ROXX中嶋汰朗さん、なぜ上場直前にセカンダリー取引をしたんですか?
株式会社ROXX 代表取締役社長 / 中嶋 汰朗

「Yahoo!ファイナンス掲示板でも“革ジャン”と呼ばれていますからね、僕(笑)」。そう笑いながら話したのは、ROXX代表の中嶋汰朗さんです。
ROXXがセカンダリー取引(以下、セカンダリー)を実施したのは2024年7月。上場直前のことでした。「ファンド期限が迫っていたから」という理由で上場直前にセカンダリーを実施するスタートアップは少なくありませんが、ROXXの場合は「ファンドの満期が理由じゃない」。ではなぜこのタイミングでセカンダリーを実施したのでしょうか?
- 中嶋さんの革ジャン
- ROXXの「これまで」
- 上場直前のセカンダリー裏話
- 上場後の心境の変化
などについて、中嶋さんに直撃インタビューをしました。
中嶋 汰朗(なかじま・たろう) ROXX 代表取締役社長
1992年、東京都生まれ。2013年11月、青山学院大学在学中に株式会社ROXXを設立。 2021年、Forbes 30 Under 30 Asia 2021 ENTERPRISE TECHNOLOGY部門選出。2024年9月、東証グロース上場(証券コード:241A)。
宮田 昇始(みやた・しょうじ) Nstock 代表取締役CEO
2013年に友人と起業。2年間で10回以上の失敗を経て、2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2017年に社名を「株式会社SmartHR」に変更、2021年には海外投資家などから156億円を調達しユニコーン企業に。2022年にSmartHRの代表を退任し、自身が感じたスタートアップエコシステムの課題を解決するための新会社「Nstock株式会社」を設立。Nstockは2024年に国内投資家などから30億円の資金調達を実施。
Yahoo!ファイナンス掲示板でのあだ名は「革ジャン」
宮田 昇始(以下、宮田):ROXXさんの上場セレモニーでは、中嶋さんだけでなく、既存株主の方々も革ジャンを着ていたことが印象的でした(笑)。どうやってみなさんに革ジャンを着てもらったんですか?
中嶋 汰朗(以下、中嶋):僕一人だけが革ジャンだと悪目立ちするかもしれないと思い、直前に「上場セレモニーではジャケットもしくは革ジャンの着用をお願いします」と伝えました。みなさん、革ジャンを着てくれていて僕もとても驚きましたね(笑)。なかには、当日ギリギリで革ジャンを買いに行ってくれた方もいました。
宮田:上場セレモニーの様子を見て、中嶋さんは周りの方々に愛されていると言いますか、好きな服を着ても怒られないキャラクターでとてもいいなと思いました。

中嶋:いや、実は言いますと僕はもともとスーツ派でした。バンド活動をしていることもありプライベートでは10代からずっと革ジャンを着ていましたが、特に創業してまもないころは営業へ行く機会も多かったため、週の半分以上はスーツを着ていましたね。
僕が革ジャンばかり着るようになったのは、川邊さん(LINEヤフー代表取締役会長である川邊健太郎さん)から「中嶋は金輪際、革ジャン以外を着ないこと!」と言われたからです(中嶋さん注:ご本人は冗談のつもりだったと思います)。その後、革ジャンは僕のドレスコードになり、人前に出るときは必ず着るようになりました。
宮田:そうだったんですね。その効果もあり、中嶋さん=革ジャンのイメージがとても強いです!
中嶋:ありがとうございます(笑)。革ジャンのイメージが強すぎて、逆にスーツを着て取引先へ伺うと「今日は革ジャンじゃないんですね」とがっかりされることがあります。Yahoo!ファイナンス掲示板でも「革ジャン」と呼ばれていますからね、僕(笑)。
宮田:認知がすごすぎる(笑)。
「四季報を片手に営業電話をかける日々」からZキャリアで再スタートするまで
宮田:ROXXさんが上場してから5ヶ月ほど経とうとしています。その後、気持ちに変化などはあったのでしょうか?
中嶋:ここ数ヶ月はとてもバタバタしていて、振り返られるほどの余裕がありませんでした。なので、上場後の気持ちを言語化できていないのですが……。ただ、上場後は投資家の方々と接する時間が増え、質問されることも非上場フェーズとは違うなと感じています。そういった変化はありますね。

