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「スイングバイIPOを目指す」と宣言したELYZAは、なぜ独自のSO設計に挑んだのか?

株式会社ELYZA 代表取締役CEO / 曽根岡 侑也

「創業メンバーと社員の不平等を解消したかったのです」──そう語るのは、ELYZA代表の曽根岡侑也さんでした。

日本語特化の大規模言語モデルを展開するELYZAは、2024年4月にKDDIとの資本提携を発表しました。発表会では、曽根岡さん自身が「スイングバイIPOを目指す」と宣言していました。

それから約2ヶ月後、ELYZAが発表したのは同社オリジナルのストックオプション(以下、SO)である「上場前行使SO」でした。

「上場前行使SO」とは、社歴に応じて一定割合のSOをいつでも行使できるものです。ELYZAでは上場時に行使できる通常のSO(以下、上場SO)と上場前行使SOの2種類を運用・管理していくことになります。

ところで、ELYZAはなぜ、オリジナルのSO設計に挑んだのでしょうか?気になる設計プロセスは?さっそくお話を伺いました。

曽根岡 侑也(そねおか・ゆうや) 株式会社ELYZA 代表取締役CEO 

東京大学松尾研究室 修士卒。 株式会社松尾研究所(松尾研)取締役。松尾研にて共同研究のPMやNLP講座の企画・講師を務める。未踏クリエイター。世界最大規模のハッカソンBattleHack日本代表。

沼田 太朗(ぬまた・たろう) Nstock株式会社、セカンダリー事業担当 

金融機関・コンサル後、金融スタートアップに入社。金融機関では信用リスクや与信・コーポレートファイナンス、スタートアップではバックオフィス責任者、CSなどを経験。三度の飯より決算書を見るのが好き。Nstockには2022年8月に入社。

常にワクワクした状態で社会に価値提供するには?浮かび上がった「スイングバイIPO」

沼田 太朗(以下、沼田):ELYZAさんは2024年3月にKDDIとの資本提携を発表しました。その際、曽根岡さんは大手企業のもとで企業価値を高めてから上場する「スイングバイIPO」を目指すと宣言されています。戦略として、大企業との資本提携はもともと考えていたことだったのでしょうか?

曽根岡 侑也(以下、曽根岡):創業以来、ELYZAは自己資本のみで経営していました。そのため資本提携などを考えておらず、単独での上場を目指していたのです。

ELYZA 代表取締役CEO、曽根岡侑也さん

しかし、ここ1〜2年ではOpenAIのChatGPTをはじめとした生成AIやLLMの躍進を見ていて、今後の戦略を考え直さなければならないと感じました。私たちが挑んでいる生成系AIや大規模言語モデルの領域において、国内に限らずグローバルでも存在感を示していくにはどうすればよいのか。選択肢として浮かび上がってきたのが、アライアンスや協業でした。幸運なことにKDDIとのご縁があり、スイングバイIPOというオプションを提案していただきました。このスキームであれば、私たちとしても常にワクワクした状態で社会に対して価値を提供し続けられると考え、資本提携することを決めたのです。

沼田:実際にKDDIへグループ入りをして、どのようなメリットを感じていますか?

曽根岡:まだ資本提携から数ヶ月ほどしか経っていないので、具体的にお話できることはあまりないのですが……。実際にやりとりするなかで日々感じているのは、KDDIの「スタートアップへのリスペクト」ですね。彼らはいつも「スタートアップが主役であり、KDDIは成長をサポートする」という関係性を意識しながらコミュニケーションしているのです。私たちも「大企業の子会社になった」よりも、「良いパートナーを得て、応援してもらっているのだ」という感覚のほうが強いです。

沼田:少し突っ込んだ質問になりますが、大企業とスタートアップが手を組むときによく言われるのが「スタートアップ特有のスピード感が損なわれてしまうのではないか」です。それはなかった、ということですよね?

Nstockのセカンダリー事業担当、沼田太朗

曽根岡:そのようなことはありませんでしたね。何かを失うということはなく、むしろKDDIへグループ入りをしたことで財務基盤が強くなり、生成AI・LLMの開発に必要なGPUにどんどん投資できるようになりました。おかげで、大胆な研究開発にも取り組めています。

KDDIの場合、IoTプラットフォームを手掛けるソラコムがすでにグループ入りし、スイングバイIPOの道筋をつくってくださっています。そういった事例があることも含めて、KDDIへグループ入りをすることはスタートアップとしてメリットしかないと感じました。

まだくわしくお話できないのですが、昨年までのELYZAの事業規模から考えると、この1年で驚くほどの成長カーブを実現できています。資金以外のリソースも豊富に持っている大手企業と組むのは、今後の成長に向けても非常に良い選択肢になると改めて実感しましたね。

