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創業者の給与、どうやって決めました?起業家と投資家が語る「役員報酬」の実情

株式会社ダイニー 代表取締役 / 山田真央

Coral Capital 創業パートナーCEO / James Riney

自分の役員報酬はいくらにすべきか。

これは創業者を悩ませる問いの1つです。「創業者の役員報酬(給与)は低ければ低いほどいい」という“清貧”を求める声もありますが、家庭の資金繰りにマインドシェアをとられてしまっては本末転倒です。しかし、生存者バイアスやポジショントークで語られることも多いテーマで、初めての起業では何を判断基準にすればいいのか迷うところ。

──そんななか、飲食店向けのモバイルオーダーPOS「ダイニー」を主力プロダクトとして展開しているダイニー代表の山田真央さんによるX投稿が注目を集めました。

「低くすべき」「高くすべき」と二項対立的に語られがちな創業者の給与問題ですが、山田さんはなぜ「もらえるだけもらったほうがよさそう」と感じたのでしょうか。

そこで今回は、ダイニー代表の山田さんと、ダイニーにも投資しているCoral Capital創業パートナーCEOのJames Rineyさん、SmartHR創業者でありNstock代表でもある宮田昇始が登場。スタートアップ創業者とVCそれぞれの目線から、創業者の給与問題について語り合いました。

山田 真央(やまだ・まお) ダイニー代表取締役

東京大学に入学後、メルカリや DeNA のインターンを経て在学中に創業し、大学を中退。学生時代に飲食店でのアルバイトを経験し、そのなかで飲食業界の真のインフラの必要性を痛感。2019年にモバイルオーダーPOS「ダイニー」をリリースした。

James Riney(ジェームズ・ライニー) Coral Capital 創業パートナーCEO

2019年にCoral Capitalを創業し、現在は600億円の資産を運用中。VC以前は、STORYS.JP運営会社ResuPress(現Coincheck)の共同創業者兼CEOを務めていた。その後、DeNAで東南アジアとシリコンバレーを中心にグローバル投資に従事。2015年に500 Startups Japanを立ち上げ、代表兼マネージングパートナーに就任。2016年にForbes Asia 30 Under 30 の「ファイナンス & ベンチャーキャピタル」部門で選ばれている。趣味はスノーボード、ダイビング。また、焼き鳥通でもある。

宮田 昇始(みやた・しょうじ) Nstock 代表取締役CEO

2013年に友人と起業。2年間で10回以上の失敗を経て、2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2017年に社名を「株式会社SmartHR」に変更、2021年には海外投資家などから156億円を調達しユニコーン企業に。2022年にSmartHRの代表を退任し、自身が感じたスタートアップエコシステムの課題を解決するための新会社「Nstock株式会社」を設立。

役員報酬が「低すぎる」「高すぎる」それぞれで起きることは?

宮田 昇始(以下、宮田):冒頭から突っ込んでしまうのですが、山田さんはなぜあの投稿をしたんですか?

(写真左から)ダイニー代表の山田真央さん、CoralCapital創業パートナーCEOのJames Rineyさん、Nstock代表の宮田昇始

山田 真央(以下、山田):ちょうど、僕の役員報酬を上げるべきかどうかを検討していたところだったんです。先輩起業家や投資家の方々に相談してみると、多くの方が「創業者はメンタルの安定とパフォーマンスがすべて。だから、パフォーマンスを高めるために必要だったら上げていいんじゃないかな」と言ってくださっていました。ただ、難色を示す方もいて。それをきっかけに「そもそも役員報酬設計はどう考えるべきなんだ?」と気になり、さらに深掘りしていきました。

僕はあまり物欲がなく、それほどお金を使うタイプではないんです。なので「役員報酬は低いままでもいいんじゃないか」と思っていたんですよね。ところが、先輩起業家たちからは「その考えはやめたほうがいい」とはっきり言われてしまいました。相談した先輩起業家の1人によると「創業者の給与が低すぎるとコーポレートアクションがとれなくなる」とのことでした。その言葉を聞いたときの衝撃や考えが、あの投稿につながったのです。

James Riney(以下、James):僕からこんなことを聞くのは少し妙かもしれないんですけれど、「コーポレートアクション」ってなんですか?英語圏にはない言葉のような気がします(笑)。

宮田:え、コーポレートアクションって和製英語なんですね(笑)。ググってみると、日本では「コーポレートアクション=企業の有価証券(株価、株数)に影響を及ぼす財務活動上の意思決定」という意味で使われているみたいです。