そもそも、僕が起業したのは大学3年生のとき。当初は新卒領域の人材紹介業としてスタートしました。しかし、このときはまだ「人材紹介業には免許が必要であること」「その取得には資本金500万円以上が必要なこと」を知らないレベルでした。さらに、創業メンバーにはエンジニアがいなかったため、創業時にかき集めた資本金400万円をサービス開発の外注費に充てていたのです。しかし、サービスを完成させることができないまま資本金だけがなくなり、すぐにキャッシュゼロの状態へと陥りました。
それからはもう、毎日がむしゃらでしたね。創業からの2年半は事業を立ち上げるため、渋谷109の2号館にあるPRONTOへオフィスかのように通いつつ、四季報を片手にひたすら営業電話をかける日々でした。生き抜くために、とにかく必死だったんです。
その後、現在のサービスに至るまでに数々の試行錯誤を重ねてきました。
【ROXXのこれまでのサービス】
2016年4月:SCOUTERをリリース
“スカウター”と呼ばれる副業エージェントが人材を企業に紹介することで報酬を受け取れるサービス。リリースして約5ヶ月で申込者数は1,000名、掲載求人数は累計1,500件を突破。しかし、その後は収益化ができず、2018年にクローズした。2018年5月:SARDINEをリリース
人材紹介会社向けの求人プラットフォーム。2019年に「agent bank」、さらに2024年には「Zキャリア」へとサービス名を変更した。2019年10月:back checkをリリース
オンライン完結型リファレンス/コンプライアンスチェックサービス。
現在の主力事業であるZキャリアの前身・SARDINEは、会社の売上を立て直すべく立ち上げたものでした。2017年の終わりは会社の売上がほぼゼロの状態でしたが、幸いなことにSARDINEは立ち上げから好調だったため、2019年にはARRが1億円の規模になりました。この勢いに乗って新たにオンライン完結型リファレンス/コンプライアンスチェックサービス「back check」もリリースできましたね。
宮田:僕はわりと早い段階からback checkを知っていて、SmartHR時代から活用しています。いろんなイベントで勝手にback checkの宣伝もしているくらいのファンです(笑)。正直に言いますと、僕は「back checkが伸びて上場した」と思っていて、ROXXさんが上場したタイミングで初めてZキャリアの存在を知りました。Zキャリアはどのような経緯で誕生したものだったんですか?

