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増資、株主入れ替えとセカンダリー、そして連続買収へ。アスエネ135億円ラウンドの"つながった"資本設計を解剖してみた

アスエネ株式会社 代表取締役CEO / 西和田浩平

「アスエネにとって転換点となる重要なファイナンスでした。難易度も複雑性も高かったですね」。そう振り返るのは、アスエネ株式会社(以下、アスエネ)代表取締役CEOの西和田浩平さんです。

CO2排出量の見える化や削減を行うAIサステナビリティ統合プラットフォーム「アスエネ」を展開するアスエネがシリーズDラウンドで総額135億円の調達を発表したのは、2026年7月23日のことでした。リード投資家には日本の未上場スタートアップへの初投資となるDecarbonization Partners(世界最大級と言われる米国のBlackRockと、シンガポールの政府系ファンドであるTemasekが組成した脱炭素ファンド)を迎え、そのほかマレーシア国営エネルギー会社ペトロナスのCVCであるTwin Towers Venturesなどが投資家として名前を連ねました。

また、今回の調達では新株発行による増資だけでなく、既存株主の株式やアスエネの一部従業員が持つストックオプション(以下、SO)を出資者が買い取るセカンダリー取引も実施していました。西和田さんによると、基本合意後に起きた市況の急変によって、クローズまでにはさらに6ヶ月ほど交渉が続いたとのことですが……?さっそく、お話を伺いました。

西和田 浩平(にしわだ・こうへい) アスエネ 代表取締役CEO
慶應義塾大学を卒業後、三井物産にて日本・欧州・中南米の再生可能エネルギーの新規事業投資・M&Aを担当。ブラジル海外赴任中に分散型電源企業に出向、海外のM&A・PMI・事業投資・新規事業などを経験。2019年、アスエネ株式会社を創業。「次世代によりよい世界を。」をミッションに掲げるAIサステナビリティ統合カンパニーとして、AIサステナビリティ統合プラットフォーム「ASUENE」をはじめとするCO2排出量算定、ESG評価、サプライチェーン管理、第三者保証/検証、カーボンクレジット、エネルギーマネジメントまでを支援する6つのAIサステナビリティプロダクトを展開。8件のM&Aを実行し、累計資金調達額は250億円。米国・欧州・シンガポール・タイ・フィリピンに拠点を展開。TIME誌「World’s Top GreenTech Companies 2025」TOP100、経産省「J-Startup」選出、2026 Forbes Japan起業家ランキング5位など受賞多数。Carbon EX代表兼会長、東京大学大学院 共同研究員、慶應義塾大学 Keio STAR 客員研究員、一般社団法人日本サステナブルビジネス機構(JSBO) 理事を兼任。

シリーズDラウンドで、大型海外投資家を迎え入れた理由

──今回のアスエネさんの資金調達は金額も大きいうえに、BlackRockの脱炭素ファンドであるDecarbonization Partnersの日本初出資や従業員のみなさんが持つSOのセカンダリー取引など盛りだくさんという印象があります!

西和田 浩平(以下、西和田):ありがとうございます!基本合意後に追加で6ヶ月ほどに及ぶ交渉になり……ほかにもいろいろありましたが、無事にクローズできてひとまずホッとしています。

シリーズD時の写真※アスエネ社提供

──「追加で6ヶ月ほどの交渉」が何だったのかがとても気になりますが、まずは調達の意図や狙いから伺わせてください。

西和田:アスエネのビジネスモデルはそこまで大量の資金を必要とするものではなく、それに加えてすでにキャッシュフローは黒字化していることもあり、運転資金だけを考えるならば海外投資家をリードに迎える必要はありませんでした。しかし、今回は「グローバルNo.1のための布石」「上場後の長期保有投資家の呼び込み」という位置づけだったため、あえて誰もが知っている海外機関投資家から調達したいと考えました。