スタートアップでよくあるのは、第三者割当増資、株の譲渡(売買)、SOの発行、株式分割や減資などですね。特に、株の譲渡(売買)はよくある話で、仮に、共同創業者の1人が辞めるとなった場合には、相手の株式を創業者が買い取る必要があります。山田さんにアドバイスした先輩起業家たちは、そういったリスクを考えて「創業者の給与が低すぎるのは危険」とお話されたんだと思います。その考えは、僕も同感です。

山田:正直、その話を聞くまでは「コーポレートアクションをとれない状況」を想像したことはありませんでした。でも、考えれば考えるほど、それはあまりよくない状況だなと……。これは他のスタートアップ創業者も知っておいた方がいいと思いましたね。

X投稿に至った経緯を話すダイニー山田さん

結果的に、僕は役員報酬を上げることにしました。ダイニーで働く120名のメンバーたちに比べて給与水準は中央値くらいですが、僕にとってはじゅうぶんな金額です。仮にそれ以上もらったら持て余してしまうので(笑)。自分の給与水準を中央値にし、そのほかの資金は人材採用費などにあてています。

現在、ダイニーの1店舗あたりのCAC(顧客獲得コスト)は40万円です。自分の給与を40万円上げるのであれば、新しく1店舗獲得することに費やした方がいい。そういう考えで自分の給与を計算していました。

James:すごく本質的でいいですね。先ほど話していたコーポレートアクションに関しては、シードやアーリー、シリーズAくらいのスタートアップでは数十〜数百万円で株式を買い取るケースはじゅうぶんにあり得ます。そのうえで、山田さんのようによりパフォーマンスを出そうと考えると、一定の金額をもらっておくことは大事ですね。

VCの立場から創業者の給与問題に言及するJamesさん

VCの立場からお話しすると、スタートアップの起業家は「CEO兼Founder」です。僕は特にこの“Founder”の要素が大事だと思っているんです。給与のことばかりを気にしてしまうと「自分の給与を上げたい気持ち」が強まり、サラリーマン的な発想に偏ることもあります。意識すべきは「資産」。資産を大きくすることで結果的にお金持ちになれるので、山田さんの考えはいいと思います。

「創業時は月8万円」だったダイニー山田さんが役員報酬を上げた理由

宮田:ちなみに、山田さんは最初の役員報酬をどれくらいの金額で設定していたんですか?

山田:最初は月8万円でした。

宮田:え、8万円!? それはかなりハードな設定ですね(笑)。読者である起業家にぜんぜんオススメできない(苦笑)。

山田:そうなんです(笑)。創業当時の僕は大学生で、株主のANRIが提供しているシェアオフィスの1室に住みながら働いていました。そこには常にカップラーメンが山積みされており、食事に困ることはなく、生活費がほとんどかからなかったんですよね。

お風呂はなかったので、シャワーを浴びるために渋谷のゴールドジムを月額1.4万円で契約していました。月の手取りの6.7万円から毎月のジム代1.4万円を差し引いても、5.3万円は余ります。5万円以上余るなら大丈夫だろうと思い、月8万円に設定したのです。

創業当時の給与額について話す山田さん

宮田:カップラーメンとゴールドジムって、不健康なのか健康なのか(笑)。8万円から金額をアップさせることになったきっかけはあったんですか?

山田:会社のメンバーが増え、徐々にシェアオフィスで住むには手狭になっていったからでした。よくよく考えると、メンバーみんながいるオフィスに布団を敷いて寝たり、洗濯物を干しっぱなしにしたりするのはちょっとまずい。ちゃんとした家に住み、オフィスの衛生環境を整えるために役員報酬を上げました。

具体的には、8万円から20万円、25万円と上げていき、2年ほど前に50万円まで上げました。その際、投資家の方々に「年収600万円ぐらいに上げようと思っているのですが、どうですか?」と聞いたところ、なかには「年収1,200万円でもいいんじゃない」と言ってくれる方もいました。

でも、先ほどお話ししたように、僕の場合はたくさんもらっても持て余してしまうので(笑)。事業に多く投資できるようにするために、月収50万円にしました。

宮田:事業フェーズはどういう感じでしたか?

山田さんが役員報酬を上げたタイミングについて質問する宮田

山田:ARR(年次経常収益)も1桁億円はある状態で、会社として潰れないだろうと思えるフェーズに入っていました。僕の趣味は仕事なので、月に1〜2回クラシックのコンサートに行けるくらいのお金があればいいと思っているんです。大友(ダイニー共同創業者/CTOの大友一樹さん)も同じ考えがあり、2人とも給与水準は中央値くらいですね。

宮田:スタートアップに関しては、特に学生起業をした人たちは想像以上に給与をもらっていないんですよね。普段あまりスタートアップの情報に触れない人たちからすると、「そんなに給与が低いんだ」と驚かれることもあります。「社長は誰よりも高い給与をもらっている」というイメージがあるかもしれませんが、ぜんぜんそんなことないんですよね。

Nstock宮田「M&Aの誘惑に負けないくらいの役員報酬にしよう」

山田:宮田さんはSmartHR創業時の給与はどれくらいだったんですか?

