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総工費1億円の野球ジム設立は「ストックオプションがあったから」 Knowhere伊藤久史さんが“好きな領域”に全力投球できた理由

株式会社Knowhere 代表取締役 / 伊藤 久史

東京メトロ「外苑前」駅から徒歩30秒の場所にあるのは、日本のプロ野球選手をはじめ大リーガーも使用している高性能システムなど、野球好きにはたまらない本格的な設備が揃う「外苑前野球ジム」です。なんと、総工費は1億円なのだそう。

外苑前野球ジムの様子。本格的なマウンドも揃っている

外苑前野球ジムを立ち上げたのは、Knowhere代表取締役の伊藤久史さん。この挑戦ができたのは「ストックオプション(以下、SO)行使後の株式を売却したことで得たキャピタルゲインがあったからこそ」だと言います。

SOは、伊藤さんの人生にどのような影響を与えたのでしょうか?さっそくお話を伺いました。

伊藤 久史(いとう・ひさし) Knowhere 代表取締役

慶應義塾大学卒業後、2011年に株式会社DeNAへ入社。2013年にHEROZ株式会社へ入社し、スマホアプリの開発・運営、AIの企業向け導入などを担当。その後、2020年9月に株式会社Knowhereを創業した。無類のNFL、MLB好き。好きな選手はトレバー・バウアー。

宮田 昇始(みやた・しょうじ) Nstock 代表取締役CEO

2013年に友人と起業。2年間で10回以上の失敗を経て、2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2017年に社名を「株式会社SmartHR」に変更、2021年には海外投資家などから156億円を調達しユニコーン企業に。2022年にSmartHRの代表を退任し、自身が感じたスタートアップエコシステムの課題を解決するための新会社「Nstock株式会社」を設立。

総工費1億円の野球ジムは「ストックオプションがなければ実現は難しかった」

宮田 昇始(以下、宮田):今日の取材で初めて外苑前野球ジムへ来たのですが、想像以上に本格的なジムで驚いています。野球場みたいなマウンドだ……。取材前にキャッチボールもさせてもらったのですが、これは気持ちがいいですね!

外苑前野球ジムでキャッチボールを楽しむNstock代表の宮田

伊藤 久史(以下、伊藤):ありがとうございます!僕も時々ここでキャッチボールしていますが、気分転換にもいいですよね。

ちなみに、マウンドはプロ野球が行われる野球場と同じ土を使っています!金具がある野球スパイクを履いてもOKな野球ジムは少ないんです。外苑前野球ジムでは金具がついた野球スパイクでも練習できるよう、土に1,000万円ほどかけました。

宮田のボールをキャッチしようと構えるKnowhere代表の伊藤さん

宮田:土に1,000万円……!

もっといろいろと野球ジムの話を伺いたいところですが、話題を切り替えますね(笑)。まずはKnowhereさんの事業内容について教えてください。

伊藤:Knowhereは2020年に創業しました。「誰もがスポーツが上手くなれる環境を」をミッションに掲げ、現在は野球に特化したスポーツAI事業に取り組んでいます。

スポーツAI事業に注目したのは、スポーツの現場では今でも人の感覚や経験に基づいた、アナログで効率的ではないトレーニング方法が多く残っていることを課題に感じたためです。もちろん、従来のトレーニング方法のすべてを否定しているわけではありません。ただ、根性論や精神論に頼りすぎているものが残り続けているのは違うんじゃないかと思っています。そこで我々はスポーツAI事業を立ち上げ、データやアルゴリズムなどを活用しながらトレーニングの効率化や成果を高めようとしているのです。

その一環として2021年12月に誕生したのが、この外苑前野球ジムです。データ収集を目的に、カメラとレーダーで投球や打球を計測・分析するデータトラッキング機器「ラプソード」などを導入しました。現在は、ラプソードで収集したデータを解析し、スマホ1台で体の動作解析やボールの回転数などのトラッキングができるサービスを開発中です。

外苑前野球ジムに設置されている高性能カメラ

宮田:ここまで本格的な野球ジムは初めて見た気がしています。ジムの総工費はどれくらいだったんでしょうか?

伊藤:総工費は1億円です。

宮田:なかなかの金額ですね!資金はどうやって集めたんですか?

