「最強のストックオプション」は存在しないから──上場3年のnoteが株式報酬を毎年見直す真意
note株式会社 取締役CFO / 鹿島 幸裕

従業員持株会の奨励金率30%、有償ストックオプション(以下SO)の導入──これらはすべて、note株式会社(以下note)が上場後に積み重ねてきた株式報酬制度のアップデートです。
一度決めた株式報酬の内容を変えるのは簡単ではありません。ですがnoteでは「SOをはじめとした株式報酬制度を年に1回ペースで見直しています」(同社取締役CFOの鹿島幸裕さん)。
なぜ毎年、見直しを続けているのか? noteが目指す理想のSO設計とは?その真意を、さっそくインタビューしました。
鹿島 幸裕(かしま・ゆきひろ) note 取締役CFO
東京大学法学部卒業、スタンフォード大学MBA。外務省、外資系戦略コンサルティング会社を経て、株式会社カカクコムの食べログ本部において新規事業の責任者や全社の経営企画部長を経験。その後PEファンド投資先のCFO兼CAOを経て、2018年にnoteへ入社。noteでは取締役CFOとして戦略・財務を中心にコーポレート系全般を統括、数度の未上場ラウンドでの資金調達、事業と組織の拡大を牽引し、2022年に東京証券取引所グロース市場への上場を果たす。IPO後は、日本の上場企業として初のGoogleとの資本業務提携、続いて韓国NAVER、日本のKADOKAWAとの資本業務提携を連続的に実現。
上場前のnoteのストックオプション設計は「あえてシンプルなものにしていた」
──非上場時代にSO設計を工夫するケースは増えていますが、上場後に、それもnoteさんのように毎年見直しが行われるケースはあまり聞きません。そもそも、noteではSOの立ち位置をどのように考えていたのでしょうか?
鹿島 幸裕(以下、鹿島):大前提として、noteにとってSOは「投資家と社員のインセンティブをアラインさせるためのもの」です。
投資家のみなさんからすると、投資先のスタートアップの企業価値と株価を上げることが大事です。その際にnoteの役員や社員もSOを持つことで、株価上昇に向けたインセンティブが生まれます。株主と同じ目線でnoteという企業を大きくしていくためには、SOによる結びつきは欠かせませんでした。
そしてもう1つ、SOの話よりもさらに上位の思想として、私はnoteの社員に「noteで働いていてよかった」と感じてもらえるものを提供したいと考えています。
たとえばnoteでの経験によってその人のキャリアの価値が高まった、ということがあれば社員にとって大きなメリットですし、単純にnoteでの仕事や人との関わりがみんなの人生にとって良い思い出・彩りになっているとうれしいです。そういったものは非金銭的な意味での報酬と言えますが、当然金銭的な側面でも社員の頑張りに報いたい。SOはその金銭的な報酬の一つという位置付けです。
──上場前のnoteさんでは、どんなSOを出していたのでしょうか?
鹿島:noteがまだ小さい規模だったときから一貫して税制適格SOを出していました。noteの歴史は意外と古く、当時は今みたいにSO周りの情報はほとんどなく、税制適格SOが標準的だったと思います。その後、新しいSOの選択肢が出てきてからも、CFOつながりで「御社ではどうしていますか?」と情報収集しながら、結論としては税制適格SOを維持しています。
SO設計の軸にしていたのは「シンプルでわかりやすいものにすること」でした。あまりにテクニカルでわかりづらいものだと、もらった方も「これってどういう条件を達成したらいいんだっけ?」となってしまいます。その点だけは気をつけていましたね。
──では、業績要件やその他の細かい設計などは入れていなかったのでしょうか?
鹿島:入れていませんでした。非上場スタートアップは良くも悪くも業績を見通しづらいものです。その時点で細かい分岐をするよりは、まだまだ会社として小さいからこそ、大きく成長することでリターンをしっかりと得られるものにすべきだと考えました。
もちろん、当時と今では考えも変わりましたし、SOをはじめとする報酬設計は会社によって思想が千差万別だと思うので、正解は一つではないと思います。ただ、シンプルでわかりやすいのはステークホルダーにとって重要なことです。
noteが上場したのは2022年12月です。このときの市場は決して追い風ではなかったのですが、上場はゴールではなくあくまでも手段であると我々は考え、「ミッション達成に向けて、今上場すべき」という判断で上場に踏み切っています。
上場直後はSOを行使してもメリットを得られる状況ではなかったこともあり、当時、SOを行使する人はそれほどいませんでした。業績や株価が大きく回復・伸長した今では、上場前に付与していたSOを行使する社員がかなり増えました。少し時間が空きましたが、社員の期待に応えられたのはCFOとしてとてもうれしいと感じる瞬間でした。
年に1回、設計内容を見直す理由「“最強のストックオプション”は存在しないから」
──noteさんでは、上場前は「シンプルでわかりやすいもの」として税制適格SOを選び、上場後の2023年も税制適格SOを発行しています。ところが2024年には1円SO、2026年1月には有償SOと、SOの種類そのものを増やしてきました。なぜ多様化させているのでしょうか?