宮田:SmartHRを創業したときの役員報酬は月25万円でした。東京23区で文化的な生活ができる最低ラインの金額にしようという気持ちでその金額に設定しました。

月25万円は起業前の給与と比べると約半分の金額でしたが、よかったこともあります。役員報酬を低めの金額に設定しておくことで、PMF(Product Market Fit)までの事業検証の回数を増やすことができました。自分たちの役員報酬を最小限にし、ランウェイを長くすることで、チャレンジ回数を多くするというのは個人的にはおすすめのやり方です。

自分の創業当初の役員報酬について話す宮田

山田:それはいい考え方ですね!役員報酬を引き上げたのはいつだったんですか?

宮田:M&Aのオファーが来たことをきっかけに、2017年頃に大幅に役員報酬を引き上げました。

当時のSmartHRのARRに対して、約100倍の金額で買収の提案があったんですよね……!すごい条件だったので、株主たちは「まだまだ伸びると思うから売却ナシ派」と「すごくいい条件だから売却アリ派」で、意見もそれぞれ分かれていました。

正直、僕もかなり悩みました。

山田:気持ちが揺れたということですか?

宮田:そうです。

このときの僕は、毎週のように子どもと一緒にキャンプに出かけていました。けれど、車を持ってなかったので毎回カーシェアをして、そのたびに大量のキャンプ用品の積み下ろしをして、準備だけでひと苦労でした。キャンプに行くための車が欲しいと思っていたんです。まあ、普通によくある物欲だと思います。

それが、車を買えるどころか、明日にも億万長者になれるM&Aのオファーが飛び込んできました。「断ったら競合サービスを出されるかもしれない。自分たちは今後も事業を成長させ続けられるだろうか……?」という不安と、「起業してから4年、そろそろ楽になりたい……!」という気持ちから、M&Aのオファーにかなりグラついてしまいました。

結果的にはオファーを断りましたが、それをきっかけに目の前の誘惑に負けないくらいの役員報酬にしておこうと思い、それまで年400万ほどだった役員報酬を、一気に年900万円に増額しました。

M&Aの提案に心が揺らいだことを明かす宮田

James:SmartHRのVCとして、宮田さんが話していたM&Aの様子を間近で見ていましたが、この判断はとてもよかったと思っています。SmartHRにはもっともっと大きく成長してもらいたいと思っていたので、正直、当時のSmartHRの評価額でイグジットしても僕らとしてはうれしくないんですよね。でも、手元にお金があまりないときこそ、テンプテーション(誘惑)に巻き込まれやすい。だからこそ、買収提案のような“おいしい話”が出てきたときにすぐ食い付かないよう、身を守る意味でも役員報酬は適正にしたほうがいいですね。

VCの報酬はどうなっている?「実は、起業家に近い側面がある」

宮田:Jamesさんは、起業家の方々から役員報酬設計の相談を受けることも多いんですよね?実際に相談されたとき、どんなアドバイスをしているんですか?

James:実は山田さんからも相談を受けたことがあります。だからこそ逆に聞きたいのですが、山田さん、そのときの僕はどんな印象でしたか?

山田:Jamesさんは誠実でしたよ。「このフェーズだと、役員報酬はどれくらいが適正ですか?」という聞き方をしたのですが、「これくらいです」という返答ではなく、「人それぞれライフスタイルもあるし、精神的な面も含めてパフォーマンスを高めるためにも自分で決めた方がいい」「Coral CapitalはVCとして起業家の意思決定を尊重するから、臆することなくいろんな観点で検討してみてください」という返答をもらいました。

山田さんとJamesさんの実際のやりとり

James:冷たい感じになっていなくてよかったです(笑)。

話を少し戻すと、役員報酬への言及はけっこう難しい側面があります。金額が高すぎるとお金のことばかり考えてしまいがちになり、サラリーマン的な発想に偏ってしまう。しかしながら、金額が低すぎると、戦い続けるパワーを失いかねません。

VCとして強く意識しているのは、シェアホルダー(株主)として「創業者が長く挑み続けるためにどうしたらよいのか?」という第三者の視点を持つこと。創業者の家庭環境や置かれた立場などを見つつ、アドバイスするようにしていますね。