中嶋:きっかけは、SCOUTERを通じて積み上がっていた求人データでした。「このデータを、人材紹介会社に月額課金制で提供できないか?」という発想から、Zキャリアの前身であるSARDINE(現Zキャリア プラットフォーム)が誕生したのです。人材紹介業は「紹介できる求人」がなければ何も始められません。創業まもないころの僕らがまさにそうでした。そういった経験を活かせたことも功を奏し、サービスをリリース後、数ヶ月で導入社数は100社、求人企業の累計契約社数は1,100社を超えて順調に数字が積み上がっていました。サービス名をagent bankにしてからは、ノンデスクワーカーを中心に施工管理職や飲食業、販売・サービス業などの業界向けに紹介数が拡大していきました。
ところが、2020年以降はSaaS企業の評価基準が変わり、利益を伸ばせるモデルの確立が求められるようになりました。純粋にSaaS事業を伸ばしていくだけでは、資金調達のバリュエーションも合わなくなってきているように感じましたし、世間的にも「利益を生み出せるモデルに変えるべきだ」という風潮が強まっていました。
そこで「ここは思い切って、ノンデスクワーカー領域に特化した転職プラットフォームにしよう」と考えたのです。ノンデスクワーカーのキャリア形成は難しい。だからこそニーズがあることはバンドマンだった僕が一番よくわかっています。ここでも、過去の経験を存分に活かすことになりましたね(笑)。そして、サービス名を「Zキャリア」にして、再スタートを切ることにしたのです。
「売るか、高く買ってくれる買い手を見つけてくるか、どちらかです」
宮田:ROXXさんは上場直前である2024年7月にセカンダリーを実施していますよね。なぜこのタイミングでセカンダリーを?
中嶋:僕らが初めて資金調達をしたのは2016年1月。Skyland Venturesさんから調達させていただきました。その後、資金調達を複数回実施してきたこともあり、外部株主の持ち分が50%を超えていたのです。このまま上場するとオーバーハングが起きてしまうことがわかり、既存株主が保有する株式を新規株主へと入れ替えるために、セカンダリーを実施することを決めました。なので「既存VCがファンドが満期を迎えるから」という理由で実施したものではありません。
宮田:ちょっと補足しますね。「オーバーハング」とは、既存株主であるVCや投資家が保有する株式比率が高い場合、「今後、きっと大量の株式が売り出されていくだろう」と上場投資家に判断され、株価が上がりづらくなる現象のことです。
上場後、VCや投資家は保有する株式を売却して利益を上げていく必要があるので、一気に、または段階的に株式を売却していきます。売却された株式が市場に大量に出回ることになった場合、株価は下落しやすくなってしまいます。この下落を避けるため、買いを控える投資家が増え、株価が上がりづらくなってしまうのです。

このオーバーハングの影響で企業の評価額が最大で倍くらい変わることもあると言われていて、スタートアップ側としては上場時、または上場前に、株式を多く保有する既存株主に持ち分を減らすために売り出してもらう努力をする必要があります。しかし、既存株主からすると「株価が上がる可能性があるものを売りたくない」としてスタートアップ側と利害が合わず、交渉が難航するケースも少なくありません。
中嶋:おっしゃるとおりです。既存株主としてはリターンを求めて株式を売却するわけなので「売りたくない」と思うのは当然です。でも、全員が自社の利益だけを優先して売らずに上場を迎えてしまうと、その後も株価が上がらずにステークホルダー全員が損をしてしまう可能性が高くなります。ROXXとしての今後はもちろんですが、あとに続くスタートアップのことも考えて、そのような状態は解消したいと思いました。

そこで僕らはおもに銀行系VCや独立系VCの方々に「売却先を見つけて少しでもオーバーハングの懸念を緩和しないと株価は上がりません」「協力方法は、今の価格で売るか、高く買ってくれる買い手を見つけてくるか、このどちらかです」と伝えました。ちなみに、事業会社系のCVCの方々は、今後の事業シナジーも考えて、セカンダリーの提案はしていませんでした。
宮田:既存株主のみなさんは、どういった反応だったのでしょうか?
中嶋:「売りたくない」と言われるかもしれないと覚悟していましたが、意外にも大きな反対はありませんでしたね。むしろ、今はなかなか売り出すタイミングがないため「売れるなら売りたい」と考える既存株主もいらっしゃいました。おかげで既存株主の方々へのセカンダリーの売出交渉はスムーズに進み、ROXXの株式を長く保有してくれそうな投資家の方々を売り先としてつないでもらうことができました。そのご縁から、新たな株主として海外投資家も資本参画しています。既存株主の方々の協力には感謝しています。
結果的に、もともと50%弱あった既存株主の株式持分をセカンダリー取引で45%に減らし、さらに上場時点で15%へと減らすことができました。セカンダリーの価格は、ROXXの株をちょっと早めに優先株式から普通株式にしていたこともあり、プライマリーとあまり差がない価格になりました。
宮田:言える範囲で大丈夫なのですが、上場を予定しているなかでのセカンダリーはどのような感じだったのでしょうか?

