「どの国で働いていても関係ない」京都フュージョニアリングが5カ国ほぼ統一のストックオプション設計で紡ぐ仲間との絆

[課題]
- 月単位のベスティング管理に活用できるツールがほしかった
- 従業員にストックオプションの価値を可視化できる仕組みが必要だった
[会社データ]
社名 | 京都フュージョニアリング株式会社 |
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設立 | 2019年10月1日 |
従業員数 | 159名 |
SO付与回数 | 12回 |
核融合反応により発生する「フュージョンエネルギー」を電気などに利活用するプラント技術の開発・エンジニアリングを手掛ける京都フュージョニアリング株式会社(以下、京都フュージョニアリング)。同社では従業員のモチベーション向上とグローバル展開を見据えた海外人材の採用力強化を目的にストックオプション(以下、SO)を導入しました。
注目すべきは、日本ではまだ前例が少ない5カ国(日本を含む)でのSO付与と月単位ベスティングの採用です。京都フュージョニアリングでは2024年3月に株式報酬管理SaaS「Nstock」(以下、Nstock)を導入し、この制度運用を実現しています。京都フュージョニアリングのSO設計の背景やNstock導入のきっかけを、同社の執行役員でFinanceとGovernanceを所管する上之段琢磨さんと、人事担当の石原洋志さん、寺内美沙さんに伺いました。
「5カ国それぞれの税制に合わせたストックオプションを発行」の本当の狙いは?
──まずはじめに、京都フュージョニアリングさんのSO設計の背景について伺いたいです。
石原:京都フュージョニアリングは4名の共同創業者が設立したスタートアップです。いわゆるディープテックと呼ばれる領域の事業を手掛けており、長い時間と多くの資金をかけて事業を成長させていく必要があります。一方で従業員に対しては、それほど多くの給与を支払えない状況がありました。それでも「この事業のために一肌脱ごう」と、前職に比べて給与を下げたかたちで入社してくれた従業員も多くいます。そういった従業員のモチベーション維持を目的にSOを設計しました。

上之段:それに加えて、我々は日本だけでなく、米国や英国、ドイツ、カナダの4カ国にあるグループ会社等の従業員にもSOを付与しています。
当社は海外でも事業を展開しているため、現地の採用候補者にとって魅力的な制度にしなければなりませんでした。しかし、日本のSO設計の多くが、そのまま海外では通用しないという課題がありました。だからといって、京都フュージョニアリングのメンバーとして一緒に事業を成長させていくのに、国ごとにSO設計を変えるのは少し違います。そこで、それぞれの国の税制に合わせたSOを設計・付与することにより、基本的には同じ内容になるようにしました。ドイツに関しては税制非適格SOになりますが、今後も可能な限り現地の制度にあわせたかたちで発行していく予定です。
──日本を含めて5カ国それぞれの税制に合わせたSOを発行するのは、とても大変そうです。
上之段:今も大変です。ただ、国が違えば法律も考えも異なるので、仕方がないところではあります。

実は、当社では行使価額1円の税制適格SOを出したかったので、日本の税制改正が施行されてからスキームを大幅に変更し、新たにSOを付与し始めました。新しいスキームの方が従業員に魅力的だったので、過去のスキームで付与したSOを放棄してもらい、新しいスキームのSOを付与し直すということも実施しました。これに関しては、海外採用を始めたばかりのころに入社してくれた現地の従業員には少し待ってもらう必要がありましたが、丁寧に説明をくり返すことで理解してもらいました。
──それほど大変なのに、現在のSO設計にしようと思ったのはなぜですか?
上之段:これは私個人の考えも含まれますが、グローバル展開をしていくスタートアップとして「どの国で働いていても関係ない」という思想を持ちたいと思っています。だからこそ、難易度は高いものの、できるだけ同じ設計内容にしたかったのです。まだまだ発展途上ではありますが、この考えは貫いていきたいですね。
公平性を重視した末の「2年クリフ・月単位ベスティング」「退職時の持ち出しOK」
──京都フュージョニアリングさんのSO設計の特徴を教えてください。
上之段:おもに次のような特徴があります。
- 2年クリフ・月単位のベスティング
- 入社日起算
- 退職時の持ち出しOK
──米国では「1年クリフ」が一般的と言われていますが、京都フュージョニアリングさんでは「2年クリフ」なんですね?
上之段:そうです。我々のようなディープテック企業は他のスタートアップに比べて事業にかける時間が長いため、「1年でどこまで成し遂げられるのか?」という疑問がありました。海外のディープテック企業のSO設計事例を見てみると「2年クリフ」としているところも多かったため、我々も合わせることにしたのです。
──「月単位のベスティング」「退職時の持ち出しOK」についてはどうでしょうか?
上之段:先ほど石原が話したとおりですが、当社にとってのSOは「従業員のモチベーション維持」を目的としているため、公平性を担保しつつ定期的に付与していきたいという考えがありました。