山田:ちなみにVCの報酬はどのように設計されているんですか?せっかくの機会なので聞いてみたいなと思っていまして。

James:VCには大きく2つあり、自ら資金調達してファンドを組成する独立系VCと、会社の資金をもとにファンドを立ち上げるCVCがあります。僕が創業パートナーCEOを務めるCoral Capitalは独立系VCなので、今回はそちらについてお話ししますね。

VCの給与について説明するJamesさん

先に申し上げておくと、独立系VCは起業家のみなさんに近い側面があります。独立系VCは新しいファンドを組成するときに外部投資家の方々から資金を集めることになる。その際、VCのパートナーは個人として出資を求められることがほとんどです。これは「GPコミットメント」と呼ばれるもので、VCとしての覚悟を示すと同時に、外部投資家の方々とのアライメント(利害の一致)を示します。GPコミットメントはファンド総額の1%程度なので、100億円のファンドを新たに組成する場合、VCは1億円を出資しなければならないことになります。

そして、僕らVCは次々と新たなファンドを組成しますが、Exitまでは7年〜12年くらいかかります。Exitするときまでは自転車操業っぽいところがあります。

役員報酬の決め方に明確な答えはないからこそ「高い」「低い」の二項対立はおかしい

宮田:日本のスタートアップには「起業家の役員報酬は低ければ低いほどいい」という、いわゆる“清貧”を求める声が存在していますよね。直接誰かに言われなくても、プレッシャーを感じる空気感があるように思うのですが、山田さんとJamesさんはどうですか?

山田:直接言われたことはないですが、不文律として日本のスタートアップエコシステムに清貧という概念が残っている感じはしています。そして、その影響を多少受けていたかもしれません。今は「不必要に清貧であるべきではない」と思っていますけれど。

James:その空気感はあると思っています。しかし、そもそも起業家の役員報酬をどうすべきかは、簡単に結論が出る話ではないですよね。スタートアップとして長く挑み続け、事業を大きくしていくために最適な金額にすればいいだけの話なので、「高いほうがいい」「低いほうがいい」の二項対立になっていること自体がちょっと違うと思います。バランスをとるのが大事です。

創業者の給与問題を二項対立で語ること自体に違和感があると話すJamesさん

山田:Jamesさんの言うとおり、パフォーマンスを高めるために必要な金額を設定したほうがいいと僕も思います。コーポレートアクションをとれる状態にしておくほか、M&Aの提案にベストな状態で挑めるのがなおよいですよね。

でも、創業初期は役員報酬が月8万円にしておいてよかったと思うところもあるんです。思い返せば、事業へしっかり投資できたことでPMFに向けてのチャレンジをたくさんできたので。ただ、もう少し早く役員報酬を上げて、健康などに投資しておけばよかったと感じることもあります。両親を含む家族になにかあったとき、後悔するようなことがあってはいけませんしね。次の資金調達のラウンドが終わったらまた役員報酬を上げて、何の心配もなく家族とともに過ごせる状態をつくり、自分が事業に向き合えるようにしていきたいと思っています。

役員報酬を8万にしてよかったと改めて振り返る山田さん

宮田:僕の場合、2017年以降に役員報酬をしっかり増額できたおかげで、子どもの教育において選択肢を増やすことができました。これは本当によかったですね。

僕の視点ですが、レイターステージに入っていくと、今度は自分だけでなく他の役員たちの報酬についても考える機会があります。

例えば、SmartHRのCxOたちが起業したら、ここで得た知識や人脈や実績をフル活用し、そこそこの確率で時価総額100億円以上の会社をつくってIPOまで持っていけると思うんです。お金がすべてではないですが、「(お金の面も含めて)SmartHRに居続けたい」と思ってもらえることは重要です。

これまでは、現金の役員報酬は会社の規模に合わせて上げられていましたが、より大きなリターンを得られるように、株式報酬の面でも会社の規模に合わせて上げていきたいと思っています。

James:宮田さんは「会社の規模が大きくなるにつれて、役員の報酬をちゃんと上げていきたい」と言い続けていて、その姿勢は今も変わらないから尊敬しますね。

宮田:ありがとうございます!

では、今日の話のまとめですが、

  • PMFまでは、役員報酬は低めに設定したほうが、チャレンジ回数を増やせる
  • しかし、過剰に清貧である必要はない。戦い続けられるパワーを失わないように
  • 「高いほうがいいい」「低いほうがいい」の二項対立ではなく、ライフスタイルや精神面、コーポレートアクションが必要なリスク等を考慮して、バランスで考えよう

という感じでしょうか。役員報酬に関して明確な答えはないかもしれませんが、それぞれ適正な金額を設定できるといいですね。

(撮影:高木成和)

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