「経営者として踏ん張れたのはセカンダリーのおかげ」Repro平田さんの生株売却から見えた経営者の光と影
Repro株式会社 代表取締役 / 平田祐介

セカンダリーをしていなかったら、経営者として振る舞うことはできなくなっていたと思います──
スタートアップのセカンダリー事例でよく耳にするものの1つが「創業者が持つ生株によるセカンダリー」です。BtoC企業向けに各種マーケティングツールを展開するReproの代表取締役である平田祐介さんも、生株によるセカンダリー取引を実施した一人。
平田さんは2020年2月のシリーズCラウンド時に、生株によるセカンダリー取引をしていました。ストイックにReproの事業と向き合い続けてきた平田さんは、セカンダリーを通じてどのような心境の変化を感じたのでしょうか?さっそく話を伺うと、平田さんから語られたのは冒頭のひと言でした。
平田 祐介(ひらた・ゆうすけ) Repro 代表取締役
大手コンサルティングファームに入社後、主に製造業のクライアントに対してターンアラウンド戦略立案や新規事業開発支援業務に従事。2011年から複数事業の立ち上げに関与し、2014年にReproを創業。
宮田 昇始(みやた・しょうじ) Nstockホールディングス 代表取締役社長
2013年に友人と起業。2年間で10回以上の失敗を経て、2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年には海外投資家などから156億円を調達し、ユニコーン企業に成長。2022年にSmartHRの代表を交代し、自身が感じたスタートアップエコシステムの課題を解決するための新会社「Nstock株式会社」を設立。2025年には「Nstockホールディングス株式会社」に社名変更、グループ経営体制へ移行。
実は、この取材を受けるかどうかを悩んでいた
宮田 昇始(以下、宮田):平田さんは2020年のシリーズCの資金調達時に、生株によるセカンダリー取引を実施したと聞きました。本日は、当時のことをいろいろ伺いたいです。よろしくお願いします!
平田 祐介(以下、平田):もちろんです!と言いたい気持ちはとても強いのですが、実はこの取材を受けるかどうかは非常に悩みました。取材が決まってからは毎日「どうしよう」と怯えていたくらいです。

宮田:なんと!まずは、その理由から伺ってもいいですか?
平田:僕の基本スタンスは、あえて強めに言うと「欲しがりません、勝つまでは」です。少し軍隊的な表現ではありますが、Reproが成功するまではこれくらいストイックに頑張りたいと思っているんです。
それにも関わらず、経営者として結果を出していない状態で一足先に生株によるセカンダリー取引で資金を得たとなると「言っていることとやっていることが違うじゃないか!」と思われてしまう気がして……。僕がセカンダリーをしたことは、役員は知っているものの、従業員には伝えていないので余計にそう思うのかもしれません。
宮田:それでも、今回の取材を引き受けてくださったのはなぜですか?

平田:セカンダリーは、日本のスタートアップを発展させるために必要な手段です。だからこそ、このStock Journalでセカンダリーの経験談を話すことに意味があると思いました。
実際に、僕がセカンダリーに踏み切れたのは宮田さんやヤプリの庵原さん(ヤプリの代表取締役CEO、庵原保文さん)と会食したときに、お2人から体験談を直に聞くことができたからです。あのときのインプットがなかったら、セカンダリーはしていなかったと思います。
「経営者として結果を出していないのにセカンダリーをした」と責められるかもしれない恐怖に怯えることと、日本のスタートアップへの貢献を渋ることのどちらがダサいのか?両天秤にかけたところ、後者を優先すべきだと判断しました。いや、悩んでいる時点でダサいとは思うんですけれども(苦笑)。
宮田:ぜんぜんダサくないです。悩みながらも、貴重な経験談を話してくださることに本当に感謝です!
資金調達直後に経営状態が暗転「踏ん張らせてくれたのはセカンダリーだった」
宮田:改めて、平田さんがセカンダリーをするまでの経緯を教えてください。
平田:Reproは、僕にとって3回目の挑戦です。過去2回の起業では「お客さまからいただいた対価に見合う価値を提供できていなかった」という反省がありました。その経験を活かし、お客さまからいただいた対価に見合う価値をしっかり提供できるサービスを実現するため、2014年4月に創業したのがReproです。
当初はスマートフォンアプリのユーザー動向を動画で完全再現するサービスとしてリリース。一部マーケターには支持されたのですが「(動画を見たところで)何をどのように活用すればいいのかわからない」という声も多く寄せられました。そのため、管理画面を2〜3クリックしたら自動的にマーケティング活動が行われて、結果が得られるツールへとピボット。当時は深夜3時くらいまで働く日々でしたが、その努力が実を結び、数年でアプリ業界の国内シェア50%をとれるくらいにサービスを成長させることができました。
宮田:Reproは、創業当初から上場を目指していたんですか?

