採用の武器として株式報酬制度を活用することが一般的なので、「会社に居続けて新たなSOをもらうより、新しい会社へ転職してSOをもらったほうがROIが高い」と考える人も少なくありません。そこでFondではリテンションパッケージ(人材流出を防ぐための人事施策)として、入社時に付与したSOに加えて、在籍3年目から追加でSOを付与することにしたのです。そうすれば、わざわざ他社へ転職しなくても、Fondで働き続けることでどんどんSOが増えていく状態にしました。ただ、社員によるSOを行使した(非上場)株式のセカンダリー売却は取り入れていませんでした。
※入社後1年間は一切権利確定せず、1年後に付与されたSOの25%(12/48)が権利確定し、その後毎月48分の1ずつ3年間、合計で4年間(48ヶ月)かけて権利確定して行使が可能になるという設計

沼田:日本ではまだセカンダリーマーケットは整っていませんが、経営者の中には「従業員が途中で株を売買しやすくなる=退職を促すきっかけになるのでは」と考える人もいたりします。そういった心配はありましたか?
福山:「セカンダリーがあるから退職率が上がる」という考えそのものが、米国ではあまりないですね。米国は平均1年半ほどで転職する人が多く、入社時にもらったSOが「1 year cliff and 4 year vesting」の場合、その企業に魅力を感じていなければ転職するような現象が顕著です。
そもそも、スタートアップが上場するまでに10年ほどかかります。現在では、もっと時間をかけて事業を大きくしたいと考えるスタートアップも増えています。その間に、事業フェーズに合わなくなった社員も出てきます。そんな彼らが「上場するまでSOを行使できないから」と不本意ながら在籍し続けなければならないような状況になってしまうのは、企業としてもいいことではありません。セカンダリーなどを活用しつつ、いい意味で転職しやすい環境があることは悪くないと思っています。

沼田:「いい意味で転職しやすい環境を作る」という考えに共感します。日本ではM&Aや退職によってSOを放棄しなければならないシーンがまだまだ多いので、米国で働く方々から見て「??」となってしまうかもしれないですね。
福山:米国では退職後90日以内にSOを放棄するか、もしくはSOを行使して株式に変えるのかを選ぶ必要がありますが、社員に選択肢があるんですよね。退職時に有無を言わさずSOが失効してしまうほか、M&AされたらSOを取り上げられてしまうというのは、僕も理解しがたいですね。上場までSOを行使できないことについても「会社の株を売りたい人と買いたい人がいるのになぜ?」となってしまいそうです。
米国セカンダリーマーケットの実態「プレイヤーは揃っているが、参加者はまだ少ない」
沼田:福山さんから見て、米国のセカンダリーマーケットにはどんな印象がありましたか?
福山:2008年に20億ドル、2022年には100億ドルまで米国のセカンダリーマーケットは大きく成長していますね。
米国のTech企業では入社時にSOを付与されることがほとんど。満期が10年ほどなので、シリーズCやDを迎える創業者はセカンダリーを意識するようになることが多いようです。
沼田:セカンダリーにはメリットとデメリットもあるように思っています。福山さんはどう考えていましたか?
福山:場合によりますね。時間をかけて事業を大きくしていくことを考えると、途中で子どもの進学や親の介護といったプライベートなイベントが発生する可能性もあります。そうなったとき、まとまった資金を得るためにセカンダリーという手段は現実的にもいいオプションになります。

一方で、創業者がセカンダリーによって保有株式を売りすぎるのは世間的にもあまりいい印象がありません。
一般論ですが、創業者が自宅購入や子どもの学費のためにセカンダリーを利用する場合、日本円換算で1億〜3億円が相場です。それ以上の金額をセカンダリーで手にする場合、ちょっと注意が必要だと思っています。と言うのも、創業10年未満のスタートアップの社長が10億〜20億円の大金を手にすることはほとんどありません。もしも経営がうまくいっていないときだと「セカンダリーでどうやって売ろうか」に意識が向いてしまい、経営が疎かになってしまう可能性が高まり、投資家などからも指摘が集中しやすくなりますね。
沼田:金額が大きいだけに、外からの見え方にも注意が必要なんですね。米国でのセカンダリーマーケットは完成されたイメージがありますけれど、実際のところはどうですか?
福山:プレイヤーは揃っていますが、参加者はまだ少ないですね。プライベートでアクセスできる投資家は買えるけれど、一般の人たちがアクセスできるかというとそうではありません。未公開株を持っていない人がほとんどだったりするので、今後はもっと浸透していくと思っています。

