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「SOが紙クズになる問題」に令和トラベルが新株式報酬制度であえて向き合った話

株式会社令和トラベル 代表取締役社長 / 篠塚 孝哉

2024年4月に施行された税制改正を受け、自社の株式報酬制度を見直したスタートアップは少なくありません。海外旅行予約アプリ「NEWT(ニュート)」を運営する令和トラベルもその1つでした。

令和トラベルが2024年4月からスタートさせた新株式報酬制度のおもな特徴がこちらです。

  • 信託ストックオプション(SO)から税制適格SOへ変更
  • 2年以上の在籍で20%、5年で50%を行使&換金可能※1
  • 退職済みの社員も遡ってすべて適用※2
※1:具体的には対象である社員が退職したタイミングで、普通株式として買い取りをする
※2:記事後半でくわしく説明します

令和トラベルの新株式報酬制度について、代表である篠塚孝哉さんはXで「SOの流動性をどうやって上げるべきかを考えた結果」と投稿していました。今回のStock Journalでは「連続起業家としての篠塚さん」を紐解きつつ、令和トラベルの新株式報酬制度についてインタビューを実施。篠塚さんへのインタビューから見えてきたのは、「本気で社員に報いるための仕組み」を実現するための令和トラベルの挑戦でした。

篠塚 孝哉(しのづか・たかや) 令和トラベル 代表取締役社長

2011年に株式会社Loco Partnersを創業し、2013年には宿泊予約サービス「Relux」を開始。2017年にはKDDIグループ入りを果たす。2020年にLoco Partners代表を退任してしばしの休養期間を設けるが、2021年に株式会社令和トラベルを創業し、「あたらしい旅行を、デザインする。」をミッションに海外旅行代理業を展開。2022年には海外旅行予約サービス「NEWT」をリリース。サービス開始2周年を迎えた今、アプリダウンロードは16万以上、総予約流通額は前年同期比で357%を達成した。

宮田 昇始(みやた・しょうじ) Nstock 代表取締役CEO 

2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年にはシリーズDラウンドで海外投資家などから156億円を調達、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。2022年1月にSmartHRの代表取締役CEOを退任、以降は取締役ファウンダーとして新規事業を担当する。2022年1月にNstock株式会社(SmartHR 100%子会社)を設立。株式報酬のポテンシャルを引き出すメディア「Stock Journal」を運営している。

Loco Partnersも令和トラベルも、WillとCanをかけ合わせた結果だった

宮田 昇始(以下、宮田):篠塚さんは2011年に創業したLoco Partnersで一流旅館やホテルに特化した宿泊予約サイト「Relux」、2021年には令和トラベルを創業して海外旅行予約アプリ「NEWT」をリリースしています。どちらも旅行事業ですが、そもそもこの領域で起業しようと思ったのはなぜだったのでしょうか?

篠塚 孝哉(以下、篠塚):まず最初にお伝えしておきたいのですが、僕は「起業するぞ」と決めていたわけではなくて……(笑)。Loco Partnersも令和トラベルも、僕にとっての「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」をかけ合わせた結果、創業したものでした。

令和トラベル代表、篠塚孝哉さん

宮田:ちょっと意外でした!そんな篠塚さんが起業することになった経緯を知りたいです。

篠塚:僕は2007年にリクルートへ新卒入社し、約4年ほど旅行予約サイト「じゃらん」の営業やマーケティングを担当していました。じゃらん1年目は地方の宿を担当していて、日本各地へ足を運んでいましたね。

そんなときに起こったのが、東日本大震災でした。

じゃらんを通じて知り合った宿の方々から「困っている」「助けてほしい」という連絡をたくさんいただきました。なんとか助けになれないかと奔走しましたが、個人的に旅行のコンサルティング活動をするくらいでしか貢献できず、自分の不甲斐なさに悩みました。

お世話になった方々の助けになりたい。そんな気持ちと同時に「自分だけが安全な場所に留まっていてはいけない。そこを飛び出してでもやるべきことをやったほうがいいんじゃないか」と考えるようになり、2011年に地方の方々のパートナーになることをミッションに創業したのがLoco Partnersでした。なので、Loco Partnersの“Loco”は“Local”という意味なのです。