アスエネは、AIサステナビリティ統合カンパニーとして、企業のCO2排出量を見える化し、削減・報告までまとめて支援する脱炭素クラウドやサプライチェーン管理クラウドを展開しています。うれしいことに、日本国内でも脱炭素やエネルギー関連の業界では知名度を高められていて、国内ではNo.1のプレゼンスも強まってきています。アスエネのメインターゲットとなるプライム上場企業1,700社のうち、600社近くに導入いただいていて、約4割のシェアを占めております。

とはいえ、アスエネは日本のほか、米国や欧州、一部アジアで事業を拡大させていますが、海外においてはまだ知名度は高くありません。そこで、世界で誰もが知っている海外金融機関に株主になってもらい、その信頼性や権威性を融合させながらグローバルNo.1を目指すことにしました。そして、参画してくださることになったのがBlackRockとTemasekの脱炭素投資ファンドであるDecarbonization Partnersです。彼らであれば「上場前の一時的な株主」で終わらず、上場後はBlackRockグループ内の別のファンドに移し替えるなどして、そのままアスエネの株を長く保有する存在にもなってくれると思いました。

今回の調達の内訳は、新株発行による増資が68億円、既存株主と従業員によるセカンダリー取引が37億円、そして三井住友銀行からの融資です。ちなみに、リード投資家であるDecarbonization Partnersは約70億円投資してくれています。

海外投資家に対して、アスエネの訴求ポイントになったところは?

──実際に交渉してみて、海外投資家と国内投資家ではどんな違いがあると感じましたか?

西和田:海外投資家は一度に出せる投資サイズが圧倒的に大きいと、改めて感じました。先述のとおり、アスエネはDecarbonization Partnersから70億円ほど出資してもらっていますが、彼らにとってこの金額はミニマムサイズ。さらなるフォローオン投資ももちろん可能でした。日本国内の投資会社1社からここまでの投資額を引き出すのは難しいですね。

──数年前までは、スタートアップの価値を「売上の何倍か(PSR)」で測る見方が主流で、今より高い評価がつきやすい時期もありました。今回の交渉を通じて、それに代わる新しい基準になりそうな考え方はありましたか?

西和田:しっかりと黒字を出せている会社ならば、基本はPERで見られます。ですが、多くのスタートアップがそうではありません。そのため、海外投資家のみなさんはPSRを見つつ、「ブレイクイーブン(損益分岐点)にちゃんと近づいているか」「収益性が伴っているか」を重視していました。

今回の調達ではBlackRock系以外の方々とも話しましたが、筋肉質に利益を出せる体制になっているかどうかが問われましたね。ほかの国内SaaSや海外SaaSと比較しつつ、Rule of 40(成長率+利益率が40%を超えているかを見る指標)も重要な指標となっていました。アスエネの場合、直近では急成長+数カ月連続でキャッシュフローも黒字化できていたので、特に高いRule of 40の数値が明確な訴求ポイントになりました。

──アスエネさんはこれまで累計25社から出資を受けたと聞きました。これだけ多くの企業が参画しているとなると「出資は受けたけれど連携は進まない」となりがちです。アスエネさんはうまく連携できている印象ですが、秘訣はありますか?

西和田:累計25社のうち半分ほどが事業会社ですが、9割方はしっかり連携できています。

ポイントは2つあります。1つは、担当者任せにしないこと。担当者は異動もあるので、正確には"大企業の責任者か役員レベル"と、私や経営陣がきちんと握る。もう1つは、幹部を巻き込んで推進する会議体をつくること。たとえば三井住友銀行とは、毎週のワーキンググループに加えて、四半期に1回は執行役員クラスにも入ってもらう場を設けています。経営層が意思決定事項を議論して把握し、現場が実行する仕組みが揃って初めて提携は前に進むと思っています。

連続買収を支える"お金の設計"とは?

