Y Combinator 3日目でポール・グレアムからダメ出し、タコベルでの車中泊…。福山太郎が振り返る米国での起業家人生
エンジェル投資家 / 福山 太郎

シリコンバレーの名門アクセラレーター「Y Combinator」に日本人起業家として初めて採択され、そのなかで誕生した福利厚生SaaS「AnyPerk(現FOND)」は今やSalesforceやFacebook(現・Meta)、Adobeをはじめとした米国大手企業に広く導入されるサービスへと進化。さらに2023年には福利厚生サービスの大手企業であるEdenredへのM&Aも果たした──これらはすべて起業家である福山太郎さんの米国挑戦の記録です。
そもそも、福山さんはなぜ「米国での起業」にこだわったのでしょうか? Y Combinatorで採択され、さらにプログラムでの得難い経験とは?
今回のインタビューでは、福山太郎さんの起業家人生を追いました。
福山 太郎(ふくやま・たろう) エンジェル投資家
2012年にFondを米国にて創業。同年にシリコンバレーの名門アクセラレーターであるY Combinatorに参加。SalesforceやFacebook(現Meta)、Adobeをはじめとした顧客に、福利厚生や社内リワードの管理ソフトウェアを提供する。同社はDCMやY Combinator、Andreessen Horowitzから投資を受け、Fast CompanyのThe World's 50 Most Innovative Companiesに、GoogleやAppleなどと並んで選ばれた。2023年には同社をEdenredに売却し、現在はエンジェル投資家として日米のスタートアップに投資。SmartHR、KnowlegeWork社外取締役。
宮田 昇始(みやた・しょうじ) Nstock 代表取締役CEO
2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年にはシリーズDラウンドで海外投資家などから156億円を調達、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。2022年1月にSmartHRの代表取締役CEOを退任、以降は取締役ファウンダーとして新規事業を担当する。2022年1月にNstock株式会社(SmartHR 100%子会社)を設立。株式報酬のポテンシャルを引き出すメディア「Stock Journal」を運営している。
米国留学時の悔しい思い出、タコベルでの車中泊
宮田 昇始(以下、宮田):福山さんの起業後の話はインタビューでも見たことがありますが、今回はあまり知られていない起業前の話から聞いてみたいです。何がきっかけで起業したのですか?
福山 太郎(以下、福山):僕は高校時代に1年ほど米国留学をしていて、現地の人たちからいじめられたことがあったんです。「今もサムライは道を歩いているのか?」と言われるなど、あのときの僕は悔しい思いをしていました。いつかビッグになって彼らを見返してやりたい。そんな気持ちから、米国での挑戦を意識するようになったのです。初めは弁護士を目指していましたが「ITのほうが多くの人にインパクトを与えられるんじゃないか?」と可能性を感じるようになりました。そしてさまざまな企業でインターンをしたのち、知人を通じて知り合ったSunny TsangとともにFondを創業しました。

日本で渡米の準備をしている間は、フリークアウトやコイニー、CAMPFIRE、カンム、みんなのマーケットの創業者たちと同じシェアオフィスにいました。その後、米国進出をサポートしてくれそうなところを探し、Open Network Lab(スタートアップ育成を目的とした3ヶ月間のアクセラレータープログラム)へ3期生として入ることにしたのです。いろいろな人に協力してもらいつつ、2011年8月に渡米しました。
ただ、最初から何もかもがドタバタで。
宮田:何があったんですか?
福山:米国へ入国する際の審査で「帰りのチケットは?」と聞かれて、勢いで「ビッグになったら帰る」と回答しちゃったんですよね。瞬く間に別室に連れて行かれ、2時間ほど取り調べをされてしまいました。結果的には無事に出られたのですが、外で2時間もSunnyを待たせてしまって申しわけなかったです。あとは……。
宮田:まだあるんですか(笑)。
福山:あります(笑)。僕はTechCrunchばかり読んでいたので「サンフランシスコへ行けばすぐに投資家に出会えて即調達できるはず」と思い込んでいたんです。でも、誰も投資してくれませんでした。「投資してくれなくても、誰か1人くらいは好意で泊めてくれたりするだろう」とも思っていたのですが、当然ながら誰も泊めてくれず。
幸い、メルカリ共同創業者で、当時はシリコンバレーで会社を経営していた石塚亮さんと連絡が取れて「ちょうど米国にいないから車を使っていいよ」と言ってもらえました。それがミニクーパーだったのですが「ここで寝泊まりすれば宿泊費はタダじゃないか?」と思いつきまして。車道で寝たらさすがに危ないと思ったため、タコベル(米国のメキシコ料理系ファーストフードチェーン店)の駐車場に停めて、そのなかでしばらく寝泊まりしていました。