篠塚さんの起業エピソードを聞く、Nstock代表の宮田

宮田:「助けになりたい」という一心だったんですね。

篠塚:そうなんです。ただ、当時はスタートアップに知り合いが多かったわけではなく、資金調達のいろはもわからず「VCって何?怖そう」と思っていたくらいのレベルでした。資本金も、自分の貯金から出した200万円だけ。使い切ったら会社をたたんで転職しようと思っていましたね。

そうしてLoco Partnersは「旅行のコンサルティング事業」としてスタートしました。売上は順調で、二期目にはすでに売上が2億円ほどになっていました。でも、ある日ふと「コンサルティングだけでは地方の方々の助けになれない」「“社会としてなくてはならない会社”にはなれない」と気づき、「会社をスケールさせるためにもプロダクトを作らなければ」と考えるようになっていきました。これがのちのReluxへつながっていったのです。

本当は早期リタイアのつもりだったけれど…令和トラベルを創業

宮田:Reluxのヒントは何だったんですか?

篠塚:ヒントになったのは「SNSの台頭」「キュレーション」です。

改めてReluxのヒントとなった要素を語る篠塚さん

Reluxを立ち上げた2013年当時はFacebookやTwitter(現X)などのSNSが台頭していて、日本国内のカスタマー(ユーザー)を急増させていました。そういったプラットフォームを活用したマーケティングはうまくいくはずだと思ったのです。

「キュレーション」に関しては、じゃらん時代の気づきがヒントになりました。というのも、じゃらんをやっているときに、友人から「いい感じの旅館を探しているんだけれどオススメはない?」と聞かれることが多かったんです。「パートナーとの記念日に行きたい」「子どもも一緒に行く」「車で行けるところ」といった条件を聞きつつ、3つほど候補を絞って提案していました。そうすると、ほぼ確実に予約が決まるんですよね。

Relux以前までの旅行サイトでは、宿泊先情報を大量に出すことが肝でした。しかし、カスタマーの多くが「本当にオススメのところだけを知りたい」と思っていたのです。そこでReluxでは、おすすめの宿泊先をセレクティブに出し、カスタマーに意思決定してもらうかたちにしました。リリースしてしばらくの間は売上ゼロが続いて苦戦していましたが、宿泊先の登録数を増やすことでじわじわとカスタマー数を増やしていきました。

宮田:そしてLoco Partnersは2017年にKDDIグループ入りをして、篠塚さんは2020年に代表を退任。その翌年には令和トラベルを創業しています。連続起業家の中には、同じ領域で起業することを避ける方もいらっしゃいますが、篠塚さんは気にならなかったんですか?

宮田は、ReluxとNEWT、同じ事業領域で起業することに迷いがあったかどうかを質問する

篠塚:「旅行事業が好き」の気持ちが強かったので、気になりませんでしたね。

実は、Loco Partners代表を退任したときはFIRE(早期リタイア)をする選択肢もありました。しかし、のんびりしていても、旅行をしていても飽きてしまいまして(笑)。映画も読書も、企業経営をしていたからこそ「このアイデアを取り入れてみよう」と楽しめていました。しかし退任後はそれもなく、何を読んでも、観ても、空虚な感じになってしまって。まぁ、暇な状態に耐えられなくなっていったというわけです。

起業しようと思ったもう1つの理由は「元Reluxの篠塚さん」と呼ばれることが嫌だったから。過去の実績に結び付けられているようで、居心地が悪かったんです。Reluxを超えるものを作らなければ、という気持ちも強くなっていきました。

もちろん旅行領域以外でも、Web3やEC、宇宙などさまざまな事業を検討しました。しかし、どれもWillとCanが噛み合わず。何より、僕は旅行事業しかやったことがないので、ケイパビリティもそこにしかありませんでした。

また、当時はコロナ禍の真っ只中。海外旅行へ行きたくても行けない状況を肌で感じて「むしろチャンスしかない」と思ったんです。

コロナ禍で見えた事業チャンスとNEWTの“こだわり”

宮田:2020年〜2021年のコロナ禍では緊急事態宣言が何度か発令されたりしていて、旅行事業に大きなダメージを与えていた印象が強いです。でも、篠塚さんにとっては「チャンスしかない」という状態だったんですね?

