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M&Aして約2年、ぶっちゃけどうですか?スイングバイIPOを目指すGMO Flatt Securityに聞いてみた

GMO Flatt Security株式会社 代表取締役CEO / 井手康貴

M&Aを選んだスタートアップのその後、どうなった?──華々しくM&Aを発表するものの「それからの話」が語られる機会は多くありません。

2024年2月、GMOインターネットグループ(以下、GMO)入りを発表したFlatt Security(現GMO Flatt Security株式会社、以下Flatt)は、“外貨を稼げる時価総額1兆円企業”となるため、約10億円の資金調達と同時に将来的な「スイングバイIPO」を目指すことを明言しました。

あれから2年経った今、Flattの現在地は?同社の代表取締役CEOである井手康貴さんに、M&Aという選択に至った背景、交渉のリアル、そしてグループ入り後に感じた変化を聞きました。

※GMOインターネットグループでは「仲間作り」と表現しておりますが、この記事ではM&Aと表記しています。

井手 康貴(いで・こうき) GMO Flatt Security 代表取締役 CEO
東京大学経済学部卒。在学中にメルカリなどでのエンジニア経験を経て、2017年5月にFlatt(現GMO Flatt Security)を執行役員・豊田恵二郎と共に創業。サーバーサイドの開発実績多数。(一社)セキュリティ・キャンプ協議会理事、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)ナショナルサイバートレーニングセンター SecHack365実行委員を務める。

「外貨を稼げる時価総額1兆円企業」を目指して自力でIPOへ突き進むつもりだった

──Flattさんは創業時からずっと「外貨を稼げる時価総額1兆円企業を目指す」と言い続けていますよね?その理由を改めて教えてください。

井手 康貴(以下、井手):僕がスタートアップに挑戦しようと思った背景には、日本経済を良くしたい気持ちがありました。

当時、僕は学生でしたが、2010年代前半ごろからすでに日本経済の先行きは怪しくなっていました。そこで、高校時代から18歳選挙権成立のための運動に携わったり、政治家の方々と議論を交わしたり、さまざまな活動をしていたのです。そのなかで「日本経済を良くするには経済競争力を高める必要がある」「ならば、外貨を稼げる大きな企業を作ろう」と考え、大学在学中にFlattを創業しました。

GMO Flatt Security 代表取締役CEOの井手康貴さん

当初はライブコマース領域で「PinQul」というサービスを提供していました。しかし、売上はあったものの、自社で在庫を抱えてしまったうえに、事業をスケールさせる道筋を立てられませんでした。1年半ほどで他社へサービスを譲渡し、「次に何をすべきか?」と考えていたところ、たどり着いたのがサイバーセキュリティ事業だったのです。

この領域は、日本国内に限らず海外市場でもニーズが高い。技術力さえあれば海外市場で勝負できると考え、Flattはサイバーセキュリティ事業へ大きく舵を切ることにしました。

現在、Flattでは「エンジニアの背中を預かる」をミッションに掲げ、プロダクト開発組織に特化したサービスを提供しています。世界トップクラスのセキュリティエンジニアによる脆弱性診断・ペネトレーションテストや、セキュアコーディング学習プラットフォーム「KENRO byGMO」のほか、2025年3月には日本初のセキュリティ診断AIエージェント「Takumi byGMO」をリリースしました。

──創業当初からM&Aを視野に入れていたのでしょうか?

井手:いえ、自力でIPOを目指すつもりでした。

Flattは創業後、しばらくの間はVCを入れず、先輩起業家でもあるエンジェル投資家の方々や、サイバーエージェントの藤田ファンドに力を借りながら事業を拡大させていきました。サイバーセキュリティ事業が軌道に乗り始めた2021年ごろ、B Dash Venturesさんに初めてVCとして出資していただき、いよいよIPOへ向けて本腰を入れていく体制を整えようとしていたのです。

このときは毎年売上も伸びていて、順調と言えば順調でした。ただ、課題を感じるところもあって……。

──どんな課題を感じていたのでしょうか?

井手:売上成長率が、Flattの企業規模に見合っていなかったのです。「成長が止まっている」と言ってもいい状態でした。また、次の資金調達に動き出していたのですが、2022年以降の日本国内の資金調達環境が冷え込みつつあると肌で感じていました。

このままでは「外貨を稼げる時価総額1兆円企業」の実現がどんどん遠のいてしまう──。そんな不安を感じ始めたころ、ある企業が「うちのグループに入りませんか?」と声をかけてくれました。「M&Aを経てスイングバイIPOを目指す手段もありかもしれない」と考え、検討し始めました。

クラシル堀江さんの“あるひと言”でM&Aを検討、GMOとの出会い

──当時、井手さんはM&Aをどう捉えていましたか?