宮田:あの、発想も行動力も破天荒すぎませんか?
福山:笑い話ではありますが、大事なレッスンでもありました。タコベルで1日3食タコスにしたらだいたい合計30ドルくらいで済みます。バーンレート(消費コスト)をおさえられるので、投資家へのアタックを何百回とトライできる。それだけトライしてみてダメだったら諦められるし、成功したらより大きなリターンになる。そうやって宿泊先を確保しながら、SNSなどを駆使して100人ほどの投資家と会いました。しかし、首を縦に振ってくれる投資家は見つけられませんでした。
※編集部注:なお、タコベルはFondがM&Aされる前、FONDを全社導入した最後のエンタープライズ企業となったそうです
投資家に断られ続けた先にやってきた、Y Combinatorへの参加チャンス
宮田:「誰も投資してくれなかった」と話していましたが、福山さんは米国の名門アクセラレーターであるY Combinatorに日本人として初めて採択されています。応募してから渡米していた、というわけではなかったんですか?
福山:いえ、応募していませんでした。当時の僕は、Y CombinatorはDropboxやAirbnbといった雲の上の存在が集まるところだから自分とは関係ないと思い込んでいたんです。
きっかけは、TechCrunchが主催するスタートアップの大型イベント「TechCrunch Disrupt」でした。
多くの投資家に会うものの断られ続けていて「米国での起業はもう駄目かもしれない」と思い始めていたころ、ちょうどTechCrunch Disruptが開催されると知りました。チケット代は1,500ドルほどで当時の自分には高額だったのですが、来場していた日本人の多くが英語を話せないことがわかったため「通訳をします」と提案し、タダで入らせてもらえたんです。そして、その会場内で、Y Combinatorの創業者であるポール・グレアムに出会えました。

この上ないチャンスだと思いました。彼が登壇し終わった後、iPadを片手にすぐに駆け寄り、サービス資料を見せながら「投資してほしい」と伝えました。ポールからは「面白そうだけど、とりあえず日本でやればいいんじゃない?」「その後に米国へ来ればいい」と言われました。でも、ここで怯むわけにはいかない。「あなたはブログに『大きなことをやりたいならシリコンバレーに来い』と書いていました、だから僕はここへ来たんだ」と言い返しました。ポールは少し笑って「なるほど、ならばY Combinatorに応募しなよ」と言ってくれました。
ここでお伝えしておきたいのは、この出会いはあくまでも僕がY Combinatorへ応募したきっかけであり、採択の後押しになったわけではありません。なぜならY Combinatorの面接時、ポールは僕のことを完全に忘れていたので(笑)。「面白いやつだと思った」という理由で採択されたわけではないんです。
宮田:では、採択された理由は何だったんでしょうか?
福山:僕も気になったので、ポールに質問してみたんです。「覚えていない」と、ポールにはぐらかされてしまったので真意はわからないままなのですが……。周りの意見などを聞いているうちにわかってきたのは「諦めない創業者だと思ったから採択したんじゃないか」ということでした。

スタートアップが潰れてしまう一番の理由は「創業者が諦めるとき」です。逆に言えば、諦めない創業者がいればスタートアップは潰れない。そういう意味では、ビザもお金もコネもなく、カタコトの英語で「絶対に帰りません」と言い出す僕に「こいつは諦めなさそうだな」と思ってくれたのかもしれません。
宮田:僕はポールが書いたブログの「死なないために」というエントリーがとても好きなのですが、そこにも「諦めなければ成功する」と書かれています。その決意を、福山さんから感じていたのかもしれませんね。
ポール・グレアム「日本でワークしていて、米国でワークしていないビジネスを見つけろ」
宮田:Y Combinatorは3ヶ月間のプログラムです。そのなかで福利厚生SaaSであるAnyPerkはどういう経緯で誕生したんでしょうか?
福山:当初、僕らはMIEPLE(ミープル)というネットワーキングサイトをやろうとしていました。ところが、プログラムが始まって3日目にポールから「今回参加しているスタートアップ66社のなかで君たちが最悪だ」「アイデアも一番イケてないし、社長はカタコトしか話せない。このままでは資金調達できる可能性は限りなくゼロだ」と真顔で言われてしまって(笑)。
宮田:それはキツイ!
福山:キツかったです。僕らは「Y Combinatorにさえ参加できれば成功できる」と思っていたので、ショックも大きかったんです。でも、おかげで「だったら別のアイデアを考えよう」と思い切ることができました。