平田:いえ、どちらかというと「10億円くらいでM&Aできるといいな」と考えていました。過去2回の起業で失敗していたため、上場する規模まで会社を大きくすることに自信がなかったとも言えますが(笑)。ちょうど、他のスタートアップがそれくらいの金額で大企業にM&Aをしている様子を見ていたので「僕らも、2年くらいかけて本気で事業を作り込んでM&Aされるようにしよう」とイメージしていたんです。その考えは現実となり、2016年ごろに10億円前後でM&Aの打診がありました。本気で頑張り続けた結果、自分たちのサービスが初めて市場に受け入れられたように感じられてとてもうれしかったですね。

同時に、「上場を目指せるんじゃないか」という気持ちも芽生えていました。そこで、小さな会議室に創業初期メンバーで集まって議論しました。10人中2人は「当初の約束どおりにM&Aを目指してほしい」と話していましたが、残りの8人は賛成してくれたので、M&Aをやめて上場を目指すことにしたのです。
このときは、大きな波に乗っている感覚でした。「このままいけるぞ」と。さらにブーストをかけるため、2020年2月にシリーズCの資金調達を実施。既存事業を拡大するほか、海外進出や新規事業もどんどん進めていくつもりでした。
ところが、資金調達直後に新型コロナウイルスが蔓延。進出したばかりの海外拠点もロックダウンとなり、営業活動が一切できなくなりました。あらゆる施策がすべて裏目となり、特に海外進出のため先んじて設立していたシンガポールの子会社では毎月1,000万円以上の人件費を出し続ける状況になってしまいました。

はっきり言って、これは僕の経営判断ミスです。資金調達のおかげで首の皮一枚はつながったものの、このときのリソース配分はかなりの痛手になりました。Reproの事業もあまり伸ばすことができず、他のみんなにも苦しい思いをさせました。毎日毎日、申しわけない気持ちでいっぱいで、病院へ行けば間違いなくうつ病と診断されるくらいの精神状態に陥りました。
そんな僕を、ギリギリのところで踏ん張らせてくれたのがセカンダリーでした。
セカンダリーのおかげで、少なくとも家族に報いることができた
宮田:セカンダリーをすることになった経緯は何だったのでしょうか?
平田:シリーズCの資金調達では、最終局面でバリュエーション(評価額)の考えに乖離が発生していました。シリーズCラウンドでは180億円のバリュエーションで調達したことになっていますが、実際には「150億円じゃないと難しい」と投資家側から言われていたのです。なかなか交渉がまとまらず困っていたときに、宮田さんと庵原さんとの会話を思い出し、創業メンバーや初期のエンジェル投資家に保有株をセカンダリーで売却してもらうように打診しました。投資家に、少し割安なセカンダリーの株もあわせて買ってもらうことで、会社から発行される新株のバリュエーションを約180億円にするようにしたのです。

宮田:エンジェル投資家からも、セカンダリーの売却を募ったのですね。
平田:Reproは会社を設立した2014年と2015年に実施したシリーズAでの総額1億円調達時に、エンジェル投資家の方々から各ラウンドでそれぞれ10%(約1,000万)を出してもらっていました。エンジェル投資家の方々に直接会ってセカンダリーのお願いをしたところ、みなさん、快く引き受けてくださりました。なかには、このタイミングですべて売却し、ご自身の起業資金にした方もいらっしゃいました。
ちなみに、僕は発行済総株式数の約1%をセカンダリー取引で売却しました。手にした金額は約1億円でした。
宮田:セカンダリーによってお金が手に入ったとき、どんな気持ちになりましたか?
平田:正直な気持ちを話すと、希望する条件で資金調達できたことに加えて、プライベートの面でもすごくホッとしました。ステークホルダーの方々に報いることはまだできていませんが、Reproを創業してからずっと金銭面で我慢していた家族に少しは報いることができました。以前までは、57平米の家に家族5人で住んでいまして……物理的にも家に居場所はありませんでした。セカンダリー後は100平米の賃貸へ引っ越し、自分の部屋も持てるようになりました。ただ、僕はあまり贅沢に興味がなくて。Reproに何かあったときに備えて、9,000万円ほど残しています。
余談なのですが、セカンダリー取引の手続きをしてくれたReproの管理部長が「平田さんにとって1つの結果となる手続きをさせてもらえてうれしかった」と言ってくれたんです。この言葉は、一生忘れないと思います。