篠塚:そうですね。一見、旅行事業者にとっては非常にピンチな状況に思えるのですが、新規参入を狙う僕らのような立場からすると、むしろ千載一遇のチャンスでした。

コロナ禍での起業を「むしろチャンス」と振り返る篠塚さん

宿泊施設やフライトの稼働が100%のときに新しい提案をしても「今は問題ないので不要です」と言われてしまいます。しかし、稼働が落ちていると「一部屋でも多く埋めたい」「より多くのお客さまにフライトを利用してもらいたい」と考えるため、新しい提案を受け入れてもらいやすくなるのです。古巣であるじゃらんも、リーマン・ショックのときに同じ理論で業績を伸ばしていました。

また、他社がコロナ禍で身動きをとれない間に資金調達などしてプロダクトを準備し、コロナが明けたら一気に攻めの姿勢に転じられるというストーリーも描けるとわかりました。そして、NEWTの開発へ踏み出したのです。

宮田:とはいえ、旅行事業としてNEWTは後発です。どういった差別化を意識したんでしょうか?

篠塚:海外旅行事業のターゲット層には「海外旅行は好きだけれどITに不慣れな人」「ITは得意だが海外旅行に不慣れな人」などさまざまです。では、双方に満足してもらえるサービスとはどんなものか?そこで、フライトや宿泊先、保険などをサービス側が準備し、なおかつ安価なツアーを提供できるサービスを目指しました。

なかでも、特にこだわったのが使い勝手です。とにかくシンプルにわかりやすく、迷わせないUIとUXを徹底しました。NEWTで海外旅行者が困らないパッケージングでのツアーを簡単に選べるようになっているのはそのためです。

宮田:まさに、篠塚さんのCanが存分に活きましたね!

篠塚:ところが、旅行事業に対して「Can」はあると思っていたのですが、実際にやってみるとそんなになかったことが判明しまして(笑)。

篠塚さんは、旅行事業に対して「Canはある」と思っていたが……?

宮田:あると思っていたCanがそんなになかったんですか!(笑)

篠塚:ぜんぜんなかったんです(笑)。

僕はこれまで国内旅行事業をしていて、海外旅行事業は初めてでした。この2つは、似て非なるものなのです。国によって法律だけでなく、ツアーを組むためのOTA(Online Travel Agent、インターネット上だけで取引をする旅行会社)の仕組みもまったく異なるものでした。「海外旅行ツアーってどうやって作るんだ?」と、ゼロから試行錯誤することになりました。それでもここまでやり続けられたのは、やはり「旅行事業が好きだから」だったんですよね。

宮田:外から見てもNEWTはすごく勢いで伸びている印象なのですが、実際にはどうですか?

篠塚:はっきり言って、とても伸びています。サービス開始2年で、ReluxをKDDIグループに売却したときくらいの流通総額に達していますね。

宮田:ReluxをKDDIグループへ売却したときは、たしかリリースして5年ほど経っていたはずなので……2年で追いついたということですか!?

篠塚:そうです。数字で言うと、アプリダウンロード数は約20万、総予約流通額は前年同期比357%を達成しました。おもにSNSでの集客ですが、セールなどを告知するとすぐに予約が入るなど収益性がとても高いサービスなのです。

「SOは行使できなきゃ紙クズになる」という問題は起業家としてずっと感じていた

宮田:篠塚さんにとって2度目の起業だからこそ気になっていたのが、令和トラベルの株式報酬制度設計についてです。Loco Partnersでの経験があるからこそ、こだわった部分もあるのではないかと思っています。

そして先日、篠塚さんは「令和トラベルの株式報酬制度を刷新した」「行使できなきゃ紙クズになる問題があった」とXに投稿していました。改めて、どういった経緯で刷新することになったのかを伺いたいです。

篠塚:令和トラベルの創業当初は信託SOによる株式報酬制度がありました。しかし、2023年2月時点で使い勝手が悪くなり、さらに同年12月に公表された税制改正大綱を受けて「税制適格SOのほうが令和トラベルにとって良いのではないか」と感じました。同時に「このタイミングで、みんなに付与したSOの流動性を上げる方法を模索できないだろうか」と思ったんですよね。