僕らにダメ出しをするポールの言葉で印象的だったのが「Demo Dayは起業家人生で一番レバレッジがかかる日だ」です。
Y Combinatorでは世界中から500人以上(当時)の投資家が集まり、自分のサービスをピッチします。だからこそ、自社サービスが右肩上がりの数字を示せることを証明し、自分たちがどれだけ優れたスタートアップなのかをアピールできなければ意味がない。半端なアイデアで太刀打ちできるわけがないのです。僕らは覚悟を決め、来る日に備えてY Combinatorの最初の1ヶ月を事業アイデアづくりに費やしました。おそらく、7回ほどピボットした気がします。
宮田:起業家の方々からよく聞く話として「ピボットをするとき、本当にこのアイデアでいいのか躊躇した」があります。福山さんは福利厚生SaaSへピボットすることに躊躇しなかったのでしょうか?
福山:米国における福利厚生SaaSの可能性を調べていくうちに、躊躇するよりも「福利厚生SaaS、いいじゃん!」という気持ちが高まっていきました。
福利厚生SaaSのヒントになったのは、ポールの「日本でワークしていて、米国でワークしていないビジネスを見つけろ」というアドバイスでした。
日本には福利厚生事業を行う上場企業が2社あります。けれど、労働人口が日本の3倍である米国には福利厚生事業で上場している会社は1社もありませんでした。市場をリサーチし、さらに周囲にアイデアを話してみると「そのサービスならお金を払いたい」と感触も良かったんです。

サービス内容が決まってからは、急ピッチで開発を開始。同時進行でデザインを作り、「ローンチしたら契約してくれませんか?」と営業も進めました。そこそこのトラクション(投資する際に重視される、成長性がわかる数値)がある状態でDemo Dayを迎えたのです。
ちなみに、ピッチの台本はポールが書いてくれました。僕はそれをひたすら暗記し、ネイティブっぽく話せるように何度も練習していました。
宮田:今なんて言いました、ポールに台本を書いてもらった?
福山:そうです。僕らのサービスは「日本では福利厚生事業で成功している企業がいくつかあるが、米国にはまだない。だが、米国での福利厚生における市場は大きい」というストーリーを描けていたので筋はとてもよかった。ただ、僕はまだうまく英語を話せなかったので、ポールがサポートしてくれたのです。うれしいことに投資家が見つかり、150万ドルほどの資金を集めることができました。
「コンタクトフォームを見つけたら即連絡」AnyPerk急成長の経緯
宮田:その後、AnyPerkが急成長して福山さんはForbes誌の「30 UNDER 30 Asia 2016」にも選ばれています。どうやってここまで伸ばしたんですか?
福山:当時は営業活動の必読本『THE MODEL』などもなく、すべてが手探りでした。SaaSについては、2013年頃から始まったジェイソン・レムキンというVCのブログを参考にしていました。SaaSブームからはほど遠かったですね。
BtoBの成功事例もあまりなかったため、Y Combinatorにアドバイスをもらっていました。そうすると「月10〜20%で売上を伸ばすように」と言われたんです。そこから逆算して営業活動を開始。とは言え、企業のコンタクトフォームを見つけたらすぐにメールするという粗い営業方法を2〜3年ほど続けてひたすら売上を伸ばしていきました。