井手:先輩起業家の方々から話を聞くなかで、M&A後にうまくいった例もあれば、不幸になった例もあることは知っていました。ちょうどそのころ、dely(現クラシル)さんがLINEヤフーグループ入りしたり、M&Aを経てソラコムさんやyutoriさんがスイングバイIPOしたり、大きなニュースが次々と発表されました。彼らを見て「M&Aは企業の成長を加速させる手段にもできるのか」と具体的なイメージを持ち始めていました。

実は言うと、M&Aの打診をされたとき、すぐに堀江さん(現クラシル代表取締役社長の堀江裕介さん)に相談していたんです。

──相談できる先輩がいるのはいいですね!堀江さんとはどんな話を?

井手:M&A前後でのアドバイスや「M&Aをしたらどんな感じになるのか」を具体的に話してくれました。

最も印象的だったのは「売り手として有利な状態で交渉できるタイミングは限られている」ということでした。

当時の僕らもそうだったのですが、事業に勢いがあるときはM&Aの提案があっても「自分たちの力でやっていけるから必要はない!」と考えがちです。とは言え、売上を伸ばし続けることはそう簡単ではありません。仮に経営が厳しくなってからM&Aを検討しても、条件面での交渉が困難になるだけです。だからこそ、事業に勢いがあるときに提案されるM&Aは貴重な機会として、ちゃんと検討すべきなんですよね。

そんななか、堀江さんが引き合わせてくれたのが熊谷さん(GMOインターネットグループ代表取締役グループ代表 会長兼社長執行役員・CEOの熊谷正寿さん)でした。

──ここでGMOとの出会いがあったんですね。

井手:そうなんです。初対面で軽く話したあと、熊谷さんは別れ際に「また話そう」と言われ、その2〜3週間後にお会いしたときには「GMOに来ませんか?」と切り出され、後日すぐにM&Aの議論がスタートしました。ちょうど2023年末ごろでしたが、結果として翌年2月には正式発表されるほどのスピード感でした。GMOほどの規模の会社でこんなに早く……?と驚かされました。

M&Aの議論時には、僕らは、事業シナジーが確実に生まれるかどうかを重視しました。その点、GMOはサイバーセキュリティ事業に本腰を入れていることと、何より熊谷さん自らが僕らに声をかけてくれたうえにM&Aを主導してくれた点が魅力的でした。GMOからのリスペクトと、Flattの今後の成長を考えて他にはない条件だと思い、M&Aに合意しました。

M&A交渉で懸念していたのは「既存投資家の同意」だったけれど…?

──そしてFlattさんは、2024年2月13日にGMOインターネットグループ入りと10億円の資金調達を発表されました。条件は次のとおりでしたが、M&A時の交渉はスムーズだったのでしょうか?

[M&A時の条件]

  • 既存株主からの買い取り:約13億円
  • 第三者割当増資:約10億円
  • 株式の割合:GMOが66.6%、Flatt経営陣等残りが33.4%

井手:やはり、持株比率に関しては何度も話し合いを重ねました。「GMOが66.6%、Flatt経営陣等残りが33.4%」という比率は、特別決議(会社の合併・解散など)に対して経営陣側が拒否権を持てるラインです。会社を解散する、または合併するといった重要事項については、Flattの経営陣が同意しないとできないよう、契約書にも明記させてもらいました。

正直なところ、これらの条件は拒否されてもおかしくないと思っていました。ところが、熊谷さんをはじめ、GMOは僕らが提示した条件をほぼすべて受け入れてくれたのです。

また、何よりも僕らが心配していたのは既存株主の方々の同意を得ることでした。

当然ながら、M&A時の条件を揃えられても、既存投資家の方々が納得しなければ成立しません。Flattの投資契約にはドラッグアロング条項※がありましたが、これまでお世話になった方々に「契約なので従ってください」とするのは不義理になってしまう。そのため、できるかぎり話し合うことで納得してもらおうとしました。

※過半数の大株主が株式を第三者へ売却する際に、ほかの少数株主にも同じ条件で株式売却を強制できる権利

──でも、既存株主のみなさんはOKしてくださったんですよね?

井手:ありがたいことですよね。

本音を言うと、話し合いを始めた当初は「無理かもしれない」と思っていました。前回の資金調達から3年も経っていなかったこともあり、強く反対されていたのです。

それでも、何度も話し合いを続けた結果、お互いの納得感を醸成することができ、最終的には既存投資家のみなさんが僕らの背中を押してくれました。エンジェル投資家の一人だった堀井さん(スマートバンク創業者CEOの堀井翔太さん)はこんなメッセージを寄せてくださって、胸が熱くなりましたね。

GMOさん、グループ入りした会社をあまり介入せずに、のびのびやらせてくれそうな雰囲気あったし、営業も強そうだから新プロダクトを売ってく上でも助けてもらえるかもね!基本は井手くんのやりたいことを応援していくスタンスです!(堀井さんのメッセージ原文ママ)

──M&Aについて、社員のみなさんにはどのように伝えたのでしょうか?