中嶋:セカンダリーについて証券会社に確認したところ、「証券審査のタイミングまでに着金が完了していれば問題ない」と言われていました。その期日を超えてしまうと、東京証券取引所に「約束を守れない会社」というイメージを持たれてしまうので、何とか期日までに着金が完了するように交渉をしましたね。セカンダリーの買い手には海外送金が必要な方もいたので、期日がズレないかなど最後までハラハラしていましたが、ギリギリで間に合わせることができました(笑)。
実は、ROXXのセカンダリーは3回目。創業メンバーでセカンダリーを実施していたのは…?
中嶋:ちなみに、ROXXではこれまでセカンダリーを3回実施しています。上場直前のセカンダリーが初めてだったわけではないのです。
宮田:そうだったのですね。創業メンバーでセカンダリーをした人はいますか?
中嶋:あたしです。
宮田:突然のあたし!(笑)

中嶋:僕個人が実施したセカンダリーは約1億円です。
宮田:セカンダリーをしようと思った理由はなんだったのですか?
中嶋:当時の役員報酬は1,000万円。事業も軌道に乗り始めていて、売上も20億円に届くくらいでした。ただ、ちょうど2人目の子どもが生まれるという大きなライフイベントがあり、生活に余裕がなかったのです。
そのことを取締役会で話したら、社外取締役でもある福留さん(チェンジホールディングスの創業者である福留大士さん)から「(私生活における不安を極力減らして)短期視点に寄らないように、セカンダリーで買い手を探してあげるよ」と言ってくださったんです。正直、僕から「セカンダリーをしたい」と言い出しにくい部分もあったので、福留さんの一言が助けになりました。

宮田:セカンダリーでまとまったお金が手に入ったことで、経営にもポジティブな変化はありましたか?
中嶋:お金に対して短期的な心配がなくなりましたね。それによって、会社の価値を中長期的に大きくしていくことを考えられる精神的な余裕が生まれるようになりました。それまでは多少の我慢をしながらやってきたところがあったのですが、自分自身や好きなことにお金を使えるようになったのはよかったですね。

宮田:上場して数ヶ月が経って、まさにこれからのタイミングだと思いますが、今後に対する意気込みを最後に聞かせてください!
中嶋:僕は中学時代からバンド活動をしていて、ミュージシャンを目指していたこともありました。だからこそわかるのですが、自由度の高い生き方はビジネスにおけるキャリアアップが難しい。お金を稼ぐ手段が先細りしていくから、年齢を重ねるごとに生活に困ることになる。ドラマーの友人が生活に困っていたのでお金を貸したこともありましたが「お金を返せないから、代わりにドラムをもらってほしい」と言われました。そんな人たちにこそ、Zキャリアを活用してほしいと思っています。

中嶋:僕らは人材紹介業から始まり、SCOUTER、back checkを経て、Zキャリアという未経験正社員の採用に特化した転職プラットフォームを生み出しました。そして現在はZキャリアを通じて、正社員になることを望む非大卒や非正規雇用の方々の仕事探しをサポートできるようになりました。何だかんだで創業時にやりたいと思っていたことが、ようやくできるようになったのかなと思っています。2025年1月からZキャリアのテレビCMもスタートしていますので、どんどん加速度を上げてサービスを大きくし、自由度の高い生き方を選んだ人たちに寄り添えるものにしていきたいです。
余談ですが、ROXXが上場してからYahoo!ファイナンス掲示板やSNSでの言及コメントをよく見るようになりましたね。
宮田:よく経営者コミュニティで「精神衛生のためYahoo!ファイナンス掲示板は見るな!」とも言われていますが、見ているんですね!?
中嶋:そうです(笑)。株価が下がっているときは批判されていても仕方がないと覚悟していたのですが、意外と落ち着いてコメントなどを眺めている僕がいました。むしろ、ボロカスに言われるのは当然だし、何も書かれていないとROXXが認知されていない気がして心配になるくらいです!バンド活動でも観客の反応を必ず見ますよね?その感覚に近いかもしれません。
先日、ROXXは決算発表を終えました。改めて、経営は長距離走なんだなと感じているところです。ユーザーはもちろん、投資家の方々の期待にも応えられるように、頑張っていきます!
宮田:ROXXさんのことを、引き続き応援しています!本日はありがとうございました!

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