宮田さんが言ってくれたように、Forbes誌などで取り上げられるようになってからは「福利厚生」「Y Combinator」「月30%の成長」のキーワードで注目が高まり、そこから問い合わせにつながる好サイクルが生まれました。ただ、このときはスタートアップを中心にサービスを展開していたため、すぐに導入してくれるものの、資金調達に失敗するなど景気に左右されるところが多かったりして、解約率も高かったんです。
そこで2015年ごろに、エンタープライズ企業へ軸足を大きく変えることにしました。
宮田:軸足を変えてみて、どうでしたか?フィットするまでに時間がかかったりしませんでしたか?
福山:一社目としてSalesforceに全社導入してもらえたので、思っていたよりも時間をかけずにフィットできました。スタートアップ向けには「こんな割引があります」と価値訴求していましたが、エンタープライズ企業向けには「福利厚生にまつわる業務を我々が巻き取ります」「空いた時間を別のことに活用できます」という価値訴求に変えたところ、魅力的に感じてもらえたようです。
少し苦しかったのは、スタートアップに比べて、エンタープライズ企業は新サービス導入までの時間がスタートアップに比べて長いところ。そこは耐える必要がありました。Salesforceを皮切りに、続々とエンタープライズ企業のサービス導入が決まっていきました。コロナ禍になっても、解約はゼロ。「エンタープライズ企業にもっとフォーカスすれば売上を伸ばせる」と直感しましたね。
その後、Fondは2023年にEdenredへM&A。僕も代表を退任し、今はエンジェル投資家として日米のスタートアップへ投資などしています。
日本は「上場が9割、M&Aが1割」、米国では「上場が1割、M&Aが9割」
宮田:Fondは上場を目指す手段もあったと思います。なぜM&Aを選んだんですか?
福山:創業したばかりのころは上場をマイルストーンにしていました。しかし、米国の上場基準は厳しく、僕らが創業10年目で上場できる規模まで成長させるのは難しかった。また、出資いただいたVCの方々のファンドの満期も近づいていて、投資家たちから「これからどうするのか?」という問い合わせもありました。そういった背景から、僕らもM&Aを意識していくようになりました。
米国は日本と違って、M&Aを意識している起業家が多いんです。日本のスタートアップはイグジットの9割が上場、1割がM&A。しかし米国では9割がM&A、1割が上場と言われています。米国の起業家はM&Aを意識している人が多いのです。

宮田:「米国では9割がM&A」とのことですが、頻繁にM&Aの打診が来たりするんですか?
福山:「M&Aについて話そう」と直接的に打診されることは米国でもほとんどありませんね。「将来的な提携について話そう」「資金調達について話さないか?」という感じで話し始めて、お互いにM&Aに興味があるかどうかのジャブを打ち合う。その末、M&Aに至るパターンが多いですね。
当然ですが、一度も会ったことがない人と、過去に数回会ったことがある人とでは温度感が変わります。M&Aに関しても、「競合だから話さない」ではなく、サービスのPMFが終わったら、他プレイヤーなどとコミュニケーションしておくことは大事なのです。
宮田:改めて福山さんのお話を伺うと、やはりすごい挑戦をされてきたんだなと思いました。だからこそ聞いてみたいのですが、福山さんは「米国で起業したときの戦い方」をどう感じていましたか?
福山:米国での起業は、投資家やサポーターだけでなく、競合もとても多いです。そして、1つのビジネスが伸びると、同じ市場で二番手、三番手が必ず現れ、なおかつ、有力VCから数千万ドル、数億ドル単位で調達をして競うような戦い方になります。PMFはもちろん大事ですが、その先には競争優位性や差別化を強く求められていくわけです。

宮田:僕は以前、北米の投資家と話したときに「競合はもっとたくさんいるだろう」と言われたことがありました。「本当にこれしかありません」と言ったら、「日本は平和だな」と驚かれたことを思い出しました。
福山:そうなんです、あらゆる数が違うんですよね。だからこそ、投資家の視点も日本とは少し異なります。
米国のVCのポートフォリオは「100社投資して99社は倒産しても1社が10億ドルや100億ドル規模でイグジットすればリターンを出せる」と考えられているんです。1社の膨大なリターンですべてを潤すという「Power Law(冪乗則)」のモデルなんですよね。一方で、日本では上場時の時価総額の平均値はそこまで高くないため、米国の投資に比べると比較的イクジットの確実性が重要視されると思います。
福山さんが「スタートアップにリスクがあるとは思っていない」と断言する理由
宮田:そんな「米国での起業」を経た福山さんだからこそ、最後に世界へ挑みたいと考えている起業家のみなさんへ何かひと言お願いします!
福山:僕は高校時代に感じた「絶対に見返してやる」という気持ちから、米国でひと旗上げることをずっと考えてきました。そのための最短距離をその都度選ぶことを意識するようにしていました。まず日本で事業展開してから米国で展開するのではなく、片道切符で米国へ渡ったのも、そちらの方が米国で成功するには最短距離だと思ったからです。
僕は、スタートアップに大きなリスクがあるとは感じていませんでした。なぜなら、最悪タコベルに戻ればいいから(笑)。そう思いながらやってきた結果、今のFondがあります。失敗した時のことについて深く考えすぎるよりも、「失敗確率をどうすれば下げられるか?」を考えることに時間を使ったほうが、諦めずにチャレンジし続けられるのではないでしょうか。

宮田:ありがとうございました!福山さんのインタビュー第二弾では、米国のセカンダリー市場と、日本市場のポテンシャルについて伺ったものを公開予定です。
(撮影:小池大介)
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