伊藤:ジムの設立に必要な資金はVCと個人投資家から合計5,000万円を調達し、残りの5,000万円は金融機関から創業融資で満額を借り入れました。その際、とても役に立ったのが前職であるHEROZで得たSOでした。SOを行使して株式に変え、それを売却したことで「個人の銀行口座に十分な資金がある」と示すことができました。おかげで信用力が増し、満額での審査が通ったと思っています。

宮田:創業融資が満額で審査に通るのはすごくレアなケースだと思います。自分の周りでもなかなか聞いたことがないです。

伊藤:ですよね。設備費用なので審査が通りやすかった側面もありますが、SOがなければ難しかった気がしています。

「Ⅰの部に載る」「ストックオプションをもらう」を視野に入れてHEROZへ

宮田:伊藤さんご自身のことも伺いたいです。確か、ファーストキャリアはディー・エヌ・エー(以下、DeNA)ですよね?

伊藤:そうです、2011年に新卒でDeNAへ入社しました。当時のDeNAはまだオフィスが京王線「初台」駅にあるころで、THE・ベンチャー企業という感じでした。そんな環境下で、毎日テレアポ営業をしていましたね。このときから「起業したい」と思っていたので、DeNAは1年ほどで退職し、友人が創業したばかりのスタートアップへ参画しました。しかし、事業がなかなか安定せず、最終的には1年弱で会社をたたむことになり……そして24歳になったタイミングで1人目のビジネス職として入社したのがHEROZでした。

これまでのキャリアを語るKnowhere代表の伊藤さん

宮田:いろんな選択肢があったと思いますが、なぜHEROZだったのでしょうか?

伊藤:「HEROZが新規上場申請する際の有価証券報告書 (Ⅰの部)の株主欄に自分の名前を載せたいと思ったから」「SOをもらえるから」の2つが理由でした。

宮田:独特な入社動機ですね(笑)。ちなみにⅠの部とは、上場申請のために提出する上場申請資料のうち、金融商品取引法に基づく開示書類に準じて作成された書類のことですね。上場承認されたあとに、上場先の証券取引所のサイトに開示されるものでもあります。なぜその発想に至ったんですか?

伊藤:前提として、HEROZは組織・事業ともに素晴らしい企業だったので「この企業なら上場できる」「貢献するならばⅠの部に自分の名前が載るくらいまでやりきりたい」と思えたことも大きく影響していました。また、Ⅰの部に載れば、何者でもなかった24歳の僕にとって将来起業する際の武器(実績)にもなると思ったんですよね。その貢献とともに価値が高まっていくSOも魅力でした。

宮田:理由を聞くと、すごくステキな動機だなと思いました!SOは入社条件に入っていたとかでしょうか?

SOについて切り込むNstock代表の宮田

伊藤:SOは入社後に付与してもらいました。HEROZのSO設計は非常にユニークで、僕個人としては「社員に優しいものだ」と感じていました。というのも、一般的には上場日から2年ほどロックアップ(株式が公開された後に一定期間、市場で持株を売却することができないように契約を交わす制度)がかかります。しかしHEROZは「ロックアップ中でもSOの行使はOK」にしてくれました。ロックアップ中の行使後に得た株式の売買は半年ほど制限されましたが、これは本当に助かりました。

宮田:HEROZが上場したとき、公募価格が急騰していたのを覚えています。当時のSmartHRの社内Slackでもすごく話題になっていました。

伊藤:僕も「これくらいになりそうかな」という予測は立てていましたが、上場から3日で公開価格(4,500円)の10.9倍にあたる4万9,000円の初値がついたときは驚きましたね。初値騰落率は東証市場でも歴代トップだったらしいです。

宮田:それはそれで公開価格の値付けが適正だったのかを疑いたくなりますが、株価が高騰したこと自体は社員としては嬉しくなりますね。

ちょっと突っ込んだ質問ですが、HEROZが上場したことで、伊藤さんがもらっていたSOのキャピタルゲインはどれくらいになったんですか?

二人の背景にはプロ野球選手たちのユニフォームが並ぶ

伊藤:初値時点では4億円弱になる計算でした。しかし、すぐにSOを行使できるわけではなく、なおかつ上場イベントによる株価の高騰は半年ほどで落ち着きますので……あとはご想像にお任せします(笑)。でも、初値時点で4億円弱になるとわかったときは驚きましたし、なにより、SOには夢があっていいなと思いましたね。

成功確率が高いゴルフよりも、好きな野球を選んだ

宮田:HEROZが上場してからは、当初の予定どおり起業したということですよね?