公平性を考えると、外せない論点が「ベスティングのタイミング」「退職時に持ち出せるかどうか」です。
従業員はみんな、日々、本当に頑張ってくれています。そのため、上場前に退職する人と上場後に退職する人では貢献度が異なるかというと、必ずしもそうとは言えませんよね。できれば長く一緒に働きたいですが、SOがあることで従業員の次のチャレンジに制約をかけることはしたくないと思いました。
そしてこれは小西(京都フュージョニアリング共同創業者でCEOの小西哲之氏)ともよく話していることなのですが、従業員が会社を通じて成長し、次のチャレンジに向かうことは、1つの選択肢としてあっていいと思っています。SOはこれまでの貢献に対する正当な報酬として支払うべきだと考えました。
このような考え方を踏まえ、当社ではSOの起算日を「入社日」にし、2年以上在籍していれば月単位でベスティングできるようにしました。また、退職時の持ち出しについては「2年以上在籍してベスト済み分のみ退職時も持ち出しOK」にしました。
Nstock上で想定キャピタルゲインを社内のエンジニアたちに見せたら…?
──「月単位のベスティング」はいい設計内容だと思いつつ、月単位となると運用も大変そうだと感じましたが?
上之段:正直、Nstockがなければ実現していなかったかもしれませんね。
月単位のベスティングは、Excelやスプレッドシートでの手作業でやろうと思えばできなくもないです。とはいえ、SOは従業員の大事な資産になるものですので、一個人でメンテナンスするようなツールで管理すべきではないと考えています。他のサービスも検討しましたが、基本的なSO実務のほか、月単位のベスティング管理ができるのはNstock以外ありませんでした。
それに加えて、セキュリティの観点も重要でした。例えば、当社のSOは退職後持ち出しOKなので、個数などの情報を確認する手段が必要です。でも、退職後も社内のネットワークにアクセスできるのは避けなければなりません。Nstockはクラウドシステムなので、退職者は社内のネットワークを通さずにSO情報を確認できます。このような管理体制を築けるのはとてもいいですよね。
余談ですが、これまでは新株予約権の付与調書を手作業で進めていたところ、Nstockを使うと一発で出力できてとても楽でした!
寺内:退職者も含め、権利者である従業員が各々のタイミングでSOを確認できるのもいいですよね。なにより、Nstockがあることで、従業員が「いくら受け取れるのかわからないまま退職」となる事態も防げるのではないでしょうか。

──そう言っていただけてうれしいです!ちなみに、権利者の方々の反応はいかがですか?
上之段:Nstock上で想定キャピタルゲインを社内のエンジニアたちに見せたら「こんな感じになるんですか!」「すごいですね」と驚いていました。今はまだSOを付与することで手いっぱいなのですが、今後は従業員向けの説明会なども充実させていきたいですね。
ストックオプションは「多くの仲間と一緒に事業を拡大し、ミッションを達成する」ためのツール
──今後のSO運用について、教えてください。
石原:当社のSOの目的が「従業員のモチベーション維持」だからこそ、「多くの従業員が情熱を持って事業成長に向き合ってもらうにはどんな仕組みがいいのか」を考え続けていくことになります。これから企業・事業ともにフェーズが変わってくるので、それにあわせてSO設計内容も見直していくつもりです。
上之段:そういう意味でも、Nstockがあればシステム上での管理ができるので、事務コストなどの課題からSO設計時における選択肢を狭める必要がないんですよね。スタートアップによっては一番ライトな設計がフィットするところや、上場をゴールにしたほうがいいところもあるかと思います。Nstockを活用することでベストな選択ができるのは一番のメリットかもしれませんね。

SOはスタートアップにとって最も重要な「多くの仲間と一緒に事業を拡大し、ミッションを達成する」ためのツールです。SOを最大限活用できるよう、制度設計や運用を工夫していくことが会社の成長ドライバーになると考えています。今後もNstockを活用しながら、より効果的なSO活用をしていきたいですね。
──京都フュージョニアリングさんがミッションを達成できるよう、陰ながら応援しております。本日はありがとうございました!
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