──今回調達した資金の使い道も伺いたいです。

西和田:調達した資金の8割以上を、M&Aに充てていく予定です。

アスエネの基本戦略は同じビジネスモデルの会社を束ねて、圧倒的なナンバーワンを取る「ロールアップ」です。私たちの場合、CO2の見える化やESGデータ、エネルギーマネジメントのソフトウェア、コンサルといった領域ですね。この事業領域を持つ企業と力を合わせることで顧客シェアが一気に増え、重複するソフトの開発コストも統合で圧縮できます。同時に、バリューチェーンのなかで「ここがあれば強い」という領域を補う、垂直統合も進めています。

──連続してM&Aをするとなると、資金の組み方も工夫が必要そうです。

西和田:おっしゃるとおりですね。フルエクイティ(全額を自己資本でまかなうこと)だけでなく、LBO(買収先の資産や将来のキャッシュフローを裏づけにした借入)や他ファンドとの共同投資も組み合わせます。たとえば米国のクライメートテック企業であるNZeroの買収では、JICT(海外向けM&Aを共同投資する政府系官民ファンド)と組んで、アスエネが51%、JICTが49%という形で一緒に買収しました。こうして今後も「シリアルアクワイアラー(連続買収企業)」として、Learning Effectを発揮しながら買収を積み重ねていきます。

アスエネ代表取締役CEOの西和田浩平さん

──アスエネさんはグローバル展開のための有効な手段として、すでに2023年11月に米国拠点の設立もしていますよね。それに加えて、なぜM&Aにも積極的なのでしょうか?

西和田:当初は米国拠点をオーガニックで立ち上げました。でも、これには苦労しました。米国拠点は、立ち上げから1年で現地採用した責任者が3人替わりました。日系企業が単独で現地の優秀な経営人材を採り、サービスを拡大していくのは本当にハードだと失敗から学びました。

だからこそ、M&Aで「現地で強い企業を、経営者ごと迎える方針」に切り替えました。NZeroは買収後すぐにトヨタの米国案件を受注するなど、計画を上回って伸びています。他のグループ入りした企業を合計すると、前年比プラス80%ほどで成長できています。つまり、我々にとってM&Aは、最速で1兆円企業を目指すために必要な時間や人材を同時に得るための手段ということになります。

アスエネは2年ほど前からM&Aを進めていますが、これまでに8社にグループ入りしてもらいました。国内が5社、海外が3社です。

──2年で8社のM&Aはものすごいスピード感です!どんな体制で実施していたんですか?

西和田:ソーシング(買収先の探索)だけで、チームで年間100件ほどのIM(投資検討)を回しています。M&Aチームは現在8名いますが、3〜6ヶ月前は4〜5名だったので、ようやく少し増えたという感じですね。私自身ももともと三井物産で10年以上、M&Aや投資の現場にいたので、リソースの3〜4割はM&Aと買収後の統合(PMI)に使っています。

──買収したあとの統合で心がけていることはありますか?

西和田なるべく対面で会い、信頼関係を構築することですね。取締役会は四半期に1回ですが、それとは別に、「こちらが現地へ行くか」「相手に来てもらうか」のいずれかで頻繁に出張して会うようにしています。一晩のディナーを一緒にするためだけに英国や米国へ出張するくらい、大事なアクションだと思っています。

相手にとっては、本気でやってきた事業を私たちアスエネに託すという大きな決断だったわけですから……。直接会って話すことを大切にすると、私たちの想いも受け取ってもらえるんですよね。

セカンダリーのきっかけは「Anthropicショック」と「上場時期見直し」

──今回はプライマリーに加えて、セカンダリー取引も実施されました。きっかけは何だったのでしょうか?

西和田:大きなきっかけとなったのは"Anthropicショック"でした。具体的には、2026年2月初めごろに、Anthropicが業務用のAIエージェント機能を発表したことを機に、世界中で「AIが既存のSaaSを置き換えてしまうのではないか(SaaSの死)」という考えが広がり、SaaS関連株が急落しました。このとき、調達の基本合意はできていたのですが、アスエネがtoB向けSaaSということもあり、バリュエーション見直しの議論が起こりました。この議論に、約6ヶ月かかりました。

──なるほど、これが冒頭でおっしゃっていた「基本合意後に追加で6ヶ月ほどかかった交渉」だったんですね。

西和田:そうなんです。とはいえ、私たちとしては、一度合意された価格を一切変えるつもりはありませんでした。結果として変えなかったのですが、一方で議論になったのが「価格を変えない代わりに、セカンダリー取引で割合を増やせないか?」だったのです。