「優先すべきは社員の人生の豊かさ」の考えから生まれた疑似セカンダリーマーケット

沼田:ELYZAさんではスイングバイIPOによる上場を目指すとともに、独自の株式報酬制度をnoteで発表されていました。それが、上場後に行使できる「上場SO※」と、社歴などに応じて一定割合のSOをいつでも行使できる「上場前行使SO」です。特に後者である「上場前行使SO」はELYZAさんのオリジナルですよね?なぜこのような仕組みを作ろうと思ったのかを教えてください。

※表記はELYZAのnoteから抜粋

曽根岡:やはり大きなきっかけとなったのは、KDDIへグループ入りしてスイングバイIPOを目指すという意思決定をしたことです。

ELYZAでは創業時から現在に至るまで、社員のみんなにSOを付与してきました。しかしながら、日本では基本的に上場しなければSOを行使できません。みんなと成功の果実を分かち合うためのものですが、スイングバイIPOを目指すためにSOを行使できない社員がいるのに、私を含めた一部創業メンバーだけがリターンを得るのはちょっと違うのではないかと感じました。

疑似セカンダリーマーケットの仕組みを作ったきっかけを語る曽根岡さん

そこで、スイングバイIPOを目指しつつ、これまでと変わらず社員みんなが一丸になって夢を追いかけられるためにSO設計を工夫できないかと考えました。そのとき、昨年入社した米国人メンバーのSam Passagliaから海外のSOと日本のSOは大きく異なることを教えてもらいました。なかでも衝撃を受けたのが、米国ですでに存在している、上場前のスタートアップ株を売買できる「セカンダリーマーケット」でした。

沼田:社員からの助言があったんですね!

曽根岡:そうなんです。Samは当初のELYZAのSO設計内容を聞いて「これはすごく不利な内容だ」と話していました。スイングバイIPOを目指すと決めたタイミングで改めてSOについて学び直すため、米国におけるSOの一般的なかたちを理解することから始めました。

日本では上場しなければSOを行使できないこともあり、その不確実性の高さから「SO=報酬」という感覚を持ちづらいところがあります。しかし、米国では上場前にスタートアップの株式を売買できるセカンダリーマーケットが存在しており、上場前でもSOを現金化する手段があります。そのため「SO=報酬」と認識している人が多いのです。ELYZAでもSOを付与した社員と話しましたが、報酬という認識は持たれていませんでしたね……。

日本では社員のSOを含むセカンダリーは慣習やプラットフォームがないことで事実上不可能になっていました。ですが、「SOを買い取る」というかたちで擬似セカンダリーマーケットをつくることは可能です。そこで誕生したのが、上場前行使SOでした。

今回の取組みの目的を話す曽根岡さん

沼田:スタートアップ経営者のなかには「非上場時にSOを行使できる条件をつくる=上場前にSOを売却して退職者が増える」と感じる人も少なくありません。そのあたりは特に感じなかったんですか?

曽根岡:基本的に、優先すべきは社員の人生の豊かさです。

スタートアップでは嬉しいことも辛いこともたくさん起こります。そんな環境下で創業から頑張ったにもかかわらず、何のリターンも得られないのはフェアではありません。ライフステージの変化などもあり退職する人がいたとしても「ELYZAにいた時間は無駄だった」と思ってほしくない。苦楽をともにする社員のみんなだからこそ、コミットしてくれた期間に対してリターンを得られる仕組みがあるべきだと考えているので、不安や懸念はありませんでしたね。

曽根岡「資本提携時による創業メンバーと社員の不平等さを埋めたかった」

沼田:「上場前行使SO」は、SOを買い取る擬似セカンダリーマーケットによって成立しているとお話ししていました。具体的にどういった仕組みになっているのかを伺いたいです!

曽根岡:今回の資本提携によって、KDDIグループにELYZAの株式を53.4%を買い取ってもらっています。私も含めて生株を持っている創業メンバーはこの時点でキャピタルゲインを得ているのです。上場前行使SOは、私を含む創業メンバーが資本提携によって得たキャピタルゲインを元手に、一定割合のSOを買い取るかたちで、いつでも行使できるようにしました。

疑似セカンダリーマーケットの仕組みを解説する曽根岡さん

沼田:創業メンバーが買い取るかたちだったのですね!

曽根岡:そのとおりです。ELYZAでは創業して少しの期間だけ生株を配っていて、その後はSOへ切り替えています。生株とSO、ちょっとしたタイミングの違いなのですが、それが原因で不平等な状態が生まれてしまいました。本来であれば、SOを持っている社員も資本提携時にキャピタルゲインを得られるようにすべきなんですよね。上場前行使SOの仕組みは、この不平等な差分を埋めるためのものでもありました。

沼田:設計において難しかったポイントは?