鹿島:SOの種類を増やした一番の理由は、株式報酬の種類を多様化することで、受け取る側がポートフォリオを組めるようにし、リスク分散とインセンティブ機能の向上を図る趣旨があります。
上場企業にとっての株価は、業績が良いからと言って必ずしも一本調子で上がるわけではありません。当社の上場時がまさにそうであったように、市場環境の影響も大いに受けます。これは発行時点の株価が高い時も同様です。
税制適格SOの行使価額は発行時の一時点に固定されるので、そのあとに株価が下がると行使価額だけが高いまま残ってしまって、インセンティブにつながりにくくなってしまいます。こうなると、SOのインセンティブ機能が働かず、株主にとってもデメリットになります。
そんなとき、行使価額の低い1円SOのようなタイプがあることで、「株価が下がっても、こちらは機能する」という状況を作ることができます。そこでnoteでは複数の種類のSOを付与することで、トータルでみたときに受け取る側も安心できるような設計を目指しました。
リスク分散といっても、株価に連動する株式報酬という本質は同じですので、もちろん株価が高ければ高いほどリワードが最大化されます。その点で「投資家と社員のインセンティブをアラインさせる」という大目的は変わりません。
有償SOについては主に役員向けに設定し、業績によって行使価額が変動するかたちとなっています。「シンプルでわかりやすいものにすること」という前提は変えていませんが、noteが今後中長期的な成長を目指すにあたり、役員に関しては業績面で一定の具体的なコミットを求めた結果でもありました。
──ちなみに上場後はどんなペースでSOを発行しているのでしょうか?
鹿島:手続きの関係で複数回に分かれることもありますが、基本的には1年に1度、希薄化率1%程度を目途に発行しています。その理由は、年1%の希薄化なら、それを大きく上回る成長で投資家のリターンを生み出せると確信しているからです。上場企業は会計上の費用計上もあるので、そのバランスも見ています。
株式報酬はいろいろな選択肢がありますが、社員のインセンティブ面や会社の費用計上などの面で細かなメリットとデメリットの違いがあり、「これが最強」というものは存在しません。会社のフェーズだけではなく、市場環境によっても変えていく必要があります。そのため、noteでは年に1回ペースでSOを含めた株式報酬内容を見直し・アップデートしているのです。
──「この設計内容である程度は固定」としていないんですね。そうなると、CFOである鹿島さんや実務を担当する方々へそれなりに負担がかかる印象もあります。
鹿島:負担はかかります。でも、そこまでして真剣に向き合わないと「インセンティブとして機能していないなか、希薄化だけが進んでしまった」なんて事態になりかねません。実際に、過去にそういった事例を見聞きしてきました。
「投資家と社内のインセンティブをアラインさせる」という大目的は変えず、なおかつその目的を達成するために「1年に1度・希薄化1%」というペースで発行する。株式報酬の内容は、毎年見直しやアップデートを続けていくつもりです。
上場後の株式報酬設計は「むしろ選択肢が広がり、自由度が高まった」
──上場前と上場後で、株式報酬の設計の自由度や考え方はどう変わったと感じますか?
鹿島:上場後は選択肢が広がったと感じています。
上場前は、理論的にはいろんな株式報酬を設計できるとはいえ、実際にはそれほど選択肢が多いわけではありません。
一方で、上場後は資本政策の選択肢が増え、SOをはじめとする株式交付型の仕組みを広く検討できるようになります。また、市場で日々株価がつくことで、客観的な価値が明確です。上場後はRS(譲渡制限付株式)やRSU(譲渡制限付株式ユニット)のような株式報酬が実務的に機能するのはそのためです。
noteは上場してから、先行する上場企業がどういう株式報酬を出しているかをかなり研究しました。日本の上場企業もいろいろな株式報酬を出していて、改めて奥深い分野だなと感じています。税制適格SO、RS、RSU、1円SOなどの種類や業績連動といった達成条件について一通り研究したうえで、noteの今のフェーズに合うものを選んで設計しました。
──さらに、上場後は従業員持株会でも奨励金率を30%にしたと発表されていました。非常に高い水準だと思いました!
鹿島:ありがとうございます!
従業員持株会は「報酬を通じて投資家の方々と社員のみんなをアラインさせるという意味だと、別にSOだけじゃなくてもいいよね」という発想から生まれました。「アラインさせる」ならば、従業員持株会でも同じ効果を期待できます。
今はNISAや投資ブームがあるとはいえ、まだ投資をしていない人のほうが多数派なんですよね。そういう状況で、一番身近な「自分が働いている会社の株を取得する」という体験をどう後押しするか。そのハードルを下げるために、奨励金率を思い切って30%まで上げました。
──社員の方の反応はいかがですか?
鹿島:社員からは好印象な反応があり、持株会の加入率も上がりました。その様子を見て「やってよかったな」とホッとしましたね。持株会もその時の時価よりも割安で株を買えるという意味ではSOと同じなので、会社が社員に提供する金銭的な報酬の一つとして重視しています。
「“来年はもっと良くするぞ”と、いいストックオプションのかたちを更新していきたい」
──上場後3年を振り返って、株式報酬への手応えはいかがですか?
鹿島:株価が上がり、SOを持つ社員が行使している様子を見ると「株式報酬を積極的にやってきてよかったな」と手応えを感じます。1年に1度の付与ですが、このペースもルーティン化しつつあり、企業価値向上にもつながってきていると思っています。
そういう意味でも、上場前後に関わらずSOは経営における武器です。ただ、どれだけ手を尽くしても、SOの価値や意図が伝わっていないと、受け取る側も「ふーん」で終わってしまい、すごくもったいないことになってしまいますので……。noteにおけるSOの価値や意義を伝えつつ、株式報酬の中身を毎年見直し・アップデートを続けていきたい。そして「今年はベストな設計にできた」「来年はもっと良くするぞ」と、いいSOのかたちを更新していきます。
──会社を取り巻く環境変化の波に乗りながら、社員のみなさんと一緒に企業価値向上のための株式報酬を模索しているnoteさんの真摯さを感じました。本日はありがとうございました!
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