実は米国でもSOの価値をちゃんと理解していない人は多いです。「会社が1,000億円規模になったら、自分のSOはどれくらいの価値になるのか?」を理解していた社員は恐らく2割もいませんでした。つまりSOの価値を理解していない人が多かったです。Fondにおいても、全員が全員SOの意味や価値を理解していたわけではありませんでした。当時は採用力強化や社員のモチベーションアップのためにSOを付与しているものの、その価値をちゃんと伝えられず、難しさを感じましたね。
もちろん、SOについてちゃんと理解しているからこそ、SOを要求してくる人もいます。ただ、そのほかの人たちは「なんとなく知っている」「SOを持っているとお金持ちになれそう」というイメージでSOを要求しているのだと思います。「もらえるならもらっておこう」という感じですね(笑)。米国でも、SO周りの金融教育はもっともっと改善の余地があると思っています。
沼田:それは日本でも同じことが言えますね。
日本にセカンダリーマーケットが誕生することの最大のメリットは?
沼田:Nstockではセカンダリー事業を通じて、日本でのセカンダリーマーケットを盛り上げていきたいと考えています。そこで福山さんに聞いてみたかったのですが、大前提として日本でもセカンダリーができるようになることのニーズはあると思いますか?
福山:これからもっと大きな産業を生み出したいと考えているなら必須です。日本政府も「スタートアップ育成5か年計画」のなかで、大きな方針を打ち出していますよね。時間はかかりそうですが「産業を大きくしていくために」という目線で、セカンダリーができるようになることは大事だと思っています。

セカンダリーのいいところは、一定の役割を果たしてくれた社員が報酬を受け取れるうえに、その企業を中長期で応援したいと思う人たちへ株が渡っていく仕組みが成立していることです。社員にとっても、セカンダリーマーケットがあれば自分が持っているSOがどれくらいの価格で売れるのかがわかるため、「もっと価格を上げるために頑張ろう」という気持ちになれるのでいいですよね。
また、セカンダリーは「全員が必ずやらなければならないもの」ではありません。日本でセカンダリーができるようになったとしても、それをやる・やらないを決めるのは企業です。そして、働き手はどの企業で働きたいかを選べばいい。
沼田:セカンダリーができる・できないが採用力にも影響するということですか?
福山:これはセカンダリーに限った話ではありませんが、「SOはないけれど給与は高い」「SOは多めに付与されるけれどセカンダリーはしない」「SOの代わりに福利厚生は強い」など、選択肢が増えることでいろいろな戦い方ができ、それが会社それぞれの魅力にもなります。企業間での採用競争が活発になれば、働き手にも選択肢が増えます。

日本では法律上、社員を解雇しにくい状況があり、それが大きな足かせになっています。もちろん不当な解雇はなくすべきですが、「解雇しにくい」ことによって企業はリスクをとってアクセルを踏む自由を奪われ、社員は企業に居続けなければならなかったりする。セカンダリーやSOによって人材の流動性を加速させることは、双方にとっていい結果になると思っています。
沼田:福山さんのお話を伺って、Nstockとしてセカンダリーマーケットを日本でも実現したいと思いました…!
福山:タイミングとしても、とてもいいですよね。令和6年度税制改正により、2024年4月以降に発行する税制適格SOはより使いやすくなりました。社会的にも今こそ変わるべきタイミングを迎えており、ここで変わらなければ次のチャンスはしばらくないと思ったほうがいいくらいです。日本の未来のために、Nstockにはぜひとも頑張ってほしいです。
また、どんなサービスでも原体験は大事です。特にセカンダリーに関しては実際に経験してみないと良さがわかりづらいところも多く、仮に原体験があったとしてもそのテーマで起業する人はあまりいません。でも、Nstockにはセカンダリーの原体験があり、なおかつ謎にもう一度創業した宮田さんというレアキャラがいるので安心しています(笑)。
沼田:ありがとうございます!(笑)
大きな産業を生み出すために必要なのは「起業家」「投資家」「法改正」だからこそ…
福山:ちょっと話を続けてしまうのですが、僕の考えとしては大きな産業・企業をつくるためには起業家だけでなく、そういった方々を支援する投資家、法改正などに働きかける方々の3つを揃えなければならないと思っています。ちょうど今、日本ではこの3つの要素が揃いつつありますよね。だからこそ、大きく変革できる可能性が高いと僕は見ています。
個人的には、起業経験を持つ投資家がもっと増えればいいと考えています。僕も元起業家や現役起業家の方々に支援していただきましたが、彼らからもらったアドバイスがとても参考になったんですよね。

僕は今まで日米のスタートアップ70社ほどにエンジェル投資で関わってきましたが、今後も「元起業家の投資家」として多くのスタートアップをサポートしていきたいと考えています。
沼田:日本に比べて米国は成功確率が低い・難易度が高いと言われていますよね。そういった領域に挑む人たちを応援したいと思ったのはなぜですか?
福山:米国での活躍は華々しいので、例えば大谷翔平選手のようにメジャーリーグで活躍する姿を見ると「世界で活躍する人がいる」と嬉しくなる。ですが挑戦者本人からすると、華々しさの裏側にある苦労は多すぎて語りきれないほどあったりします。 沼田さんの言うとおり、起業家目線でも日本に比べて米国で起業するほうが難易度がぐっと上がることは明らかです。僕は「それでも米国で挑みたい」という気概がある人を今後もサポートしていきたいと思います。僕自身は元起業家でかつ米国挑戦の経験があるので、ユニークなかたちで価値を提供をしていきたいですね。

沼田:僕らも福山さんを応援しています!本日はありがとうございました!!
(撮影:小池大介)
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