曽根岡:スイングバイIPOを目指すと決めたタイミングで設計し始めたので、タイトなスケジュールでディールを詰めていくのはなかなか難しかったですね。KDDIの方々にお話ししたときは最初こそ驚かれましたが、すぐにポジティブな反応へ切り替わっていました。KDDIのメンバーも参戦してくれて、設計のアイデアを出すだけでなく仕組みもダブルチェックしてくれました。KDDIの尽力もあり、誕生した仕組みでもあるのです。

「KDDIの尽力があり、完成できたもの」と話す曽根岡さん

沼田:社長を含めた創業メンバーが買い取るというのは、かなり強いコミットメントを感じます。社員のみなさんへの説明はスムーズに進んだのでしょうか?

曽根岡:難しかったです(笑)。KDDIとのアライアンスの前に実現したいと思っていたため、資本提携の件を隠しながら説明し、全員がサインし終わったあとにアライアンスをすることを含めて再度説明するという二段構えになりました。最初の説明ではなぜその仕組みが成立するのかを濁しつつ話したため、まったく伝わっていませんでした(笑)。

沼田:SOを説明すること自体が難しいのに、さらに難易度が高い状態だったんですね(笑)。擬似セカンダリーマーケットでは創業メンバーの合意が必要となりますが、反論などはなかったのでしょうか?

曽根岡:ありませんでした。むしろ「やったほうがいいよね」という反応でした。創業メンバーみんなが同じ感覚で走り続けてきたこともあると思います。大きな反論もなく、すんなりと全員が合意してすぐにSO設計へと進むことができました。

ELYZA独自のSO設計に込めた“2つの想い”とは?

沼田:これほどまでに社員フレンドリーなSO設計を実現させるのはとてもすごいことだと思っています!その根底にはどのような想いがあったんですか?

曽根岡:先端的なAIの研究開発と事業化に取り組む企業において、一番の価値の源泉は「人」です。

私がELYZAを創業したのは、尊敬できる仲間たちと社会に対して価値を提供する営みをしたいと思ったからです。富を独占したいわけではなく、むしろ成功の果実をみんなで分け合いたい気持ちのほうが強いのです。上場前行使SOを設計する前に強く感じた「フェアじゃない」という違和感は、この考えがあるからこそ生まれたものでした。

「一番の源泉は人」と言い切る曽根岡さん

また、社員の待遇を手厚くした方がいいという考えもあります。OpenAIのサム・アルトマンが解雇されてMicrosoftに行くと報道されたとき、同社の社員の8割ほどが彼についていこうとしました。企業自体に魅力がないと、こういった現象は顕著に現れますよね。

特に資本提携やM&Aは人が辞めやすいタイミングでもあります。「カルチャーが変わった」「ガバナンスが厳しくなって申請が面倒くさくなった」という変化もネガティブにとらえられがちです。だからこそ、社員にもちゃんとリターンがあることを示すために、SO設計はポジティブなものにしなければならないと考えていました。

そして実はもう一つ、強い想いを込めておりまして……。

沼田:もう一つの想い、とは?

曽根岡:擬似セカンダリーをうまく機能させることで、スイングバイIPOのスキームをもう一段階進化させることができるという想いがありました。

疑似セカンダリーマーケットにかけた“もう一つの想い”とは…?

お話ししているとおり、私は社員にリターンがない状態で「資本提携後にスイングバイIPOを目指す」のはなかなか難しいと考えています。でも、擬似セカンダリーマーケットの要素が加われば、資本提携後も社員みんなと一緒に夢を追いかけることができますし、買収側の企業との信頼関係も強固になります。この仮説を成立させられれば、スイングバイIPOをより進化させることができるはずなのです。

沼田:それは素晴らしすぎます!!

曽根岡:ありがとうございます!

SOをはじめとした株式報酬は、日本国内においてまだまだ過小評価されているように感じています。しかし、それは違います。株式報酬があるおかげで、会社が成長した結果、その成果に応じて適切な金銭的リターンが得られるというループをつくることができます。そして、設計内容次第では、採用競争で優位になれる。これほど心強い武器はありません。ELYZAだけの良い仕組みや制度を作れたら、それが勝ち筋になるので、これからも株式報酬については学び続けていきたいです。

沼田:Nstockでは現在、セカンダリー事業の準備中です。ELYZAさんの擬似セカンダリーの仕組みから学ぶものがたくさんありました。引き続きウォッチさせてください。本日はありがとうございました!

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