「行使できなきゃ紙クズになる問題があった」とは、僕自身が起業家としてずっと感じていたものでした。そもそも、スタートアップのSOは行使できるタイミングが少ないため流動性が低いという課題があります。「ならば、どうすれば流動性を上げるかたちで株式報酬制度をアップデートできるのだろうか?」と、令和トラベル社内で株式報酬検討チームを立ち上げ、議論をスタートさせました。

令和トラベルの新株式報酬制度について語る篠塚さん

宮田:そういった議論の末、令和トラベルでは信託SOから税制適格SOへ変更。ベスティング条件も入社日や付与日起算で「2年間で20%、5年間で50%」で権利確定し、退職時には権利確定した分のSOを権利行使したうえで普通株として買い取るという、国内ではまだ例が少なく、なおかつ社員さんにとって有利な内容となっています。

ただ、会社としては毎回、株価算定のような事務的コストが発生して大変になりそうですが、どうですか?

篠塚:2024年4月に導入したばかりなので事務的コストがどれくらいになりそうかは未知数です。しかし、株価算定に関して、現時点で考えているのは次のような2つの方法です。

  1. 直近の資金調達時で出た優先株の株価を参考に、一定のロジックで普通株の株価を算定し、会計・税務面をバックチェックする
  2. 毎年の決算ごとに株価を計算し、オープンにしておく

このいずれかの方法であれば、社員たちも「もしも今行使したらこれくらいもらえるのか」がわかります。まさにNstockが株式報酬SaaSでやっている「あなたの持っているSOはこんな価値だよ」「今これくらいの金額だよ」を社内で実現したいと思っているんですよね。

宮田:「今、行使した場合の株価」がわかるのはとてもいいですね!

「社員が頑張ってくれた期間」に報いるため、退職リスクを受け入れた

宮田:社員のみなさんに対してフェアな情報を出すことは、とてもいい話だと感じました。一方で、情報を出せば出すほど、退職する人が増えそうな気もします。

新株式報酬制度の退職リスクについて質問する宮田

篠塚:おっしゃるとおりですね。それでも僕は、頑張ってくれた社員みんなに報いる制度にしたかったんです。

SOの流動性が低いと、行使できるタイミングまで社員を会社に縛り付けてしまうことになりかねません。実際に、それを理由に退職できず、人生におけるチャンスを逃すことになったという話もよく聞いています。また、早い段階で入社した人たちがSOを持ち続けていると、後半で入ってきた人たちへの付与も難しくなります。

そこで令和トラベルでは「社員が頑張ってくれた期間=在籍期間」に報いるかたちがフェアだと判断しました。退職した社員もハッピーだし、頑張り続けている社員にとっての原資も増やせるというメリットがあると考えれば、退職率が多少上がることは大したリスクにならないだろうと考えた結果でした。退職率が上がる=社員が令和トラベルの将来価値を信じていない状態でもあり、それは経営者の責任ですしね。

僕自身、社員が退職することをなるべく拒否しないようにしているんです。創業者として引き止めたいと思わないわけではないので非常に複雑な気持ちにもなりますが、その人の感情ややりたいことを縛る権利はないので。ただ、一緒に頑張った期間があることは事実です。そこに対して、ちゃんと報いるものにするには今のやり方が合っているのではないかと思っています。

退職リスクは恐れない、それよりも「社員に報いる制度にしたかった」と語る篠塚さん

宮田:退職する社員を引き止めないのは僕も同じ考えなのでとても共感します。ちなみに、令和トラベルの新株式報酬制度では「退職済みの社員も遡ってすべて適用」という内容もありましたが、どのように報酬を渡しているのでしょうか?

篠塚:SO付与前に退職した社員には在籍期間をさかのぼってみなし計算したうえで退職金としてお渡しすることになります。ただし、「単純な退職金として支払うので、税率が違うところは許してください」と伝えていますけれども。

宮田:本当に、社員に報いる制度にしたんですね。

篠塚:大前提として、株式報酬制度は「社員たちが頑張った期間に報いるための制度」です。令和トラベルでは、それをやりきったという感じですね。うれしいことに、新株式制度を発表したときは、社内のリアクションもほぼポジティブでした。まだ具体的に決まったことは何もないですが、今後は社内持株制度や、さらに流動性の高いSOなどにもチャレンジしていきたいですね。

宮田:ものすごいスピードで急成長中の令和トラベルさんの次の打ち手がとても楽しみです。今日はありがとうございました!

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