宮田:いい話すぎます。管理部長さんもそうだと思うのですが、Reproのみなさんはちゃんと平田さんの頑張りを見ていたということですね。
平田:ありがたいですよね。プライベートが安定したおかげで、経営が厳しいなかでもメンタルを維持できました。両方ともアンバランスなままだったら、僕は経営者として振る舞うことができなくなっていたと思います。
宮田:セカンダリーをするなかで、意識していたことはありますか?
平田:大前提ではありますが、セカンダリーは企業価値を上げ続けるための手段の1つです。その考えがブレてしまうと、株を多く手放しすぎたり、やる気を削いでしまったりなど誤った判断をしかねません。その考えからはみ出ないように意識していました。
また、スタートアップの起業家にはほどよいハングリー精神が必要だと思っています。僕の場合、手にする金額が5億円を超えたらハングリー精神が薄れてしまう気がしていたので、それ以上の金額にはならないようにしていました。
「絶対に不義理はしたくない」の考えから、インセンティブ改革を実施
宮田:お話を伺ってみて、平田さんは株主や創業初期メンバー、そして従業員のみなさんのことも気にかけていて、しっかりコミュニケーションをとろうとしている印象がありました。

平田:僕だけが幸せになるなんてダサいし、くり返すようですが、不義理はしたくないんですよね。
セカンダリーを経験してみて、生株を持っていない従業員は恩恵を受けられないことにはやはり違和感がありました。企業価値向上や事業成長に寄与した人には平等に成果を分配すべきです。そのような考えもあり、次のようなインセンティブ改革を実施することにしました!
- ストックオプション(SO)設計内容の見直し(M&A時に行使可能へ)
- 従業員持株会をスタート(奨励金は30%)
SOの設計内容見直しのきっかけは、再び宮田さんです(笑)。
宮田:なんと、光栄です!
平田:以前、宮田さんが「日本国内のSOは、半分以上がM&A時に権利者が行使できない設計になっている」とFacebookに投稿していて、ハッとしたんです。Reproには、創業初期からコミットしてくれているメンバーが今もなお頑張ってくれています。そんな彼らが不利益になるようなことは絶対に許してはいけない。SO設計内容を見直して、M&A時も行使できるようになりました。

一方で、SOのみで従業員のみんなに報いることは難しいと感じていました。Reproでは事業貢献した従業員にSOを付与するスタンスですが、そのほかの人たちが貢献していないかと言うとそうではありません。
そういった考えもあり、彼らが自分の意思で参加できるものとして、従業員持株会をスタートさせることにしました。奨励金は10〜20%が一般的だと聞いたので「じゃあ倍プッシュだ!」ということで、Reproでは思い切って30%にしました。まだ始めたばかりですが、Reproの株主になることで従業員のみんなの意識がどう変わるのかが今から楽しみです。
宮田:30%はすごいですね!持株会での変化はまたいつか聞かせてください。
「Reproに関わってよかった」「今に見てろよ」と言えるアツいフェーズへ!
宮田:これからのReproについても伺いたいです!
平田:そもそも「BtoC企業向けマーケティングオートメーションツール(以下、MAツール)」の歴史は、メールやアプリのプッシュ通知、SMSやLINEといったコミュニケーションチャネルのうち、1つだけを自動化するMA1.0から始まりました。Reproは2014年の創業以来、アプリのMAツールとして選択と集中した結果、国内で圧倒的なシェアを獲得することができました。
[Reproのサービス変遷]
- MA1.0(過去)・・・メールやプッシュ通知、LINE等のチャネルのうち、どれか1つを自動化するMAツール
- MA2.0(現在)・・・メールやプッシュ通知、LINE等のチャネルを全て1つのサービスで統合して自動化するMAツール
- MA3.0(未来)・・・従来のMAツールのスコープではカバーできなかった範囲において新たな価値(未だ秘密)を提供するMAツール
ところが、その後市場がMAツールに求める変化への対応が遅れてしまい、苦戦を強いられることになりました(MA2.0の状態に該当)。MA2.0はすべてのコミュニケーションチャネルを1つのサービスに統合して自動化するものですが、Reproは遅ればせながらMA2.0に対応できたという状況です。
ReproがMA3.0と定義するサービスに昇華させる準備もこの数年間並行して進めて来たので、2026年中に市場公開する予定です。だから、今は数年ぶりに毎日が楽しいです(笑)。MA3.0は企業と消費者をより幸せなかたちに近づける価値があるものなので、市場のみなさまには期待して待っていてもらいたいです。
シリーズCの資金調達後からの5年間は、従業員や投資家の方々に悔しい思いをさせてしまいました。経営者として、カッコ悪かったと思っています。やっと「Reproに関わってよかった」と思ってもらえるフェーズに入れます。いい意味で「今に見てろよ」と言いたい気持ちですね。
宮田:とても熱いフェーズに突入するわけですね!これからのReproが楽しみです。本日はありがとうございました!

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