伊藤:そうですね。HEROZが上場してから2年半ほど経ったころにKnowhereを創業しました。HEROZでは役職についていたので退職に伴う引き継ぎがたくさんあるのではないかと思っていたのですが、想定より早く終わり、2020年にはKnowhereの仕込みが始まっていたような感じでした。SOのおかげで得た資金をもとに、外部パートナーと一緒にリサーチ作業などをしていました。

宮田:伊藤さんの場合はSOですが、起業する際に「手元に一定の資金があるかどうか」は気持ちの余裕にも影響しますよね。

Nstock代表の宮田

伊藤:それは大いにあります。一定の資金がなければ、きっと僕も挑戦自体をためらっていましたね。そういう意味でも、SOがあったおかげで「これをやるんだ」と迷わずに挑戦することを決められたのはよかったです。

宮田:事業領域は最初から「野球」と決めていたんですか?

伊藤:野球にしようと決めていました。ぶっちゃけ、「スポーツ×データ活用」で成功しやすいのはゴルフです。すでにシミュレーションゴルフ場があり、お金を持っている大人がプレーするため、マーケット規模も大きい。

ただ、一定のまとまった資金を得て、自分の好きなことができる状況になったにもかかわらず、「儲かりそう」という理由でゴルフを選ぶのは、テンションが上がらなかったと言いますか、ちょっとダサいなと思ってしまったんですよね。ならば、まだまだデータ活用が進んでいない野球のほうが心が躍るように感じたんです。僕がとても好きなスポーツだったこともありますけれど(笑)。

Knowhere代表の伊藤さん

「野球ジムを立ち上げようと考えている」と周囲に話すと、みんなから「無謀だ」と反対されました。リソースに乏しいスタートアップが設備にお金をかけるのは一般的ではないとわかっていましたけれど……遅かれ早かれ、野球ジムは絶対に立ち上げると決めていました。もしも資金が集まらなければ、僕のお金を全部投入すればいいというくらいの覚悟で野球ジム設立に動いたのでした。

宮田:伊藤さんが持っていたSOが、大好きな野球領域での大きなチャレンジにつなげてくれたんですね。

「ストックオプションの価値がわからない→経済的インセンティブを失う」は大きな問題

伊藤:僕、今日の取材で絶対に話したかったことがあるんです。

宮田:お、何でしょうか?

伊藤:Nstockが提供している株式報酬SaaSによって、一緒に働くメンバーたちがスマホからSOの契約内容や想定キャピタルゲインを確認できるってとてもいいなぁと思っているんです。HEROZ時代に、結果的に1億円以上のキャピタルゲインを期待できたにもかかわらず、上場直前に辞めてしまった同期が何人かいまして……。

宮田:それは悲しすぎますね……!

伊藤:そうなんです。これは“SOあるある”でもありますよね。SOを付与されても、その価値がわからないという人のほうが多いです。企業側としては「これくらいの価値があるよ」と説明するけれど、伝わりづらい現状もあります。退職理由の多くが「現職より高い給与を出してくれるところへ行く」だったりしますが、正直、目先の数百万円よりも数年後にSOなどで得られる数千万円、もしかしたら1億円ほどのキャピタルゲインのほうが大きかったりします。

“SOあるある”について話すKnowhere代表の伊藤さん

当然ながら、人によって状況は異なりますし、正解と思うものも違うので一概に言えないところもあるのですが……。基本的なSOの仕組みが理解されていないのは、とてももったいないと思います。だからこそ、啓蒙という意味も含めてNstockにはとても期待していますし、頑張ってほしいんですよね。

宮田:僕の周りにも、SOを付与されたけれど上場前に退職した人はいますね。その方は退職したことを「選択ミス」と思いたくないという理由で、その会社の上場後の情報はあまり見ないようにしているとのことでした。僕はその気持ちが痛いほどわかるんですよね。

SOの価値や仕組みがきちんと正しく伝わっていないことは、経済的なインセンティブを失うという、とても大きな問題です。Nstockの事業で解決できるように、もっと頑張っていこうと思います!

伊藤:僕も負けじと頑張ります!!

Knowhereで挑んでいるスポーツAI事業は、ポテンシャルがとても高く、グローバル展開も期待できるビジネスです。スポーツにおけるデータ活用は大きな流れができ始めていて、今後、さまざまなテクノロジーが入ってくことは間違いありません。

ありがたいことに、Knowhereはメジャーリーグの球団との契約も決まり始めています。この勢いで、今後はグローバル展開をより加速させていく予定です。ぜひ注目してもらえると嬉しいです!

宮田:伊藤さんの挑戦、引き続き応援しています。本日はありがとうございました!

外苑前野球ジムでのキャッチボールを経て、2人で記念撮影した様子

(撮影:高木成和)

Knowhereからのお知らせ

今回の取材場所にもなった外苑野球ジムをご紹介します!詳細は下記のリンクからチェックしてください。

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