先ほどお話ししたとおり、アスエネはキャッシュフローもEBITDAも黒字化できていたため、大きな資金を急いで集める必要がありませんでした。言い方を変えると、不必要に持株比率を希薄化させる事態は避けたいと思っていました。セカンダリー取引であれば持株比率を希薄化させず、新規株主の方々の割合を増やすことができます。そういった経緯もあり、セカンダリー取引を実施することにしました。

──既存株主はどんな反応でしたか? 直近は黒字化していて、なおかつこれだけ豪華な投資家の方々が入るならば、アスエネさんの株を持ち続けたい方も多そうです。

西和田:そうですね。ただ、ファンドの満期や上場時の持株比率の関係もあり、既存株主のみなさまも理解を示してくださっていました。最終的に一部の株主には「全部ではなくていいので、一部は売ってほしい」とシンプルにお願いし、納得してもらいました。日頃から、既存株主の方々と信頼関係を強固にしていたからこそ、受け入れてもらえたのだと感謝しています。

──今回のセカンダリー取引は、既存株主だけでなく、一部の従業員の方々が持つSOも対象になっていましたよね?

西和田:そのとおりです。このラウンドを計画し始めたと同時に、アスエネでは「上場時期を遅らせて、今はグローバル展開やM&A、事業の急成長を優先しよう」という意思決定をしました。

アスエネは時価総額1兆円企業を目指し、M&Aを含めた大型案件をもっと増やしていこうと考えていました。ところが、上場前後の半年ほどはM&Aに制限がかかります。当初、アスエネは2026年中の上場を予定していましたが、もう少し企業規模を大きくしてから再び挑むことにしました。

そうなると、気がかりなのはアスエネに長くコミットしてくれているメンバーみんなのこと。彼らにとって、上場というマイルストーンはとても重要です。彼らの頑張りに報いるためにも、上場を待たずして現金化する機会として従業員が持つSOによるセカンダリー取引も実施することにしました。

米国では主流になりつつある従業員のSOによるセカンダリー取引ですが、今後、日本でも大型上場を目指すスタートアップで積極的に活用されていくのではないかと考えています。アスエネとしては、年に1回ペースでこういった機会などをできるかぎり作っていきたいと思っています。

セカンダリー取引の説明を受けた従業員の反応「そんなことができるのか!」

──セカンダリー取引の話をしたとき、従業員のみなさんの反応はどうでしたか?

西和田:どういう反応がくるかやや緊張しながら伝えたのですが、「そんなことができるのか!」と前向きに驚かれましたね。その後も「会社にはコミットしたいのですが、本当に一部売っても大丈夫でしょうか?」と何名かから個別にDMをもらいましたが、その一つひとつに私からちゃんと返答しました。セカンダリーを実施できる従業員の多くが売却していましたが、対象者のうち数名はまったく売らないという選択をしていました。どの選択肢の意思決定も、個人的には尊重していますし、感謝しています。

──最後に、今回のラウンドを通しての率直な感想と、スタートアップへのメッセージをお願いします。

西和田:無事にファイナンスが終わって安心したのも束の間で、「ここからガンガン攻めていくぞ」という気持ちが非常に強いです。

日本のスタートアップに足りないのは「スピード感をもったスケール」だと思っています。より大きな企業となるには、中小企業の裾野まで入り込むプロダクトでない限り、市場規模の大きさに左右されることになります。だからこそ、国内に限らず、海外を攻めていく必要がある。アスエネは持ち前のオペレーション力を活かしつつ、M&Aとグローバル展開を武器に、最速で時価総額1兆円企業になることを実現するために、これからもあらゆる手を尽くしてハングリーにチャレンジャーとして挑んでいきます!

──AIの急激な進化など、外部環境が揺れるなかでの大型ファイナンス、本当にお疲れさまでした。「上場をあえて遅らせてでも大きくなる」という選択も、従業員のみなさんに報いるセカンダリーの設計も、これから同じ道を歩むスタートアップにとって、選択肢が広がるお話でした。ありがとうございました!

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