井手:「全社向け」「個別」の2段階に分けて伝えました。

まずは全社向け。M&Aのリリース日に「サミット(顧客感謝祭的イベント)の決起会」という名目でみんなを集め、「今日、みんなに集まってもらったのは、10億円の資金調達をしてGMOインターネットグループに入ることを発表するためです」と、M&Aを発表しました。

「Flattを外貨を稼ぐ時価総額1兆円企業にする」という目標にはM&Aを経てスイングバイIPOを成し遂げる手段が有効であること、どんな事業シナジーを見込んでいるのかなどをロジカルに、なおかつできるかぎり丁寧に話しました。説明資料には、株を手放してくださった既存株主の方々のコメントを交えました。不安そうな表情を浮かべていた社員もプレゼン終了後には拍手してくれていて……。少しホッとしました。

発表後は、約40名の社員一人ひとりと1on1をして個別にフォローしました。みんな驚きつつも受け入れてくれたのか、M&Aをきっかけに退職した社員はいませんでした。

当時の世の中では、グループ入りすると「経営陣もみんな辞めて売却した」というネガティブなイメージを持たれやすい状況でした。僕らの場合は、M&A後しばらくはGMOの冠をつけずに「Flatt」という社名を残せたこともポジティブな印象につながっていたかもしれません。

※編注:2025年1月に「GMO Flatt Security株式会社」へ商号変更

M&A後の大きな変化は「ほぼ人数×単価での売上→売上15%をリカーリング型」へ転換できたこと

──M&Aから2年が経ちました。今、どんな変化を感じていますか?

井手:以前に比べて、より事業にフォーカスできるようになったように感じています。

当たり前のことではありますが、ファイナンスに失敗すると事業どころか会社の存続も難しくなります。そうした「いつ資金が底をつくかわからないなかでのヒリヒリ」はスタートアップに付きものです。事業に集中したいけれど、頭の中のリソースをファイナンスのために残しておく必要がありました。

M&A後はその負担がなくなり、純粋に事業のことだけを考えられるようになりました。M&A時に調達した10億円については、黒字化までを見据えて投下していく必要はありますが、ヒリヒリする対象が「事業だけ」になったことは健全な状態だと思っています。

M&A後に起きた大きな変化として強くお伝えしたいのは、リカーリング型の売上(販売後も関連サービスなどで継続的な収益を得られるストック型のビジネスモデルを指す)を作れるようになったことです。

Flattでは、ずっとストック型のビジネスモデルを作りたいと考えていました。とはいえ、ストック型のビジネスモデルは立ち上げだけでなく売上を積み上げていくにも時間がかかります。なので、なかなか踏み出せず、これまでは短期的に数字を作りやすい人数×単価での売上のみを積み上げてきました。

GMOには、長期的な成長を株主として支援したいという方針がありました。その考えが、僕らがやりたかったリカーリング型のビジネスモデルと合致したため、一歩前へ踏み出すことができました。

M&A後、売上は前年比1.5〜1.6倍のペースで成長し、そのうち15%はリカーリング型です。2年かかりましたが、もともと3%程度だった割合を伸ばすことができました。もちろん、非リカーリング型の売上も成長しています。

──GMOが背中を押してくれたのは、とても心強いですね!

井手:GMOには「梁山泊経営」という考え方があり、グループ各社がかなり裁量を持って自由に経営しています。唯一、指摘されるのは「ストック売上を作ろう」「BS(貸借対照表)は大事にしよう」といった経営における原則原理のみ。おかげで、僕らもBSの重要性を強く感じるようになりました。

経営に迷ったらすぐ相談できる相手がいることも、ありがたいですね。また、他の経営者の視点からの学びも多いんです。グループ内には上場企業が12社あり、彼らの経営姿勢からIPOへの解像度も高まりました。

「IPOを目指すうえでの選択肢として、M&Aがもっと正しく認識されてほしい」

──最後に、スイングバイIPOへの手応えについて教えてください。

井手:先ほどお話ししたとおり、Flattの売上は前年比で1.5倍以上のペースで伸びていますし、リカーリングの売上も15%まできました。あるべき方向へ経営を集中できている手応えがあります。

でも、まだまだこれからです。僕らは海外の機関投資家に参画してもらったうえで時価総額が500億円以上にならないと上場しないと決めています。そのラインに到達して初めてIPOがポジティブな選択肢になると考えているためです。そこまで一気に駆け上がっていきたいですね。

「M&A後の話」はあまり多く語られていないこともあり、具体的なイメージをつかみにくいところがあるかもしれません。ですが、僕は実際にM&Aを経験して、IPOを目指す意味でも検討していいものだと思いました。

僕らの場合、M&Aしたおかげでファイナンスに関する不安が減り、事業に集中できるようになったことはとても大きなメリットでした。IPOを目指すうえでの選択肢として、M&Aがもっと正しく認識されてほしいと思います。

──M&Aのリアルな話を聞ける機会は貴重でした。FlattさんのスイングバイIPO実現を応援しております!

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